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第8話 はしゃぐカノジョ

「やった〜! 着いた〜! デデニーランドだ〜!」


 デデニーランド。日本を代表するこのテーマパークに、天音は来たことがないらしい。

 というわけで現在、はちゃめちゃにテンションが高い。付き合ってから1回も、こんなにテンションの高い天音を見たことがないレベル。


「ねぇ、すごいよ、すごい! ほんとにシムデレラ城ってあったんだ……というか、日本に存在したんだね!」


 天音が大きな城を指さす。

 こう、なんというか、遊園地に来て喜ぶ彼女はちょっと子供っぽくて――やっぱり可愛い。


「ねぇ、一颯くんは来たことあるの?」


「そりゃまぁ、何回か……」


 ここら辺で1番でかいテーマパークなだけあって、訪れる機会は数回あった。


「ふぅん……」


 天音はなぜだかちょっとだけ不服そうで。


「今日はいろいろ回ろうね」


 腕を抱え込んできた。

 ……腕に当たるこの感触は、気づかなかったことにしよう。



 まだ入場時刻30分前にも関わらず、目の前には長蛇の列。やっぱり人気らしい。あと、やたらめったらカップルが多い。

 ……まぁ、俺たちもそうなんだけど。


「最初はどこから行く?」


 腕を絡めたまま、天音は聞く。パンフレットを広げて……


「まずファストパスを取ってから……」


「ふぁすとぱす?」


「うん、アトラクションが乗りやすくなるやつ」


「そんなのあるんだ」


「そうそう。で、取れたやつでアトラクションに乗る」


「へぇー」


 天音がパンフレットを覗き込んだ。俺より20cm近く背が低い天音の頭は、ちょうど俺の顔の真下くらいで。


「でもやっぱりお城の前で写真は撮りたいよね」


 パンフレットをまじまじと覗き込む天音。


「あと、ジェットコースター乗りたいな」


「ジェットコースターか」


「苦手?」


「いや、普通に好き」


「良かった」


 ほっと息をつく。どこに行きたいか話していたらいつの間にかゲートは開いていた。




 午前中だけでいろいろなところを回った。天音がはしゃいでじゃっかん小走り気味に移動したからかもしれないし、思ったより人が少なかったからかもしれない。


「どれも美味しそう。お腹すいたね」


 入ったレストランのメニュー表を見ながら天音が言う。 天音の頭には、このテーマパークのキャラクターをモチーフにしたカチューシャがつけられていた。俺も同じのをつけている。


「一颯くんはなににするか決めた?」


「うーん、フライドチキンバーガーかな……」


「そっか……私はチーズバーガーにしよう」


 わりとあっさり決まった。

 手を挙げると店員さんが来てくれる。オーダーして、メニュー表を渡した。


「ねぇ、午後どこ回る?」


「俺は来たことあるしどこでもいいよ」

 

「写真とか撮りたいな……せっかく2人で来たんだし」


「そうだな。同棲してから初めてのデートだし」


 "同棲""デート"という言葉にはまだ慣れなくて、天音もほんのちょっとだけ頬を赤くする。


「なんか恋人っぽいね」


「……そうだな」


 なんだかちょっと気恥ずかしくなったところで、ハンバーガーが届けられた。


「……おいしい」


 天音はあまりジャンクフードを食べたことがないらしい。カプリと小さな口で噛みつく。


「うん、おいしいな。外のご飯ってやけにおいしいし」


 ハンバーガーを口に含む。最近は天音の健康的な料理――魚の煮付けとかタケノコを煮込んだやつとか、豆腐ハンバーグとか――ばかり食べていたから、久しぶりに濃いものも美味しい。


「あっ、」


 半分ほど食べたところで、天音がなにかに気づいたように声を上げた。


「ソース、付いてるよ」


 口許を指でとんとんと叩く。天音に示されたその位置に手を伸ばすけど、そこにソースはなくて。


「違う違う、こっちこっち」


 ふふっと天音は上半身を伸ばす。

 そのまま頬に触れて――


 壊れ物を扱うかのように

 撫でるように、すくいとった。


 ソースのついた親指をカプ、と口に含む。


「えっ……」


 動揺して、ハンバーガーを落とした。無事お皿の上に着地。崩れたりもしていない。していないけど……


「も、もう取れたから大丈夫」


「あ、う、うん。ありがとう」


 顔を真っ赤――いや、首まで赤くして天音は目を逸らす。照れたときの癖なんだろか。また手であおいでいて。

 ドッドッ、と心臓が大きな音を立てて鳴るのを感じた。天音まで、聞こえてるかもしれない。


「た、食べ終わったら、次はミキーの家でも行こう。ジェットコースターだと酔っちゃいそうだし」

 

「そ、そうだね」


 それよりもまずは――心臓を落ち着かせるための時間がほしいな、なんて。


【あとがき】

わりと冒頭で天音ちゃん、不服そうにしていたのは、一颯が()()()()()()()()()と言っていたからです。

天音はそこそこのお嬢様なのであまりテーマパークに来る機会がなく、だからこそはしゃいでいたのですが、自分ちょっと子供っぽいな、ていうか、前に来てたのが女の子とだったらどうしよう、と思ったからです。

天音は普段奥手なくせに、嫉妬したりなんやかんやすると、言葉で問いただすんじゃなく行動に出てデレるタイプなので、あんなことになりました。

ここまで読んでいただいて、本当にありがとうございました。

 

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