表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/28

第9話 ときめく彼女

「ね、お土産買おうよ」


 乗りたかったアトラクションもコンプリートし、もうすぐ閉園時間。

 隣を歩く一颯くんに提案してみる。


「お土産かぁ。一応秀真の分と、あと親……はいらないか」


 一颯くんの幼なじみの秋田くんには、私たちが付き合っていることを知らせている。


「自分の分も買いたいな。あ、あと、一颯くんとおそろいでなにか買いたい」


「そうだな。キーホルダーとか」


「うんうん。()()()()で」


 さすが日本を代表するテーマパーク。お土産屋さんはそこら中にある。


 とりあえず目についたところから入って、3件目で買うことにした。



「これはどう、かな……」


 商品棚から1つ取り出す。銀色のチェーンのアンクレット。やっぱりテーマパークのキャラクターモチーフで、大人っぽすぎず、適度に可愛らしかった。

 それにアンクレットなら……


「靴下に隠れるから、学校にもつけていけるし」


 バレずに、学校でもおそろいにできるし。

 一颯くんはこんなのあるんだ、としばらく眺めたあと、手に取った。


「確かにいいな」


 ……良かった。

 学校でもこっそりおそろいにしたいなんてお願い、ちょっと引かれるかと思ったから。だって本当の理由は、独占欲だけ。


「あとは秀真の分、か……天音は他にはいいの?」


 一颯くんが私の手の中のカゴを見て言う。中に入っているのは、自分へのお土産と、あとはアンクレット。

 頷くと一颯くんは私のカゴを取った。


「今日は仲直り記念のデート? みたいなののつもりだったし、俺が払うよ」

 

 ……あぁ、そういうことか。

 たぶん、今日の遊園地デートだって、計画されてたんだ。分からないけど。

 だって、普段奢るのは私の方だ。私のパパは日本を代表する会社の社長。仕送りにも余裕がある……というより、多すぎてちょっと困るレベル。もちろん貯金に回してるけど。

 きっと、私と仲直りしたら。どこかに行こうとは思っていて。遊園地だとはかぎらなかっただろうけど、奢ろうとは思っていて。現に、チケット代は最初払おうとしてくれてたし。そのときは気づかなくて断ったけど。


 ――だからきっと、最近ずっと、節約してたんだ。

 

 お小遣いだって、バイトして稼いでるのに。

 バイトなんてする必要ない、全部私が払うって言っても、そこは筋を通したいから、て言った一颯くんが。


「……ありがとう」


 心の底から幸せだと思った。

 好きな人にこんな風に思ってもらえるなんて、本当に幸せ。

 口に出さず、相手にも気づかれないように(気づいたけど)なんて不器用だけど、そんなところも好き。

 

「ううん。レジ混んでるから、ちょっと店の前で待ってて」


「りょーかい。本当にありがとう」


 言われた通り店の前で待つ。店内も混んでたし、広いもんね。


 持ち歩いている携帯を取り出して、一颯くんの写真を眺める。

 もう何度も見た写真。10個目を見たときだった。


「あの、ちょっとお姉さん」


 声をかけられて、顔を上げる。

 目の前にはチャラい男性。たぶんナンパか、スカウト。

 何度もされたことはあるけれど、やっぱり慣れない。


「今事務所とか入ってますか?」


 スカウトか……


「いいえ」


「あの、俺、最近事務所作ったんですけどね、あの、そういうの考えたりは……」


「すみません」


 やんわりと断る。


「あ、じゃあ、今からお茶したりは」


「……は?」


 思わず低い声が出た。


「いや、だから、お茶して詳しく話聞かない?」


「興味ありませんので……」


 本当に、芸能活動にはなんの興味もない。だってそんなことしたら、一颯くんと一緒にいられなくなってしまうだろうから。


「うーん、勿体ないなぁ。君めっちゃ美人なのにね。売れるよ、絶対」


「だから興味ありませんので……」


「じゃあ連絡先だけでも」


 思ったよりしつこい。いつもはもっと早く解放してくれるのに。

 周りに助けてくれる人もいないし、どうしようかと考えていたら、ぽんと両肩を叩かれた。叩かれた、というよりも、そっと置かれたような感じ。


「あの、なにかご用でしょうか」


 この声、匂い、あと手の感触は……


「一颯くん……!」


「あー、彼氏さんいらっしゃったんですね。じゃ、失礼しました」


 男はしつこかったわりに、案外あっさり、去っていった。


「ありがとう、一颯くん」


「いいや、てかあいつ、かなりしつこかったな。レジしてるときから見えてたんだけどさ」


 一颯くんの機嫌がほんのちょっとだけ悪そうで、それが嬉しい。助けてくれたし。


「帰ろうか」


 するりと手を滑り込ませ、恋人繋ぎをすると、一颯くんも頷いた。


「うん、帰ろう」


 園内には、閉園時間を知らせるアナウンスが流れている。





「あ、雨」


 最寄り駅から歩いてすぐ、雨が降り出した。


「今日雨降るって、天気予報じゃ言ってなかったよな」


「言ってなかった」


 今日一日、いいお天気でしょう、とピカピカ笑顔で言ったお姉さんの顔が恨めしく思い出される。


「ほら。もう雨宿りするより帰った方が良いだろうから。風邪ひくよ」


「いいよ、こんなの一颯くんが風邪ひくじゃん」


 パサり、と頭からかけられたのは、一颯くんのジャケット。ふんわり、一颯くんの匂いが香ってくるけれど。


「俺は体強いから大丈夫」


 そう言ってはにかむ。


「……分かった。ありがとう」


 素直に受け取ってしっかりかけ直すと、ん? と一颯くんが不思議そうに声を上げた。


「どうしたの?」


「ん、いや、なんというか、デジャブっていうか、その……ま、でも、気のせいだよな」


 首を捻りつつ、前を向く。


――あぁ、もしかして。

 ちゃんと一颯くんは、覚えているのだろうか――

ブクマ、評価などお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ