第4話 お風呂に入るカノジョ
帰りも手を繋いで、コンビニから家に帰った。
天音の買ったソフトクリームと、俺のスー○ーカッ○を冷凍庫に入れる。
天音はと言うと、お風呂に入る支度をしていた。
まだちょっとぎこちないけれど、同棲前の感じが戻ってきている気がする。
「あ、じゃあお風呂お先にいただきます」
「ど、どうぞ。ていうか、天音の家だから俺がいただく方だけど……」
一声かけてから、天音は脱衣所に向かっていった。
……同棲を初めてちょうど2週間ほど。とは言いつつここ1週間はめちゃくちゃ天音が冷たかったからほとんど喋ってなかったし、その前の1週間もちょっと冷えた関係になってたから、ある意味同棲初日みたいなもの。
俺は気づいてしまった……いや、気づいていたけど、気づかないふりをしていた。ずっと天音の塩対応について悩んでたし。
彼女が入ったあとのお湯に入るのそこそこ緊張するじゃん!?
なんで今までなにも考えずに浸かってたんだろう ……
意識してからドクドクと鳴り続ける心臓を落ち着かせるため、賛美歌を聴いたり般若心経を聴いて煩悩を浄化しつつ、心を無にして天音を待つ。
……ていうかよく考えたら、天音のパジャマ姿、あんまり見てなかったんじゃないだろうか。最近テスト期間で天音はずっと勉強してたし、そもそも見せてくれなかったし、まぁ俺も部活と勉強があったしで……
考えれば考えるほど倦怠期のカップルみたいだったな……
「あの、お風呂、上がりました」
ひたすら悶々としていたら、いつの間にか天音が上がってきていた。
「お、音楽なに聞いてたの?」
「いや、まぁ、いろいろ」
「そ、そっか!」
全ての穢れを落とした純度100%の笑顔で返す。必死で心の平穏を保ち、天音の方を見やった。
何気に初めてみるかもしれないパジャマ姿。
くすんだピンク色のモコモコのパーカーに、同じ素材のショートパンツ。そのショートパンツからは真っ白でスラっとした脚が伸びていて、だけど決して細すぎず、なんというか、適度に筋肉と脂肪がついていそうな、そんな脚。
思わず目がいく胸元は、大きすぎず、だけど決して控えめじゃなく、ちょうどいい大きさ……いや、それよりも少し大きいくらいで。
そこからすぐ目を離し顔を見ると、なにやら顔を真っ赤にして、モジモジしつつ、手でパタパタあおいでいる。
ついでにパーカーのフードにはクマっぽい耳が着いている。
要するに、死ぬほど可愛い。
「あの、そんな見られたらちょっと恥ずかしいなっていうか……」
「あ、そうだよね、ごめん!」
逃げるようにお風呂に向かった。
☆☆☆☆☆
お風呂から上がると、天音はソファーに座っていた。
「あ、一颯くん! アイス食べよう」
よく見るとショートパンツにも、クマのしっぽがついていた。可愛い。
「ソファーで食べる? 持ってくよ」
お風呂からソファーに行くまでに冷蔵庫がある。アイスとスプーンを持っていくと、天音は両手で受け取った。
「やっぱりお風呂上がりはこれだよねぇ」
「最高だよな」
ソフトクリームを小さな口でチビチビ舐める天音。
確かにちょっと熱めのお湯のお風呂のあとのアイスは最高だ。
「テストも終わったしさ、アイス食べたらゲームしよう? 明日は休みだし」
「そうだな。それと明日どっか行こうか」
「行きたい! どこ行く?」
「うーん」
アイスのスプーンを持ちつつ考えていると、天音はスマホを取り出した。
「イベントとかあるかなぁ」
「イベントかぁ」
「あ、これはどうかな……?」
天音に見せられたスマホの画面を覗くと、遊園地のキャンペーンが示されていた。カップル割引、らしい。しかも写真も撮ってもらえるとのこと。
「楽しそうだね」
ただでさえカップルのデートスポットとして有名なところだ。楽しいに決まってる。
「じゃあ、決まりね!」
天音はスマホの電源を切ると、側に置いた。それから、垂れかけたソフトクリームをすくうように舐める。
「アイス食べたら、マ○オカートしよう。テレビの方で」
嬉しそうに天音が言う。
なんというか……ずいぶん雰囲気が柔らかくなったし、その……すごく積極的になった、気がする。
「俺、けっこう強いよ」
「私も強いよ……まぁ、一颯くんには叶わないかもしれないけど」
言い終わってにこりと笑い、口にコーンを放ると、天音はソファーから立って、ついでに俺のカップも持って、台所まで捨てに行ってくれた。
☆
「……このくらいの距離の詰め方なら、まだ見えないよね」
黒いものを飼った天音の呟きは、リビングでゲームの用意をしていた一颯には聞こえなかった。
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