第23話 秋祭りのカノジョ
「あたし金魚すくいがしたい」
「金魚すくい? あっ、こっちだ。一颯く〜ん、こっちこっち」
紅音ちゃんが天音の手を引く。
金魚すくい、の文字を見つけた天音が大きく手を振った。
浴衣が届いてからまた数日。
天音と紅音ちゃんと秋祭りに来ていた。
秋祭り、とは言っても、ほとんど夏祭りと変わりないみたいだ。
ネットで調べてみたら神社のお祭りだったり、この時期に浴衣を着るのはNG、なんて書いてあったから緊張したものの、周りはみんな浴衣。良かった。
まぁ、一応ここの秋祭りの写真はみんな浴衣着てたしな。それが伝統になってるのかもしれない。
当然だけど、天音はあの試着の日よりもおめかししていて、髪を編み込みして後ろで結び、頭の横の部分に髪飾りをつけていた。朱色っぽい花を模したものだ。
紅音ちゃんは後ろで編み込みのお団子にしてもらっていて、ピンクの髪飾りとかんざしを刺していた。
1人で全部コーディネートした天音のセンスが光っている、というかよく似合っている。
「家でペット飼ったことないから、金魚飼ってみたいの」
「金魚なぁ」
確かにお祭りで飼った金魚が初ペットになるのは定番かもしれない。
紅音ちゃんがお金を払う。天音の方を見ると手を振っていた。そのままボーッとしていると強く手を引かれる。
「早川もやって!」
「分かった分かった」
紅音ちゃんに言われるがまま俺もおじさんに小銭を渡した。浴衣の袖を引っ張ったまま、紅音ちゃんは水槽へとずんずん進んでいく。
「早川、どうやったら上手く取れるの?」
水槽の側に座って、紅音ちゃんは首を傾げた。
「金魚を待ちぶせしてから、ポイの側面に上手く乗っけて、斜めに引いたら取りやすいらしいよ」
「むぅ……ポイ?」
「えっと、金魚すくうやつ。このプラスチックの輪っかの、間に紙張ってるやつ」
「これか……」
紅音ちゃんはポイを見つめたまま、気難しいげな顔をした。
「ちょっと待ってね。1回やってみる」
テレビかなにかで見た情報を元にやってみると、案外するりと取れた。昔けっこう苦手だったんだけどな。
「そうやったらいいの?」
「うんうん。手、添えようか?」
「いい。自分でやる」
紅音ちゃんは動きを反芻するように、簡単にすくって見せた。やっぱりこの子要領が良いし、1回でコツをつかむ。
「取れた!」
「おおっ! すごい!」
「まだすくっていいの?」
「ポイが破けて金魚が取れなくなるまでだったらいいんだよ」
「やった!」
紅音ちゃんは目をキラキラさせて、再び金魚に向き直った。俺もそれを横目にすくっていく。
「早川、使えなくなった」
しばらくして、紅音ちゃんがそっとポイを差し出した。確かに、もう使えるところがない。
……でも、紅音ちゃんの持っているボウルの中にはかなり金魚がいるし、もう取れない方がいい気がする。
「早川は、もう終わる?」
「うん、俺ももう破れそう」
「ふーん、早川はどれくらい釣れたの?」
「7匹」
「あたしはね、15匹釣れたよ。早川少ないね」
「……マジ!?」
ボウルをもう一度見たが、確かにそれくらいいそうだ。
「紅音ちゃんゲーム系上手いよな」
「早川とお姉ちゃんが弱いんだよ」
なんか小学校低学年――8歳くらいだったかな?――の言葉って攻撃力高いな。
「天音のとこ戻るか。待ってるだろうし」
「そうだね。あとあたしね、わたがし食べたい」
「じゃ、次はわたがし行くか」
「やった〜!」
紅音ちゃんがガッツポーズをし、金魚屋のおじさんにもらった金魚15匹が袋の中で揺れる。俺の分は戻してもらった。水槽とかうちにないから。
「天音、次紅音ちゃんわたがし行きたいって」
金魚すくいの前で立っていた天音に声をかける。そういえば、珍しく着いてこなかったよな。俺と紅音ちゃんに。
「あ、じゃあ次はわたがし行こっか」
「お姉ちゃん、いいの?」
「いいよ。行こう! ……一颯くんは行きたいとこある?」
「俺は……お腹すいたから焼きそばかな。天音はないの?」
「私はりんご飴」
「見事に分かれたな〜。とりあえず適当にブラブラ歩いて、見つけたら入ろう」
「うん」
天音が頷き、紅音ちゃんが俺たちにそっと手を伸ばした。
自然と、紅音ちゃんを挟んで手を繋ぐ形になる。
「手繋ごう」
紅音ちゃんがちょっとだけ笑う。わりとポーカーフェイスな紅音ちゃんが笑うのは珍しい。
「あっ、わたがしあったよ」
天音が指さしたところには、確かにわたがし屋。
紅音ちゃんが歓声を上げる。
……わたがし屋のおじさんに、若い家族だと勘違いされて恥ずかしくなったのは、そっと胸に留めておこう。
秋祭りが由緒正しい神社の祭りだと知らず、めちゃくちゃ焦って書きました
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