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第15話 恥ずかしがるカノジョ

 ……結局。

 結局、一睡も出来なかった……


 でも仕方ないよな。寝る寸前にあんなことされたら、なんか寝れないよな。うん。仕方ない仕方ない。


 朝日が差してきて目が覚め、とりあえずどうにかして眠気を取ろうと洗面所に向かうと、天音がいた。顔を洗っている。

 後ろからおはよう、と声をかけると、ぴゃい、と変な声を上げて飛びのいた。


「お、お、お、おはよう、一颯くん」


「おはよう」


 心なしか顔が赤い。しかも少し、熱気を感じる。顔色も悪いし。


「もしかして熱ある?」


 こんな時間に、あまり天音は起きていない。

 俺の朝練がないときには俺より早く起きてるけど、それ以外は天音の方が遅い。

 心配しておでこへと手を伸ばすと、天音はもっと離れてしまった。


「あ、あの、熱はないから。大丈夫だから!」


「あ、そ、そう? なんかごめん」


「う、う、ううん。ご飯、そうだ、朝ご飯作ろっか! うん!」


 上擦った声で音を立てずに走り出す天音。今日は天音が当番じゃないんだけどな。

 様子がおかしい理由は、考える前に気づいた。


 きっと天音も俺と同じで、眠れなかったんだ。洗面所にいた理由は知らないけど、顔を洗ってたか、それかメイクでもしてたんだろう。途中だったから、顔色悪く見えたのかも。

 逃げるように去っていったのだって、俺と顔を合わせるのが恥ずかしかったからだろう。

 

「まぁ、なんていうか……」


 頭を抱えて、ため息をつく。


「変な鈍感系主人公みたいなことしてたな、俺」


 まぁつまりは、そういうことだ。

 なんだかんだ言って俺も、鏡に写った顔は赤いんだし。





「いただきます!」


 朝ご飯と夜ご飯の時間は、1日の中でも至福のひとときだ。

 だって、天音と喋れるし、可愛い彼女の手作りの料理が食べれるんだ。これを至福と言わずなんというんだ、とそういう話である。


「美味しい。当番じゃないのに、作ってくれてありがとう」


「いいよいいよ。ご飯作るの好きだし」


 今日のメニューは、オムレツにホットサンドだった。ホットサンドの中には、なにやら手の込んでそうな野菜の炒め物? が入っている。

 台所から、ずっと良い匂いしてたもんな。


「今日も終わったあと、部活あるの?」


「いや、今日はないよ」


「そっか。バイトもないよね?」


「うん。今日はない。明日はあるけど」


 俺が所属してる部活――バレー部は、週に3回ある。月曜日、木曜日、金曜日だ。朝練はほぼ毎日ある。

 別にインハイとかに出れるほど強くはないから、部活は基本的にガチガチではない。まぁ、他の部に比べたらかなり厳しいけど。


「そっかぁ。じゃあ今日家に帰ってきたら、一颯くんいるんだ」


 箸をお茶碗の置いて天音がちょっと嬉しそうに言った。可愛ええ。


 ご飯を食べ終わり、2人で皿洗いをして、歯を磨く。最近家の中でも、2人でいることが増えてきた気がする。

 なんというか、こう……天音が積極的になったからだろうな。冷たかった分、余計にそう感じる。よく考えたら俺より天音の方がいろいろしてくれている気がするくらい。

 普通のカップルはどのくらいの早さなのか知らないけど、ちょっとずつ、ちょっとずつでも、距離は縮まってきてる。


「帰ったらなにする?」


 口をゆすいで尋ねると、天音はうーん、とうなった。


「最近ゲームしてばっかだしなぁ。ちょっと違うことしたいよね」


「だよな。テストまでにはまだまだ時間あるし」


「だね。うーん、でも思いつかないなぁ」


 この休みにいろいろし尽くしすぎたんだよな。来週はまたどこかに行きたいし、さすがに平日だから遊びに行ったら疲れるし……


「いっそダラダラしよっか」


 天音に問いかけてみる。昼寝でもいいし(それならちょっと時間もったいないけど)、とにかくダラダラしたい。2人で。ずっと動いてたし。したくなったらゲームするくらいに留めるのがいいかもしれない。


「そ、そうだね」


 昨日の出来事を思い出すのか、目を合わせるたびに赤くなる天音が、また赤くなった。



 用意を終わらせて、玄関に立つ。

 

「い、いってらっしゃい」


 玄関先でまだパジャマ姿の天音は、手を振った。同じく手を振り返す。


 ドアに手をかけたところで、制服の袖を引っ張られた。ちょっとだけバランスを崩したところで、ギュッと抱きついてくる。首筋に当たる髪の毛がくすぐったい。


「い、い、いってらっしゃいのハグ。やってみたかったの」


「あ、ありがとう」


 半分フリーズした頭で、どうにか頷く。

 思い出したように、天音の頭を撫でた。サラサラしていて、柔らかい。ツヤもあるし、なにより銀髪だし、天音の髪、学校一なんじゃないかな。


「じゃあ、いってきます」


「いってらっしゃい」


 今朝1番の照れ顔を拝みつつ、外へと踏み出した。

 朝だからか冷え込んでいて、カーディガンの袖を少し伸ばすと、天音が抱きしめていたのを思い出して、必死で頭から振り払った。




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