79.幸せを感じてくれて
双葉社Mノベルスfより第一巻が発売されます!
イラストレーターは『ぽぽるちゃ』先生!
3/14発売ですので、ぜひぜひお楽しみに!
セリカが経営するお店は一階、二階は彼女の居住空間になっている。案内されたのはリビングだった。
「こちらに座ってお待ちください! 私はお店を閉めて片づけをしてきますので! お飲み物も用意いたしますね!」
「ありがとう。忙しそうだし私も手伝いましょうか?」
「いえ! これも私のお仕事ですから」
そう言ってニコリと笑い、彼女は私にお茶を入れると一階へ降りて行った。部屋で一人になった私は、改めて部屋の中を見渡す。
家具はそこまで多くない。彼女がこれまで生活していた屋敷に比べたら、ここは小屋みたいなものだろう。ずっと周囲に支えられ生活して来た彼女が、見知らぬ土地でいきなり一人暮らしをする……。
「大変だったよね……きっと」
お店を出すまでの支援はしてもらったはずだ。それでも後は、一人で全部をやらないといけない。普段の生活だけでも大変なのに、お店のお仕事まで。
彼女にとっては全部が初めての体験だったはずだ。それでも、私から見た彼女はとても楽しそうで心が満たされているようにすら感じた。
私が知っている彼女から想像できないほど、清々しくて明るい笑顔をしていたから。
それから数分待っていると、階段を急いで昇ってくる音が聞こえてきた。リビングに入る扉が勢いよく開く。
「お待たせしましたお姉さま!」
「走ってきたの?」
「はい! せっかくお姉さまが来てくださったのに、お待たせするなんて失礼ですから!」
「そこまで気を遣わなくていいのに」
いきなり押しかけたのは私なんだから、というとセリカはぶんぶんと首を横に振った。
「私が早くお話したかったんです! いつ来てくださるかなーってずっと考えてました」
「……そっか」
もう少し早く顔を見せに来れればよかったかな。彼女の真っすぐで明るい笑顔を見ていると、そんな気持ちにさせられた。
セリカは私のお茶を入れ直してから自分の分を用意して、対面に座る。こうして向かい合って話そうと思うと、少しだけ緊張が戻ってきた。
「えっと、お店のほうはどう? もう慣れた?」
「はい!」
「大変だったでしょ?」
「最初はそうですね。でも準備から何まで、王城の方々がしてくださったので安心でした。経営についてはまだまだ勉強中です。接客は今までいろいろな方とお話してきた経験が役に立ってます!」
屋敷で暮らしていた時から、彼女は様々な英才教育を受けている。甘やかされている一面もあったけど、教育に関してはそれなにり厳しかった。人と接することなら、私より彼女のほうが何倍も得意だろう。
それにしても……。
「楽しそうだね」
「はい! すっごく楽しいです!」
彼女はハッキリと、めいっぱいの笑顔で答えた。そのまま続けて語る。
「お店を出してすぐのころは、お客さんも少なかったんです。ポーションを扱うお店は珍しいですし、それに価格も他より安いですから注目はされてたんですけど……中々買ってくれる人は少なくて」
「急に出来たお店で他より安いから、警戒されてたのね」
「はい。そうみたいです」
一般的にポーションは高価な物として広まっている。作成方法が特殊だったり、必要な素材が特別だったりするせいだ。しかし効果が高いため、高い金額でも買い手はいる。その分、市場で出回っているポーションは高価だ。
このお店の場合、仕入れは王国経由で行っているから、通常よりも安く手に入る。それだけポーションも安く作れる。
効果はもちろん保証済み。市場で出回っているポーションと同等以上の効果はある。ただしそれも、実際に使って頂かなければ伝わらない。
ポーションなのに安くて怪しい。何か変なものが入っているのではないか。見た目だけの粗悪品かもしれない。という不安から興味はあっても購入まで至らなかったそうだ。
「それで今は大丈夫なの?」
「はい! お客さま皆さんとても優しい方々ばかりで、ちゃんと説明をして、実際に私が使うところを見て頂いたりもして、少しずつ買ってくれる人が増えたんです。それから買ってくれた人が他の御友人にも宣伝してくれて! 今では毎日たくさんの方が来てくださいます」
「そっか。頑張ってるんだね」
彼女なりの努力が垣間見えて、少し安心した。
「まだまだです。お姉さま、私知りませんでした。自分が作ったポーションを使ってくれて、ありがとうと感謝の言葉を頂けることが、こんなにも嬉しいことだなんて」
「セリカ……」
「だから私、今すっごく幸せなんです!」
彼女の明るさの理由がわかった。あの件で、彼女の心は酷く傷ついていたはずだ。心の傷は身体の怪我とは違って、ポーションでも治らない。だけど、温かい言葉や誰かの優しさを感じることで少しずつ……傷は癒えていったのだろう。
そうして本当の意味で前向きに頑張ろうと思える。その感謝の言葉に、ちゃんと応えられるようになろうと。
「こんなに幸せな気持ちになれるなんて、思ってもいませんでした。皆さんのお陰です……なによりお姉さまがあの時、私を助けてくれたからなんです。だから改めてお礼を言わせてください!」
セリカは瞳を潤ませて、頭を下げる。
「私に生きろと言ってくれて、ありがとうございました」
「……ううん。私のほうこそ、ありがとう」
自分が助けた人間が幸せを感じてくれている。それはまるで、自分のことのように嬉しいことだった。
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