第12話 嫉妬するカノジョ
――今日は、文化祭の準備の初日だった。
挙手制で役職を決めた。余った人はじゃんけんで決めていた。
私はメイド服の裁縫担当。一颯くんは買い出し担当。
最初は良かったんだ。放課後準備が始まってすぐ西野と話していたけど、そこまではまだ良かった。同じ係だもんね。5分くらいだったし、話すこともあるよね。
問題はその後。
メイド服のデザインが決まったらしく、クラスの女子たちが下見を兼ねて、今必要なものだけ買い出しに行こうと話をしていたところまでは見ていた。
そのあと私はお手洗いに行って……帰ってきたら、その子たちと一颯くんだけがいなかった。
近くにいた子に話を聞けば、一颯くんは女子たちと一緒に買い出しに行ったのだそう。荷物持ち要員として。おそらく西野が誘ったんだろうということは予想がつくけど、それにしても――
「文化祭の用意なのは分かるけど、分かるけどさぁ」
晩御飯のオムライスを作りながら、ボソボソと呟く。
「できれば行かないでほしかったな……」
嫉妬しちゃうのは、私が重いからかな。
ただでさえ新たな恋が生まれやすい文化祭。この時期になるとなぜだかみんな付き合い出すし、準備するだけで良い雰囲気になってる子たちもいる。
だから――
「もし一颯くんに新しく好きな子ができて、別れようって言われたらどうしよう」
それがどうしようもなく怖い。
せっかく手に入れた居場所が奪われるのが、怖い。
「他の女たちに盗られないようにしなきゃ」
クラスに何人か狙ってる子がいるのは知っている。だって一颯くん、飛び抜けてかっこいいわけじゃないけど、清潔感はあるし、優しいし、たまに抜けてるところがあって可愛いし、部活してる姿はかっこいいから。
「束縛したくないとか言ってる場合じゃないかもしれない」
冷たいのは嫌だって一颯くん本人が言ってたし、もうちょっとだけ距離を詰めても、いいかな……
できれば私のことだけをずっと、片時も、忘れないでいてほしい。
ギリッと歯がなり、少しだけ、唇を噛んだ。
☆
「おかえりなさい、一颯くん」
玄関の扉を開けると、天音がいた。珍しい。いつもは扉が開いてから来るのに。
部活で流した汗がまだ引かない。今日はご飯食べたら天音より先に風呂に入らないと臭いかな。
けどそれにしても――
なんだか天音の雰囲気が硬い。
「た、ただいま」
「今日はオムライス作ったんだ」
笑顔のまま天音が言う。
……これ、もしかして怒ってないか?
「上のケチャップ、♡にしたよ」
「あ、ありがとう」
「冷めちゃうから早く食べよう」
腕に絡みついてくる。
「いや、ちょっと今汗臭いから」
「全然臭くないよ。むしろいい匂い。それよりもご飯にしよう」
普段とまるで雰囲気の違う天音に背筋がゾッとする。普段ならそもそも腕に絡みついたりはしないし、したとしても顔を赤らめたりするはず。それがないのはおかしい。
俺なにかしたっけ……
天音に引っ張られつつ、今日の出来事に思いを馳せる。朝礼前に秀真に相談して、HRでは文化祭について話し合って、それ以外は普通だったしなにも……
そこまで考えて思いついた。
放課後、買い出しに行った。それも女子と。
「あの、天音さん……」
「なに?」
にっこり笑顔。
「あの、買い出しについては、本当に何もないからね。あの、荷物持ちとして行っただけだから」
「いやいや全然、気にしてないよ」
「本当に、なにもなかったからね。マジでその……盛り上がる女子たちの後ろで1人荷物持ってただけだから」
実際には、西野と話してたけど。でもそれも大して長いこと話してたわけじゃないし。そのあと本当に1人だったし。悲しいけど。
それにそうでも言わないと天音の怒りは収まりそうにない。
「本当に?」
やっぱり放課後のことで怒っていたらしい。
「本当本当」
「そっかー」
天音が腕を解く。
ほんの少しだけいつもの笑みが戻ってきて……
「冷めちゃうから、とにかくご飯食べよっか!」
ほっと一息ついて、思い出した。
『ヤンデレだなんて……言えるわけないな』
隣を歩く天音の髪が揺れた。




