表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/28

第22話 浴衣を着るカノジョ

 紅音ちゃんが来てから2日。

 なんだかんだ言ってだいぶ懐かれたような気もする。天音が大好きなのか未だに俺のことは認めないだのなんだの言っているけど、現に……


「よっし。また勝った!」


「また負けた〜」


 足の間にちょこんと収まっている。

 そんな紅音ちゃんの手にはコントローラー。

 放課後、宿題も終えた俺たちは、日課のようにゲームをしていた。車を走らせるやつはもう飽きて、今はタコとイカが、インクを撒き散らすゲームをやっている。

 天音はゲーム全般が弱いのか、ここでも負けていた。一方紅音ちゃんは要領が良いらしく、連勝している。俺も負けた。


「次は負けないから。青なら勝てる気がするの」


「お姉ちゃんそれは気のせいだよ」


 ふんす、と天音が新しいステージを選んだとき、ピンポン、とインターフォンが鳴った。膝に座り直した紅音ちゃんを下ろし、見に行く。

 宅配便みたいだ。荷物、けっこう大きいな。なんだろう。

 印鑑を押し、受け取って戻ってくると、珍しく天音が押していた。


「やっぱり青なら勝てそうな気がしたんだよね」


 結果、しっかり負けたけど。






「それ、さっき届いたやつ?」


 ゲームが終わったあと、天音がワクワクした面持ちで箱を見つめる。


「あれかもなぁ」


「あれ?」


「うん……浴衣!」


 カッターでダンボールの蓋を開けると、天音がネットで頼んでいた深緑色の浴衣が出てきた。それに帯と簡単な小物。

 その下は小さな子ども用のしぼりの浴衣だった。薄黄色に、朝顔の柄のものだ。紅音ちゃんのだろう。

 それでその下は……


「じゃーん、これが秘密って言ってたやつ。一颯くんの分も買っておいたの。一緒に浴衣着たくて……」


 紺色の、男性用の浴衣。


「ありがとう」


 服とかを買ってもらうの、じゃっかんヒモ感みたいなのを感じてしまうけど。一緒に着たいと言ってもらえるのは、やっぱり嬉しい。少し照れ笑いする。


「とりあえず……紅音と自分のやつ着付けしてくるね」


 天音が紅音ちゃんの肩を押す。


「秋祭りだったっけ? その浴衣?」


「そうそう。昨日話したやつね。紅音が来てからじゃ間に合わなさそうだったから勝手に選んだんだけど……これで大丈夫だった?」


 いつの間にか、紅音ちゃんには話していたらしい。


「私この柄好きだよ」


「良かったー!」


 ほのぼのした雰囲気とともに部屋へと消えていく背中を見送る。

 

「で、俺はこれ着てみたらいいのか……」


 手元には、浴衣。

 天音、あの一瞬で俺の浴衣のサイズよく分かったな……


「着付けの仕方はスマホで調べたら出てくる、かな」


 インターネット社会に生まれてよかった。





「どっちも着れたよ〜」


「お、2人とも似合ってる」


 着替えてからしばらく待っていると、天音と紅音ちゃんが出てきた。2人とも髪はセットしていないけど……可愛い。

 天音は大人っぽく決められていて、髪色ともよく合っている。帯も薄い黄色で上品だ。

 紅音ちゃんも、よく似合っていた。あまり言うと、ロリコンみたいになりそうだからやめておくけど。


「サイズはピッタリだったから、返品しなくても大丈夫だった。一颯くんは?」


「俺も大丈夫だったけど……」


 天音が俺の浴衣を見てから、パチリと瞬きした。


「あぁ待って、それ死に装束になってる」


「え、マジで? 気をつけたつもりだったんだけど……」


 確かに記事には、絶対向きを間違えないようにと書いてあった。気をつけたつもりだったけど、反対だったみたいだ。鏡を見ながらしたからこんがらがったのかもしれない。


「ちょっと待ってね」


 天音が寄ってきて、帯を解く。

 一応シャツとかは着たままだけど……


「あの、天音さん。さすがに自分でやるから……」


「いや、私も慣れたいし! ここをこうやって、反対にすればいいんだよね……」


 2人分の着付けをしたからか、天音はもう慣れてそうだ。スルスルと、正しい風に直してくれる。

 いや、でも天音がやった方が早いとはいえ、さすがに恥ずかしい。

 髪がお腹に当たって少しくすぐったいし。


「あの、天音さん?」

 

 天音がこくんと首を傾げた。上目遣いなのがずるい。が、すぐまた作業に取りかかる。


「よしできた」


 トン、と帯の上から叩く。それから数秒経って、ハッとしたように真っ赤になった。目が泳いでいる。

 

「ああああの、なんかごめん」


「ああいや、ありがとう」


 タジタジとしたままの天音に両手で手を振る。

 気恥ずかしい空気になってしまった。どうしようかと頭を巡らせる。

 手を引かれて横を見ると、紅音ちゃんだ。グウゥ、と紅音ちゃんのお腹が鳴る。


「お腹空いた」


「夜食作ろっか! なに食べたい? スパゲティとか作っちゃう?」


 天音が早歩きで台所へと向かう。


「そうだな……紅音ちゃんはなに食べたい?」


「あたしはサンドイッチ」


「サンドイッチかぁ〜材料あった。今すぐ作るね」


 振り向いてちょっと天音が笑った。最初はぎこちなかったけれど、この家は今日も平和だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ