第14話 怖がるカノジョ
正直に言おう。
今目の前で流れてるホラー映画、めちゃめちゃ怖い。
アメリカで作られた映画らしいのだが、至る所がリアルで、まぁとにかく……怖い。
日本的な薄暗い怖さもありつつ、海外的なダイナミックな怖さもありつつ、的な。
今は主人公がやべぇ村の村人たちに斧を持って追いかけられてるシーンで、トラウマになりそうだ。ちなみに主人公の友達は、この村人たちに人体実験の道具として使われた。
「え、えええぇ」
主人公が捕まり、驚いた天音がしがみついてくる。こんな天音見たことない。
ていうか、こんな怖がると思ってなかった。
「殺される? 殺される?」
「いや、さすがに主人公だしそれは……」
「ないよね! あと1時間残ってるし!」
天音がそう言った瞬間、主人公は派手に殺され、ついでに新主人公が出てきて物語の第2幕が始まった。
「嘘でしょ……」
天音は既に顔の色を無くしている。
「見るのやめるか?」
「いや、見る。ホラー映画提案したの私だし」
画面では血飛沫が上がり、天音が悲鳴を上げて飛びついた。
☆
きっちりエンディングまで見終わり、ほっと息をつく。怖かった。めちゃめちゃ怖かった。これ中学生のときだったら絶対1人で寝られなかった。
でも映画のおかげで、天音との今までのわだかまりが払拭された気がする。
「ヤバい、ヤバいよあの映画。R18でしょもう絶対」
「だな……」
世間の評価は正しかった。
「もう11時でしょ。あと1時間くらいしたらもう寝なきゃいけないんでしょ。ハハッ、死んだ」
「一緒に寝る?」
「いや……」
天音がそっと距離を取り、モジモジする。
「それはまだ恥ずかしな、とか……」
どうやら恥ずかしさが勝つらしい。
「だな……」
まぁ、俺もそうなんだけど。
「どうしよう、なんか1時間くらいで終わるドラマでも見る? 見る? 今のままじゃ怖すぎるよ」
「ドラマか。なにやってるかな。流行ってるのは……この恋愛のやつじゃなかったっけ?」
「恋愛かぁ」
クゥ、と天音が唸る。まぁ、言いたいことは分かるけど。恋人の前で恋愛ドラマを見るのは、どこか恥ずかしい。
「でもなぁ、サスペンスは見れないし」
「見れないよな」
あの怖いのを見たあとに、もうこれ以上ホラー系を見たくない。
「動物系とかない?」
「動物系……はさすがにないや」
「じゃあもう、ゲームしよう。うん。ゲームが平和だしいいよ。まだ1位取れてないし」
天音が素早くテレビを消し、ゲームに切り替える。赤い帽子にオーバーオールのキャラクターが叫び声を上げていた。
☆
今回も天音は1位が取れず、ムゥ、と頬を膨らませた状態で終わった。
「今日も1位取れなかった」
「アイテムに引っかかるんだよな。たぶん次は取れると思うよ」
「アイテムかぁ……」
うぅ、と唸る。
「まぁでも寝ようか。明日は学校ある、し……?」
ソファーから立ち上がるとぬっと手が伸びてきて、袖を掴まれた。
隣を見ると、眉を寄せて俯く天音。
「ねぇ、もうちょっとだけ、話さない?」
「へ?」
「いや、もうちょっとだけ、喋ろうよ。明日の教科ってわりと楽なやつ多いし。ま、まぁせめて5分だけ」
袖に刻まれた皺が濃くなる。
これはもしや……
「もしかして、怖いの? 1人で寝るの」
からかい気味に言ってみると、天音は顔を横に振った。
「い、いやぁ、別に怖いわけじゃないんだよ。怖いわけじゃないんだけど、喋りたいなぁと思って」
「でももう結局12時回ってるし……ていうか俺、明日朝練あるし……」
「うぅ……」
頬を膨らませて黙り込む。どうしたものか、と見つめていると、天音はためらいがちに俺を見た。
しばらく、見つめ合う。
「あの、怖いから、一緒に寝てくれないかな……?」
赤い顔で上目遣い。
それ、逆に寝れない気がするな……。




