第3話 実はちょっとヤンデレな彼女
私は、いわゆる"ヤンデレ"である。
そう、あのメンヘラとかヤンデレとかのヤンデレ。
ちなみにググると、『相手への好意が強く高まりすぎた結果、病的な精神状態になってしまうこと。もしくはそうした精神状態』とある。
……まぁ、うん。確かにそうだ。ちょっと自覚はある。
今付き合ってる彼氏の一颯くんのことは5歳のときから……つまり10年近く好きだし、絶対同じ高校に通いたくて進路相談盗み聞きしたし、もちろんプリントも盗み見て確認したし、一人暮らしだって聞いてからは家に他の女を連れ込まないか気が気じゃなくて、同棲に持ち込んだ。あ、あと携帯にGPSも、こっそりつけてる。
つまりはまぁ、ヤンデレ、という部類に入ると思う。
だけど、重い女の人が苦手な男性は多いらしい。
だから私は、一颯くんを束縛しない。束縛して、嫌われたくない。距離を縮めすぎて、嫌われたくない。
だって一颯くんに嫌われたら……本気で生きていけない。
そう思って、ヤンデレだって絶対バレたくなくて、そしたら関わるのが怖くなって。
いつの間にか塩対応になって、一颯くんに聞かれても塩対応で、どうすればいいか分からなくなっちゃって。
「ごめん天音、ここどうやって解いたらいいか分かる?」
「……あ、そこは分かるよ」
目の前で顔をしかめつつノートを広げる一颯くん。彼の声に我に返る。さっきから一緒に宿題をやっていた。同じクラスだから範囲も一緒だし、ついでに明後日提出っていうのも一緒だ。
一緒、という言葉の響きに胸を高鳴らせながら、解き方を教える。
「ありがとう」
にっこり微笑む一颯くんを至近距離で見られるのは、本当に心の底から幸せだと思う。
「ねぇ、今日はお風呂入ったあとアイス食べようよ」
さっき教えた問題に真剣に解いている一颯くんに提案すると、彼は顔を上げた。
うーん、と頭を悩ませる様子。
「確かもう無かったから、コンビニまで一緒に買いに行こうか」
宿題を終わらせて、部屋までアウターを取りに行った。外は少し暑いけど、さすがに半袖じゃ寒いから。
モコモコのジャケットを羽織ろうとロッカーに手を伸ばすと、一颯くんのパーカーが見えた。彼がここに持ってきたんじゃなくて、私がこっそり取って来てしまったものだ。
……だって一颯くんの匂いは落ち着くから。
たまに一颯くんが部活で遅くなったときとか、バイトしているときとかに抱き締めて寝転んでいたら、癖が着いてしまった。というか、寝るときに一颯くんの上着がないと落ち着かなくなってしまった。
カーディガンは、故意じゃなかったけど……
思い出したら顔が赤くなるのが分かって、慌ててパタパタと手で扇いだ。ポシェットに財布を入れて、部屋を出る。
カーディガンはクシャクシャになっちゃったから、あとでアイロンして返そう。風邪ひいたらダメだし……あ、でも、看病するのはいいかも……
「お待たせ」
玄関で待っててくれた一颯くんに駆け寄って、家を出た。
薄暗い道を、一颯くんと一緒に進む。
「ごめんね、カーディガン。明日返すね」
ひとしきり喋ると、話題がなくなって、なんとなく謝る。
「あ、いや、それは別に。でも学校のカーディガンだとちょっと困るから、できれば他のにしてほしいな、とは……」
「……嫌じゃないの?」
「別に嫌では……そ、それよりもあれは、その、どういった状況であんなことに……」
暗い中でも分かるほど、耳が真っ赤になっている。なんというかその……ちょっと可愛い。
それに嫌じゃないって言ってくれたのは、嬉しい。
「今日部活が休みになって、家に帰ったらその、カーディガン私が持ってたの思い出して、ちょっとほつれてるところ直してたらウトウトしちゃって……」
「それで帰ったら靴があったんだ」
「うん」
「カーディガンを持ってたのは……」
「繕おうと思って部屋に持ち込んだまま、忘れてた」
「そうだったんだ、その……繕ってくれてありがとう」
こんなときでもちゃんとお礼を言ってくれる一颯くんがやっぱり私は好き。ほんとに、ほんとに世界で1番、大好き。
「だって、一颯くんの匂いは落ち着くんだもん」
からかい気味に言ってみると、一颯くんはキュッと手を握ってきた。
ドキドキしつつ、握り返す。緊張のせいかすごく体が熱い。
「ちょ、ちょっと分厚い上着選んじゃったかなぁ。ア、アイスが楽しみだね」
なんだか慌てて口を開くと上ずった声が出て、一颯くんはクスッと笑った。
……けど、私よりも一颯くんの手の方が熱くて、汗ばんでいるの、分かってるんだから。
彼氏のカーディガンを抱き締めて眠る女の子、可愛いなぁという思いつきで書き始めたこの小説、天音の独白までかけてほんのちょっと安心しています。
それで、あの、唐突なんですが……照れたときに手で顔をあおぐ女の子めっちゃ可愛くないですか?めっっちゃ可愛くないですか?
少なくとも作者の性癖ピンポイントです。
たまにあとがきで性癖を語るやもしれませんが、今後もこの小説をよろしくお願いいたします!!