第7話 ペアルックをしたいカノジョ
「ごちそうさまでした」
朝ごはんを食べ終わり、手を合わせる。
お皿洗いは、今日は天音の役目なので、天音は台所へと向かった。
俺は先に用意するべく、歯を磨いた。自室のロッカーからワイシャツとスウェット、スラックスを取り出す。あとカバンと。
白いワイシャツの上に白いスウェット、それから黒いスラックスという雑誌そのままの格好をすると、天音を手伝いに行った。掃除機は……まぁ、今日くらいはいいだろう。
「天音、なんか手伝えることある?」
パジャマのまま皿を洗う天音に声をかける。お皿はほぼなくなっていて、手伝えることはなさそうだ。
「ううん、今洗い物終わったから、ないよ」
首を振る天音。
「あっ、一颯くんのスウェット、似たやつ私持ってるよ」
俺の服装を見た天音が嬉しそうに声を上げる。
「私も着たいな。ペアルック、してみたい。一颯くんってそういうのいける人?」
「うん。あんまり恋人っぽいことしてこなかったもんね」
同棲前、ラブラブはしてたけど、公衆の面前で手を繋いだりはあまりしなかった。だからこうなんというか……憧れはある。
「ちょっと待っててね! 用意してくる」
パタパタと走っていく天音。
しばらくして、白いスウェット、黒いショートパンツを持って出てきた。
出てきてから、ハッと気づいたように、部屋に戻っていく。
数分ののち、出てきた。どうやら着替えていたらしい。
白いスウェットを黒いショートパンツでインしている。ショートパンツのチャックには銀色のリングが付いていて、どこか大人っぽくまとめられていた。髪とかセットしてなくてボサボサのままだし、化粧もしていないけど、世界で1番可愛いと言える自信がある、と思えるほどには可愛かった。
「どうかな。似合うかな」
100点満点……いや、それどころじゃないほどの笑みを浮かべる天音。ちょっとだけ恥ずかしそうにしてるところが、可愛さを引き立てている。
「うん、似合ってると思う…………いや、めちゃくちゃ可愛い、と、思う……」
似合ってる、だけよりも、可愛いと言われた方が女子は嬉しいんだとねぇちゃんから聞いた。だけど改めて可愛いと言うのは、やっぱり恥ずかしくて。
「ほんとかな……ありがとう」
天音は少しだけ頬を上気させて嬉しそうに笑う。
ただ……ショートパンツの丈がもうちょっと長かったら良かった。
いや、短くても可愛いんだけど。めちゃめちゃ可愛いんだけど、目のやり場に困る。
ショートパンツからは真っ白で健康的な太ももがまっすぐに伸びていた。
あとはまぁ……他の男には見られたくないし。
「じゃ、じゃあ、髪の毛セットしてメイクしてくるね」
今度は洗面所の方に小走りで行く。15分くらいして、ハーフアップでお団子にして軽く巻き、三角形の金色のヘアクリップをつけた天音が出てきた。メイクはしてるっぽいけど……なにをしてるかは分からない。ただリップの色が赤系統なのは分かった。
2人とも用意をして家を出る。
「ねぇ、一颯くん」
「なに?」
「今日、楽しみだね」
マンションの玄関を出てすぐ、天音が眩しい笑顔を浮かべる。
それから……手を絡ませた。
自分より少しだけ体温の低い手。細くて、小さくて、しっとりしている。俺とは違う、女の子の手。
何度繋いでも、まだ慣れない。
目を合わせようとすると、そらされた。耳が真っ赤になっているのが可愛い。
「……遊園地でも、手を繋いでいいかな」
「……俺も」
「ん?」
「繋ぎたいな……」
少しだけ手に力を込めて言う。
「そっかぁ」
ふふ、と俯いた。ごく小さい声で、そっか繋ぎたいんだ、と聞こえてくる。心の底から嬉しそうな、まるで絞り出したような声に、思わずドキリとした。
「嬉しいな」
顔を上げたときのあのはにかむような天音の笑顔を俺は、一生忘れることはないと思う。