第21話 勉強を教えてくれるカノジョ
ゲームが終わったあと、とりあえず天音が紅音ちゃんをお風呂に入れ、寝かせた。天音のお父さんと連絡を取り、1週間うちにいることが決まったらしい。
「かなり派手な喧嘩だったんだって」
テーブルで向かい合わせに座って、天音が言う。
「お母さんもかなり怒ってるらしくてさ、それでとりあえず1週間うちにってことみたい」
ふぅ、と天音がため息をつく。
「そうだったんだ」
「そうそう。ごめんね迷惑かけて。もし嫌だったら、ホテルとか泊まってくれても良いから。紅音もあんなだし……」
妹が来たからだろうか。
なんだか一気に大人っぽくなった気がする。
「全然良いよ。むしろ家族にお邪魔してる形になってるし、俺」
「ほんとごめんね。秋祭りだってどうなっちゃうか……」
「秋祭りは一緒に行けば良いし」
「そうだけど……良い?」
「いや全然良いよ」
むしろ断る理由が見つからない。
「ありがとう」
ペタン、とテーブルに天音が張りつく。しばらくそうしたあと、タン、と椅子から立った。
「今9時半か。寝るまで時間あるね」
「うん」
「今日からわりとドタバタするだろうし、勉強しなきゃ」
「あぁ……」
今度は俺が机に張りついた。うぅ、と呻く。勉強は苦手だ。
期末はまだまだ先とは言え、全く勉強しなくて良い点が取れるほど余裕があるわけじゃない。文化祭の準備も忙しくなるだろうし。
「ふふっ。予習しようか」
「だね」
自室に置いていたリュックから勉強道具を取り出し戻ってくる。お風呂は……あとでいいか。
今なら天音に教えてもらえるだろうし。
教科書を広げ、次の単元の部分を読み込む。
「次は……数学だとここか」
「だねぇ」
「天音はもうここやったことあるんだっけ?」
「一応あるよ」
天音の家はでかい。
というわけで詳しくは知らないが小さい頃から英才教育を受けていたらしく、中学の頃にはもう高校数学をやっていたそうだ。家庭教師だかなんだかがついて。
そんな天音に教えてもらいながら問題を解き進めていく。天音の説明は、学校の先生よりもよっぽど分かりやすい。
「疲れたな〜」
「だね。でもかなり貯められたんじゃないかな」
数学の予習を始めてから2時間。ぶっ通しで古典、英語と進めていき、伸びをする。
久しぶりに脳みそを使ったから疲れた。
「じゃあ俺、お風呂入ってくるね」
「うん。いってらっしゃい。私は……もうちょっとここにいる」
「ベッドは、紅音ちゃんと一緒に寝るんだよな」
「うん……だけど、もうちょっとその……一颯くんと喋りたいし」
ほんの少し顔を逸らして。
耳を赤くして天音は言った。可愛い。
「あ、じゃ、じゃあ早めに上がってくるわ」
「う、うん」
なんだかつられて俺もまごつきながら、お風呂に入る準備をする。洗面所で顔を見れば、じゃっかん赤くなっていた。
「早く、上がってこよう……」
さすがに洗面所の声までは天音に聞こえてないよな。




