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第26話 日曜日のカノジョ

 日曜の昼になって、紅音ちゃんは帰っていった。予定よりはちょっと早いけど、明日学校あるもんな。

 天音のお母さんが迎えに来て、玄関先で連れて帰っていったらしい。帰りたくない、と泣いて大変だったとかなんとか。またいつでも来てね、ということで帰っていったらしいんだが……


「まぁ、そんな感じで一颯くんのことはバレなかったよ」


 へへ、と天音が笑う。


「良かった。マジで怖かったもん」


「一応一颯くんの部屋は封鎖してたし、2人の物は隠すようにはしてたし……一颯くん自身も外に出てもらってたし。対策は完璧だったから大丈夫だとは思ったんだけどね」


「まぁ、あそこまでしてバレることは確かにないよな」


 天音はまだお父さんに俺のことを話してないらしい。絶対に反対されるから、というのが主な理由だった。

 一応それは俺も聞いていて、半ば博打みたいな同棲ではあったんだけど。

 まぁ、お母さんがここに来ることもほぼ確実にないし、お父さんはそもそもあまり日本にいないらしいく。というか、忙しすぎて来る暇がないそうだ。そりゃ、どっかの社長だもんな。


 そんなわけで紅音ちゃんには俺の存在を隠すように頼み込んで、お母さんが部屋に入ってきたときのために俺の荷物を隠す、という作業を昨日からやっていた。

 俺だって天音と離れるのは嫌だし。俺の親自身は、同棲どうこうの前に天音と仲良くなってあっさり許可が出たけど。女の子の親だし、同棲とか心配だよな。


「ご協力本当にありがとうございます」


「いえいえ。こちらこそ同棲してくれてありがとうございます」


 実家よりこのマンションの方がよっぽどでかいしな。家賃払ってもらってるんだから感謝するのはこっちだ。


「うん……ありがとう」


 少しだけ頬を染めて天音が微笑む。最近、こういう顔で笑うことが増えてきた気がする。

 たぶん他の人には見せない、思い込みかもしれないけど、俺にしか見せない笑顔。

 普段のと全然違って、ドキッとする。


「なんかあれだよな。紅音ちゃん帰っていったから、ちょっと寂しいよな」


「よく喋るしよく動いてたしね」


「な。あとよく怒ってたしな」


 ほんの少しだけ思い出し笑いする。

 早川〜という紅音ちゃんの怒声が聞こえてきそうだ。


「あ〜、明日から学校があるのか〜」


「あっという間だったな。秋祭り、楽しかったけど」


「これから文化祭も始まるし、もっと早くなるんだろうなぁ」


 うぅ、と天音が頬杖をつく。


「メイド執事喫茶だもんな」


「でも一颯くん執事服着ないでしょ……確か明日までじゃなかったっけ。全体的な決定」


「……それはつまり?」


「ズルいなぁ。見たいのになぁ。絶対かっこいいのになぁ」


 ニタァ、と天音が笑った。ちょっと意地悪な笑み。


「えぇ。でも秀真だって着ないし」


「むぅ。私はゴスロリ着るのに」


 天音が頬を膨らます。どんなに言われたって、執事だけはやりたくない。……あ、メイドも。

 

 ははっと苦笑いすると、携帯が振動した。LI○Eだ。秀真から。

 文面を見て凍りつく。


『なぁ、一颯。お前も執事服着ろ』


 天音はテーブルの反対側から身を乗り出して見て、また笑みを浮かべた。

 どういうこと?、と返事する。


『いやさぁ、彼女に脅されてさ。俺ここで着なかったらコミケでコスプレしないといけないんだわ協力しろ』


「あれ、秋田くんって彼女いたっけ」


「いやいないはず。できたのかな。この2日で」


 そんな話、送ってこなかったんだけどな。LI○Eで。


「それで一颯くんどうするの? 着る? 着る?」


 天音がはしゃいでいるけどどうしよう。本音を言えば、なにがあっても着たくない。地球が滅亡しても着たくない。


『頼む俺の命がかかってるんだ』


 文化祭にしては明らかに大げさすぎるLI○Eがまた来て、俺はため息をついた。一体なにがどうなったらそんなことになるんだ。


「ね。着よう。絶対かっこいいってば。写真だって撮りたいし……もっと言えば」


「もっと言えば?」

 

「私、裁縫係だからもしかしたら一颯くんの執事服、作れるかもしれない、し……好きな人の服作るの夢だった、し……」


 顔が真っ赤だ。

 可愛い。めちゃくちゃ可愛いけど。執事服着たくはない。あ、でも天音が作ったやつなら……


『ちょ、マジでお前が着なかったら俺が死ぬし今次のコミケでの女装、ていうオプションもつきそうなんだわ死ぬ』


 俺は心を無にした。無にして、分かった、とそれだけ送った。あくまで親友の命を救うためだ。天音がはしゃぐ。

 俺の命とも引き換えに、今日もこの家は平和だ。


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