閑話 残り時間
三章の補足です。
カクヨム版の連載も開始しました。
ページ下部にリンクがあります。
「おらどうした? こんなもんか?」
「まだまだいけますよ!」
ある日の午後。
第二王子アッシュと第三王子ユレン。
二人の王子が剣を交えていた。
「この程度か? 打ち込みが甘いぞユレン!」
「っ、兄上こそ。病み上がりで万全じゃないでしょ?」
「言ってくれるな~ ならもうちっと本気で行くぜ」
「俺もです!」
兄弟らしく楽しい談笑を。
という感じは二人にはなく、激しく剣を交えながら距離を詰める。
お互いに本気。
稽古の上での本気だが、勝つ気でいることは当然。
しかし純粋な実力には大きな差があった。
善戦しようと奮闘しようと、結果はいつも決まっていて……
「くっそ……」
「今回もオレの勝ちだな? ユレン」
「……まいりました兄上」
勝者はアッシュ。
王国最強の名は伊達ではない。
もちろんユレンも強いが、アッシュの強さは群を抜いていた。
稽古を終えた二人は木陰で腰を下ろす。
「ふぅ、いい汗かいたぜ」
「すみません兄上。病み上がりなのに稽古に付き合わせてしまって」
「良いって良いって。もうこの通り元気だ。ずっと休んでるんじゃ身体も鈍るし丁度良い」
「兄上はタフですね。倒れた時は心の底から心配したのに」
安心して笑うユレン。
それを見ながら明るく振舞うアッシュ。
兄の秘密を、弟であるユレンは未だに知らない。
力の代償に気付いた時、果たしてどんな顔をするのか。
アッシュの胸の内で心配の波が押し寄せる。
「その時はその時か」
「兄上?」
「なんでもねえよ。しっかしユレン、打ち込みに気合いが入ってたな? 前より重く感じたぜ」
「本当ですか?」
嬉しそうに問うユレンに、アッシュは頷いて答える。
「おう。なんつーか、剣に覚悟が乗ってる感じがした」
「覚悟……ですか。そんな大層なものじゃないですよ」
「なんだ? 自分でわかってるって顔だな」
「ええ、まぁ」
ユレンは優しい微笑みを見せながら、腰の剣に触れる。
「守りたい人がいるんです。その人のことを思うと、不思議と力が溢れるんですよ」
「そうか」
アッシュはそれが誰、とは聞かなかった。
聞かなくてもわかることだったから。
「お前も男だな」
「え?」
「男ってのは守る者があるほど強くなるんだ。大切だからこそ失いたくない。失うのが怖いから、死んでも守ろうと強くなる。人間の男ってのは世界で一番臆病な生き物なんだぜ」
「臆病……確かにそうかも。兄上には似合わない言葉ですけどね」
「そうでもねぇさ。俺だって同じだ。お前らを失いたくないから強さを求めた。たとえ……」
自らの命を差し出すことになろうとも。
守れず生き残るくらいなら、守って死を選ぶ。
その覚悟があった。
だが彼は、その選択が正しかったとは決して思わない。
「ユレン。お前は間違えるなよ」
「? はい」
兄としての言葉。
もしかするとこれが最後になるかもしれない。
いつだってそう思いながら、アッシュは日々を過ごしていた。
いずれ訪れる別れの瞬間に怯えながら。
命を現す砂時計の残りは、一体誰にわかるのだろうか。






