表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【WEB版】錬成師アリアは今日も頑張ります ~妹に成果を横取りされた錬成師の幸せなセカンドライフ~【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/84

72.覚悟を決めて

 霧に向って真っすぐに進む。

 彼女の言葉通りなら、この先にみんながいるはずだ。

 まだ何も見えない。

 濃い霧は徐々に薄まって、微かに周囲の景色が顔を出す。


「アリアー! いたら返事をしてくれ!」


 開けていく景色と一緒に、遠くとも力強い声が聞こえてきた。

 ユレン君が私の名前を呼んでいる。

 彼がすぐ近くにいるとわかった途端に、両脚が勝手に駆けだしていた。


「ユレン君!」

「――! 今の声、アリア!」

「ここにいるよ!」

「どこだ? どこに――」


 霧が晴れる。

 そして、目の前にユレン君の姿が見える。

 途端に胸がざわっとして、突進するくらい勢いよく駆け寄った。


「アリア!」

「ユレン君!」


 彼は真正面から、勢いよくぶつかった私を受け止め、そのまま抱きしめてくれた。

 温もりを感じ、高鳴る胸の鼓動が抑えられない。

 情けなくも私の瞳は涙で潤んでいた。


「良かった無事で、本当に」

「うん。ユレン君たちも」


 無事でいてくれて良かった。

 大丈夫だと信じていても、実際に無事がわかったら安心してしまって、身体の力が抜けていく。

 抱きしめ合えば、互いの鼓動が響いて聞こえる。

 しばらくこのままでいたいと思える。

 まるで私たち二人だけしかいないような空間も、実際はそんなことなくて。


「おほんっ! 無事だったのは嬉しいんだが~ こうも目の前でイチャつかれると反応に困るな」


 呆れた様子のアッシュ殿下の声で、私とユレン君は我に返る。

 ここは危険な森の中で、私たち以外にも騎士さんがいて。

 抱きしめ合う私たちの様子は、とても近くで見られていたことに気付いた。


「す、すまない兄上」

「ごめんなさい! そ、その、再会できたのが嬉しくて」


 私たちは揃って離れ、言い訳みたいなセリフを口にする。

 すると怒られるわけでもなく、アッシュ殿下は笑いながら「わかってるよ」と言ってくれた。

 私がいなくなった間、彼らは必死に探してくれていたそうだ。


「特にユレンはえらく心配してたぞ? ほっといたら一人で探しにいっちまいそうだったんで困ったぜ」

「し、仕方がないでしょ。心配だったんだから」

「はっはっはっ! まぁそうだろうな。んで? 今までどこにいたんだ?」

「えっと、実は――」


 アッシュ殿下の問いに答えようとした時、頭の中にネーベルさんの顔が浮かんだ。

 彼女のことを話そうとした口が閉じて、数秒の沈黙を挟む。


「アリア?」

「……霧で迷っていただけです。皆さんを探して歩き回っていたら、霧が晴れて見つけられました」

「そうか。身体に異常とかもないか?」

「はい。皆さんのほうは大丈夫でしたか?」


 その後は淡々とユレン君たちの状況説明に耳を傾けた。

 多少不自然だったかもしれない。

 でも、話すべきではないような気がした。

 彼女、ネーベルさんは魔女だから。

 魔女である彼女の存在を伝えてしまったら、きっと彼女はあそこにいられなくなる。

 私たちのことを案じてくれた彼女の平穏を、壊したくないと思った。

 ただ……それだけじゃない気もする。

 私が彼女のことを話さなかった理由は、自分でもハッキリはわからなかった。


「ともかくこれで探索を再開できるな。霧が晴れたお陰かわからんが、魔物の気配も感じやすくなったぜ」


 そう言いながらアッシュ殿下は、森の奥を指さした。

 木と木と間、特に何も見えない。

 道なき道が続いている。

 私が彼女と出会った湖とは、僅かに左へ逸れていた。


「この先からでけー気配を感じる。霧が晴れた途端に感じるようになったってことは、もしかしたら霧もそいつの仕業かもな」

「だとしたらどうして急に晴れたんでしょう? 兄上はどう思いますか?」

「さぁな。そういう周期的に発生させてただけかもしれん。とりあえず慎重に、警戒しながら進むぞ」

「はい」


 アッシュ殿下とユレン君が先導して、私たちは気配の方向へ歩いた。

 最初、気配を感じたのはアッシュ殿下だけだった。

 しかし近づくにつれ、私にも異様な気配が感じ取れるようになっていく。

 それも一つや二つじゃない。

 複数の、どす黒い何かの集合体みたいな気配だ。


 数分ほど歩いたところで、殿下はピタリと足を止める。


「この先、間違いなくいやがるな。お前ら覚悟を決めろよ! こっから先は命をかけた戦いになるぞ!」

「命……」


 ネーベルさんの言葉が脳裏に過る。

 人間が挑めば――死。

 言葉通りなら、この先で私たちは多く血を流すのだろう。

 覚悟はしている。

 今さら引き返すつもりもない。

 それでも、恐怖を感じないわけじゃない。


「大丈夫だ。アリアのことは俺が絶対に守るから」

「ユレン君……」


 そんな情けない私の背中を、ユレン君の言葉が優しく推してくれた。

 彼がいるだけで、言葉を聞くだけで、勇気が湧いてくる。

 だからこそ――


「あの! 戦いが始まる前に、皆さんにお渡しするものがあります」


 各人に渡したのは二種類のポーション。

 一つは自己治癒能力を一時的に高める効果。

 もう一つは、万能薬を二倍に濃縮した特製の耐性ポーションだ。


「戦う前に飲んでください。私には皆さんのように戦う力はありません。でも、皆さんの命を守る物なら作れます」


 それが私に出来ること。

 もし、私の敵は魔物じゃない。

 私が戦うべき相手こそが……病だ。


「ははっ、心強いな。なぁユレン」

「はい。俺がアリアを守る。その代わり、俺たちの命を任せて良いか?」

「うん」


 そのために、私はここにいるんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿してます! 下のURLをクリックしたら見られます

https://ncode.syosetu.com/n7004ie/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

5/10発売予定です!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000



5/19発売予定です!
https://m.media-amazon.com/images/I/71BgcZzmU6L.jpg
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ