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第1話 最近冷たいカノジョ

「なぁ、天音(あまね)ってさ、もう俺のこと嫌いなのかな」


 思わずため息をこぼすと、親友の秋田 秀真(あきた しゅうま)は眉をひそめた。


「は……? いや、お前ら付き合ったの1か月前じゃなかったっけ……?」


「いや、それがさぁ……」


 もう一度ため息をつき、机に突っ伏す。

 放課後、みんなが部活に行っているなか、たまたま休みだった俺たちは誰もいない教室で向かい合っていた。

 向かい合うとは言っても、なぜか秀真はクロスワードを解いている。そういや、パズル解くのが密かな趣味とか言ってたっけ……あ、いやまぁ、それは今はどうでもよくて。


「最近家で目も合わせてくれないし、喋りかけても無視されるし、挙句の果てに、昨日は部屋にこもってたんだよ、あいつ」


「嘘だろ、そんなことある? 同棲初めてからまだ2週間しか経ってないよな?」


「俺が嘘だって信じたいよ」


 思い返される冷たい視線に、思わずくぅ、と天を仰ぐ。


「部屋汚いとか?」


「たぶんお前よりは汚くない」


 秀真の部屋、前に行ったときゴミが多すぎて急きょ掃除になったの、俺はまだ忘れてないぞ。


「家事が下手だとか……?」


「たぶん飯も食えるくらいには美味いし、ちゃんとやってる、はず……」


「なんかよく分からないけど幻滅されたとか…………?」


「たぶんそれしかないよな」


 ば、と顔を上げると今度は秀真がため息をついた。


「お前が気づいてないだけで、いろいろあるのかもよ?」


「でも考えた分には、ほんとなにもないんだよなぁ。謝ってもみたし、本人に聞いてもなにもないって言われたし……まぁ、最近じゃ無視されるけど……」


 もう一度机に突っ伏す。


「本人にそれとなく聞いとこうか?」


「お願いします……」


 ありがたい申し出に掠れた声で呟く。

 新たな恋が生まれそうなこんなお願い事、普通の友達にならできないけど、秀真は信用できる。


 俺は家に帰ってからのことを思って、もう一度ため息をこぼした。



 そもそもの発端と言えば、1か月前、俺が翠月 天音(みづき あまね)に告白されたことから始まった。

 天音は学年一……いや、学校一の才女で、そこそこのお嬢様。しかも超、超、超絶美少女。

 俺は中学から天音と同じ学校だったのだが、初めて見たときは、思わず心の中で神に土下座した。


 母親が外国人だかなんだかで、銀髪のゆるふわの髪。それを肩くらいまで下ろしていて、瞳は綺麗な深緑色。目はぱっちりと大きく、鼻はちっさくて、唇は薄い。まるでフランス人形みたいで、もう言葉では表しがたいほどに可愛い。


 中学2年のときにたまたま隣の席になったのだが、そのときは心の底から神に感謝した。神様の存在なんて信じてないけど、それでも、だ。

 あとそのとき、あまりの可愛さと性格の良さに本格的に恋に落ちた。


 つまりはそれほど可愛くて、しかも性格も良く、声も可愛い彼女なのだが……


 高1になった今年の9月、なんと告白してくれたのだ!


 校舎裏なんてベタな場所に呼び出されて、もしや……? いやでもドッキリだよな……と思っていたら


一颯(いぶき)くんのことが世界で1番大好きです! ……付き合ってください!』


 なんて顔を赤らめて、めっっちゃ可愛く告白されたのだ。


 俺はもちろん、天にも昇る気持ちでOKした。いや、するしかなかった。だって好きな人なんだし。


 後になんで俺なんかだったんだ……? と思って聞いてみたところ


『部活頑張ってるのとか、あとはいろいろ』


 とだけめちゃくちゃ照れながら教えてくれた。可愛かった。


 そうして俺たちはクラスのみんなには内緒で付き合い始め、ついには2週間で同棲までに至ったのだが……


 ここ1週間ほど、天音は俺にとんでもなく冷たいのだ。


 最初はラブラブだったはずなのに、気づけばこんな状態に。よく考えたらまだ手を繋ぐくらいのことしかしてないし、そっち方面、てことはないと思う。

 天音は家の事情で一人暮らししてるから、彼女の護衛という意味も兼ねて天音の家で同棲してるけど、キスもしたことなかった。ちょうど俺も一人暮らししてたからある意味できたことだけど。


「……くしゅっ」


「あれ、上着は?」


「学校用のカーディガン、なんでかいつも置いてるところに無かったんだよな」


「物無くすなんてお前にしちゃ珍しいな」


「他のとこに置いた記憶ないんだけどなぁ」


 あれから15分ほど魂が抜けたようになっていた俺を、秀真は容赦なく教室から引っ張り出した。

 で、帰り道。秋口だから今はそこそこ寒い。冷え性の俺はカーディガンを羽織っていたのだが、今朝は見つけられなかったのだ。もしかしたら、天音のことで悶々としてたからかもしれない。


「ま、上手くやれよ」


 秀真に背中を押されて、自宅のあるマンションへと踏み入れる。前は帰ることが楽しみでしょうがなかったのに、最近はちょっと憂鬱だ。

 エレベーターに乗り込み、最上階から5階下の階数を押す。最上階だと目立つから、わざとそうしているらしい。


「ただいま」


 鍵を開けて中に入ると、俺は首を傾げた。

 今日は天音は部活だったはず。なのになんで靴が……?


 内心首を捻りつつ手を洗い、リビングに向かって……


 俺は絶句した。


「ん……一颯くん、大好き」


 天音の、ちょっと高めの声が聞こえる。

 怖々とソファを覗くと……


「世界で1番、大好き……」


 ふふっと笑いつつ俺のカーディガンを抱き締めて眠る、愛しの彼女の姿があった。

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