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【WEB版】錬成師アリアは今日も頑張ります ~妹に成果を横取りされた錬成師の幸せなセカンドライフ~【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第三章

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71.人間と魔女

「生きるために?」

「はい」

「私は言ったはずよ。あれと向き合えば死が待っているわ」

「見過ごした先にも、たくさんの死が待っているんです」


 苦しんでいる人たちがいる。

 得体のしれない病と闘い、敗れ去った人たちがいる。

 残された者たちは涙し、濡れた地面はいつかは乾くだろう。

 それでも一生、悲しみは残ってしまうんだ。


「その魔物がいるせいで、みんな苦しんでいます。今日までも、今も……たくさん人が死んでいるんです」

「それは悲しいことね」


 そう。

 悲しい連鎖をなくすために、私たちはこの森に足を踏み入れた。

 危険なことは承知の上で。

 原因の目の前まで迫っていて、今さら立ち止まるなんて出来ない。

 怖がりな私がそう思うんだから、ユレン君たちは尚更止まらないだろう。


「だからごめんなさい。その忠告は聞けません」

「……そう。意志は固いのね」

「はい」


 ハッキリと私は答えた。

 すると彼女は呆れたように小さくため息をこぼす。


「はぁ、いつの時代も人間は頑固ね」


 彼女がそう呟くと、ガチャリと背中側で音がした。

 振り返ると扉がひとりでに開いていた。


「ならもう止めないわ。貴女たちの好きにしなさい」

「はい……ごめんなさい」

「謝る必要はないわ。忠告はしたけど、別にどちらに転んでも私は困らないもの」


 さぁ行きなさい、と、彼女は視線で私に示す。

 それに従うように私は扉の方へ歩き出す。

 だけどふと、気になってしまった。

 立ち止まった私は振り返り、彼女に問いかける。


「ネーベルさんは、どうしてここにいるんですか?」

「どうしてって?」

「こんな危険な場所に、目の前に魔物がいるのに。瘴気が病気の原因なら、いつか貴女にも」

「ふふっ、魔女の私を心配してくれるの?」


 彼女は嬉しそうに微笑む。

 その微笑みは無邪気で、まるで子供みたいだった。

 同じ女の子なのに、少しドキッとしてしまう。


「でも心配は必要ないわ。私は病気にかからない。人間には有毒でも、私にとっては関係ないの。魔物はちょっぴり面倒だけど、こうして霧の結界を張っていれば近づかないわ」

「そう……なんですね。だったら――霧、霧の結界……」


 唐突に思い出す。

 そうだ。

 大きな気がかりが一つあった。

 それを確かめたくて、私はまだ部屋に残っていると言っても良い。


「これも魔法なんですよね? そんなにたくさん使って平気なんですか? 魔法を使ったら寿命が減ってしまうのに」

「寿命? それは人間の話でしょう?」

「え?」

「私たち魔女は違うわ。だって魔力を持っているもの」


 私は理解が追いつかなくて、キョトンと首を傾げる。

 魔力とは魔法を使うためのエネルギーで、それを持っているから平気?

 だから魔女と人間は違う?

 そういう生き物だから?


「何かを生み出すには必ず対価が必要よ。錬成術が物を消費するように、魔法は魔力を消費する。魔力がない人間は、代わりに生命力を消費する。ただそれだけの差よ」


 それならどうして、魔法が使える人間が存在しているのだろう。

 使えば命を削ってしまう恐ろしい力なんて、ないほうがずっと良いはずなのに。


「現代に魔法が残っているのには、何か意味があるんでしょうか?」

「さぁ? それは私にもわからないわ。知っているとしたら神様だけでしょう」

「神様……神様もいるんですか?」

「いるわ。貴女はもう、神様の一人に会っているわよ?」

「え……」


 思いもよらなかった一言に、一瞬思考が停止する。

 神様なんていうおとぎ話の登場人物がいることへの驚きが、私の近くにいるという更なる驚きに上書きされた。


「そ、それって――」

「これ以上は言えないわ。私にも許されていないことだから」


 誰なのか尋ねる前に、彼女に拒否されてしまった。

 なぜだか寂しそうに俯いた彼女は、私を見つめて諭す。


「さぁ、もう行きなさい。霧はしばらくの間だけ消してあげる。この家を出て真っすぐ行けば仲間たちと合流できるわ」

「わ、わかりました。色々と教えていただけてありがとうございました」

「いいわ。それとさっきの話の続きは出来ないけど、代わりに一つだけ教えてあげる。人間にはどうしたって限界があるの。その限界を超える方法が魔法……人間離れって言葉は、比喩じゃないかもしれないわよ?」

「それはどういう――」


 意味なのか、尋ねようとした。

 でも彼女の表情を見て、ここから先は自分で考えなさいと訴えかけていると気づいて、出そうになった言葉を引っ込めた。

 そうして私は彼女に背を向け、開けっ放しの扉を潜る。


「さようなら優しい錬成師さん。次に貴女が来るときは、もう少し楽しいお話をしましょうね?」


 振り返った視線の先に、彼女の姿はなかった。

 家が濃い霧に覆われてしまって、見えなくなっていたんだ。

 まるで今まで見ていた物が幻だったかのように。

 だけど、見えなくてもまだ感じる。

 彼女はまだ、私の前にいると。


「……はい」


 彼女は次にと言った。

 ならきっと、私がもう一度ここへ訪れる日があるのだろう。

 そうだとしたら嬉しい。

 聞きたいことはまだたくさんある。

 何よりも、未来があるということは、つまりはそういうことだから。


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