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第13話 焦るカノジョ

 天音の作ってくれたオムライス( めちゃめちゃ美味しかった )を食べ終え、風呂に入る。

 体を洗ったあと、バラの香りがするらしい入浴剤を入れた。体を洗い終わってるとはいえ、部活終わりだし、一応。

 天音はいつも良い匂いだからな。

 ベビーパウダーみたいな、そんな優しくて良い匂いがする。


「……にしても」


 額に貼りつく前髪を上げ、ため息をついた。


「ヤンデレだなんだってどういうことなんだ……? いや、文字通りか……いやでも天音は普通なんだよな」


 昨日から頭の半分以上を占領すること。

 それはあの"ヤンデレ発言"についてだ。

 ヤンデレについては、帰る途中の電車とかでググったりもしてみたけど、ロクな話は出てこなかった。

 別れ話をしたらリスカ画像で脅してきただとか、彼女以外の女と喋ったら包丁を持ち出してきただとか。

 天音にそんなバイオレンスな趣味はないだろうし、俺はヤンデレだとは思えないけど。


「まぁ別に俺は天音がヤンデレでも全然大丈夫なんだけどさ」


 命の危険さえ感じなければ。


「……ま、まぁ、俺に嫌われたら本当に死ぬとか、言ってたけど……」


 ヤンデレ発言はまだいいとして、よく考えたらそのあとの1文もけっこう衝撃的じゃん。


『嫌われたら本当に死んじゃうし』


 あれは……確かに、マジだったら確実に天音はヤバいだろうけど。

 い、いやでもさすがに……天音も俺が初めて付き合った人だって言ってたし、それできっと加減が分からなくなってるだけで、うん。

 たぶん、天音はヤンデレじゃないだろう。

 

「上がるか〜」


 昨日の朝、つまりはヤンデレ発言のあとからどう天音と接すればいいか分からなかったが、今腹を括った。

 普通に接すれば良いんだ。

 ヤンデレでのどうだだの杞憂だろうし、気にしすぎなんだろうし。秀真だって気にしなきゃ良いって言ってたし。


「天音と話そう」


 天音を怒らせちゃったし、とにかく今日はいっぱい喋りたい。夜遅くまで喋って、ちょっと映画だかなんだか見たりして寝たい。


「……あれ、そういえば、5歳から好きだったとかなんとか言ってたっけ……」


 ドライヤーで髪を乾かしているとふと思い出した。


「会ったことないはずなんだけどな」


 どこかで、運命の出会いでも果たしていたんだろうか。鏡を見ると、深緑色の綺麗な瞳をした女の子と、目が合った気がした。




 俺が風呂から上がってバラエティー番組を見ていると、隣にトトトッと天音がやって来て座った。

 

「ねぇ一颯くん」


 ほのかに熱気を感じる。

 お風呂上がりだからか、ほっぺたが赤かった。


「なに見てるの?」


「なんか適当につけたやつ」


「ふーん」


 お風呂上がりだからか、ストレートの髪が湿っぽい。チラッと見ると、この前とは違うサテン系のパジャマを着ていた。真っ白な太ももがさらけ出されていて、慌てて目を逸らす。


「なんか別のやつ見る? 確か好きな映画見れるアプリかなんか入れてたよね」


「あ、うん。いつか一颯くんと2人きりで映画見たいなと思って入れたの」


「そ、そうなんだ」


 また違和感を覚えた。

 天音って、こんなにナチュラルに甘いこと言ったっけ……? いつもはいたずらっぽく笑ったりして誤魔化してなかったっけ……?

 怒り、なんだろうか。やっぱり昼間のことについての。

 でもたぶん違う。

 夕方のときとは雰囲気が違う。あんなに硬くはない。どこか必死というか、距離を詰めようとしてきているというか……

 

「なんか焦ってる?」

 

 テレビでは芸人が熱湯に落ちて盛り上がっていた。録音された笑い声が流れる。

 ガヤガヤとうるさい中、なんとなく緊張していた。

 白い蛍光灯が眩しくて、少し俯いた。


「なんで?」


「いや、なんとなくそうなのかな、と思って」


「焦って……うん、焦ってるのかもしれない……」


 天音が俺の首に頭を預けた。くすぐったい。


「ちょっといろいろ考えて焦っちゃったかも」


 なんて、返したらいいんだろう。

 どうして焦ってるのかは分からない。たぶん昼間のが1つの原因になったんだろうとは思うけど。

 だけどそれだけじゃないような気がして。


 そっと、頭を撫でた。


 天音は黙って撫でられている。それから猫のように少しすり寄ってきた。髪はけっこう湿っていて、ちょっとだけ乾かし足りないような気がした。でも、ツヤツヤしてるし、なによりお風呂上がりのいい匂いがする。

 10分くらいそうしていたら、ふと天音がテレビのチャンネルを変えた。


「なにか見ようか」


 落ち着いた、少し嬉しそうな声。その声色にほっとする。


「なに見たい? 天音が見たいやつでいいよ」


「私もなんでもいいな。あっ、でも、ホラー系は恋人っぽくて1回見てみたかった」


「じゃあー、よしこれにしよう」

 

 パッと見で選んだのは、かなり怖いと話題になった映画。R18ギリギリだとかなんとか。


「えっ、それはさすがに怖すぎない?」


「いやまぁ大丈夫大丈夫。俺こういうの得意だし」


 言い切ると、天音は眉根を寄せて頷いた。ホラー系、苦手だったっけ。

 でもそんな怖がる天音は見たことないから、ちょっと見たい。

 映画を選択すると、画面いっぱいの血から話はスタートした。


( 気づいてくれた……。焦ってることも、見抜いてくれた。 )


 焦っていることに気づいてくれたことが、内心かなり嬉しかった天音が笑みを噛み殺していることにまだ一颯は気づいていない。


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