第17話 試着するカノジョ
何回か寝てしまったけれど難なく授業も終わり、放課後の文化祭準備が始まった。
今日の予定では、とりあえずメイド服や執事服(後に、男装女装アリで考えたらそう決まったらしい)を着る人を決めたり、あとは出し物について考えたりすることになっている。
「で、わたしたちが票取らなきゃいけないんだね、みんなのとこ回って」
B5ノートを持った西野が、隣でため息をつく。
どうやら回りに行くのがめんどくさいらしい。つくづく、西野って猫っぽいよなと思う。
「そうだな。まぁ、でも俺ら今仕事ないし、暇するよりはいいし」
「まぁ、そうだけどー」
ぷぅー、と頬を膨らませると西野は歩き始めた。まずは仲の良い女子のところに行って、いろいろ聞いている。今日はいつものツインテールではなく下ろしていて、肩あたりで揺れていた。
俺は、とりあえず男子の方から回ることにした。
暇そうな秀真から声をかけ、順々に回っていく。さすがに自分から着たいと言う人はいなかったものの、冷やかしで着ることになったり、メイド服を着るやつも何人かいた。
みんな嫌がると思っていたのに、案外盛り上がるものなんだなと驚く。
「終わったよー、そっちは?」
西野がノートをチラッと見せてきた。もちろん、天音の名前も書いてある。
「終わったよ」
「ふーん、案外いるもんなんだね。これお金足りるかな? 生地代だけですごいことになりそう」
西野が俺のメモを覗き込んで言う。
「だな。飾り付け、ご飯代……て考えたら、やばいかもな」
「でもみんな張り切ってるしな〜」
ぼんやりと西野が教室を見渡した。裁縫部の人たちは図面を描き、さっそく昨日下見で買った布を仮縫いするなどしている。
教室内は活気に溢れていて、みんなの顔も晴れやかだ。
「よし、いっちょ手伝ってくるか」
西野が腕まくりした。顔が無表情だから少し違和感があるけど、どうやら本気らしい。
なんというか、抜けてるところはかなり抜けてるのに、変なところでスイッチが入るのがマイペースで、やっぱり猫っぽい。
大道具の人たちとできるだけの準備をし、企画、デザイン部の指示を待つ。
衣装を着るやつらは採寸へと向かった。
「よく考えたら、高校始まってから初の文化祭なのか」
「だな。予想通り次々とカップルが誕生してるし……」
裁縫ができないため暇になり、秀真に話しかけると、秀真はまた遠い目をした。彼はただ今彼女募集中らしい。
秀真に恋人ができないのは、たぶん全く女子と喋らないからだと思うんだけどな。
「ねぇ、天音ちゃん。一旦これつけてみて」
裁縫組の方から不意に彼女の名前が出てきて、目を向ける。
どうやら昨日の夜、天音のために試作を作ってきた子がいるらしい。ゴスロリ系のメイド服を天音に着せようと言っていた子だ。確かに天音、映えるもんな。
「……これ?」
戸惑っているような声に内心首を傾げていたが、天音がつけてみて分かった。フリルがふんだんにあしらわれた、黒いヘッドドレスだ。
ゴスロリ系と言っていただけあって、中心にはリボンがバッテンでいくつも通してあり、端は大きな黒のリボン。ところどころビーズがつけてあったりレースが大量につけられていたりして、ずいぶん可愛らしい感じだ。それにクオリティがハチャメチャに高い。絶対売れるレベル。
とりあえず一言で言うと、天音によく似合っていてとにかく可愛い。
誰かが試着したのは初めてなだけあって、軽く歓声が上がった。
「うわぁぁ、似合ってるよ、似合ってる」
試作品を作ってきた少女が絞り出すような声で言った。
彼女もけっこう美人なはずなのに、かなり変わっていて、だからかあまりモテない、らしい。
いつもそう愚痴っているのをよく聞く。
ついでに天音にご執心らしく、こうしてメイド喫茶を提案したのも彼女だった。たぶん、天音のメイド姿を見たいがために。
「ありがとう、黒瀬さん」
天音がにっこり微笑み、ヘッドドレスを作ってきた少女が崩れ落ちた。
天音は家では甘えたりするのに、学校ではみんなに優しく、あまり特定の人と仲良くしているのは見かけない。
「私、頑張って作るね」
黒髪の少女――黒瀬 莉々亜が天音の肩に手をかけた。
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