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【WEB版】錬成師アリアは今日も頑張ります ~妹に成果を横取りされた錬成師の幸せなセカンドライフ~【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第三章

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70.お願いは聞けない

 魔女。

 昔々、世界には魔法使いがいた。

 中でも魔女と呼ばれた一人の女性は、人間でありながら不可能を可能にするほどの力を持っていた。

 彼女は世界を恨んだ。

 憎んだ。

 なぜ、という問いには答えられない。

 誰も彼女の本心を知らないから。

 だけど彼女は確かに、世界に強い恨みを持っていた。

 故に彼女は世界を滅ぼそうとした。

 結局その目的は果たされなかったけど、彼女を止めるために多くの血が流れた。


 以来、魔法使いの女性は忌み嫌われ、畏れられるようになった。

 世界から魔法が衰退し、彼女の名前すら忘れ去られた現代においても。


 とにかく恐ろしい存在。

 その名を口にするとき、笑顔であるはずがない。

 しかし彼女は口にした。

 あろうことか名乗っただのだ。


「霧の……魔女……」

「そう呼ばれているわ。私はあまり好きじゃないのだけど」


 好き嫌いの問題で済むのだろうか?

 魔女と名乗る意味を、彼女はどれほど理解しているのか。

 疑問と不安が湧き上がってくる。

 身体は震えこそしないが、今すぐにここから立ち去るべきだと叫んでいるようだ。

 恐ろしさを感じて、表情に漏れる。

 すると彼女は……


「……そう。貴女もそんな顔をするのね」


 とても寂しそうにつぶやいた。

 私にはわからなかった。

 どうしてそんな顔をするのか。

 魔女と名乗っておきながら、そう呼ばれることを快く思わないような。

 孤独を噛みしめ、現状を諦めているようにも見えて。

 まるで、昔の私みたいだ。


「貴女は……魔女、なんですよね?」

「ええ、そう呼ばれているわ」

「私が聞いていた魔女は、とても悪い人でした。でも貴女は……」

「それは私のご先祖様よ。同じなのは女性であることだけ。思想も信念も共有していないわ」


 彼女は柔らかな口調で話す。

 この時にはもう、最初に感じていた恐怖はなくなっていて。

 残っていたのはユレン君たちへの不安と、彼女に対する純粋な興味だけだった。


「悪い人じゃ……ないんですか?」

「私はそう思っているわ。ここに呼んだのも、お願いがあるからと言ったでしょう?」

「お願い……それって私に、何かしてほしいということでしょうか?」


 私を呼んだということは、錬成術関係だろうか?

 それとも別の何かを要求されるのか。

 私は身構えながら、彼女の回答を待つ。


「貴女にだけじゃないわ。一緒に来た人たちにも同じお願いを……これ以上、先へは進まないで。自分たちの街に、帰ってほしいの」

「え?」


 思っていた要求と違った。

 何かを作ってほしいとか、これがほしいというお願いじゃない。

 彼女が求めたのは、この地から去ることだった。


「……どうして?」

「危険だからよ」

「危険?」

「あの先にはとても怖い魔物が住んでるの。だから近づかないほうがいいわ」


 彼女の口から魔物という単語が聞き取れた。

 それが私たちの探している魔物かもしれない。

 そう思って気持ちが高ぶった私は、彼女の忠告を忘れて聞き返す。


「森の奥に魔物がいるんですね? どんな魔物ですか?」

「大きな繭みたいな姿をしているわ。あれが放つ瘴気の所為で、他の魔物たちも凶暴になってしまっている。近付けば人間にも影響を及ぼすわ」

「瘴気……じゃあそれが」


 病気を蔓延させている原因?

 魔物の凶暴化と、人間にも影響する瘴気を放つ魔物。

 仮説に過ぎなかった考えが一つにまとまった感覚がある。


「その魔物のこと、もっと教えて頂けませんか?」

「どうして?」

「私たちはその魔物を見つけるために森へ来たんです!」

「……それは駄目よ」


 興奮する私を鎮めるように、彼女は冷たく低い声で否定した。

 一瞬、ぞわっとした寒気を感じる。


「え、でも私たちは」

「あれはとても恐ろしい魔物よ。少なくとも、ただの人間が勝てる相手じゃないわ。死にに行くようなものよ?」

「死――」

「ええ。だからこれ以上先へは進まないで。無用な血を流さないでほしいの」


 彼女は悲しげに、辛そうな声で言う。

 私たちの身を案じているのか。

 心配してくれているような視線で見つめられる。


「死……」


 死という単語を耳にして、私は嫌な想像をしてしまった。

 ユレン君たちの無残な姿が、一瞬だけ頭に浮かんだ。

 考えなかったわけじゃない。

 私たちが目指している場所が、危険で溢れている予想は確かにあった。

 最悪の想定だって、頭の隅にはあったと思う。

 誰も口にしなかったのは、恐怖を抑えて前に進むため。

 人間なら誰だって、死ぬことは怖い。

 死ぬかもしれないのに、自らの意志で危険に踏み入るなんて愚かなことだ。


 でも……


 多くの人々が苦しんでいる。

 その死に、直面している。

 今日を生きられるかもわからない状況で、怯えながら生活しているんだ。

 大切な誰かの死を、明日かもしれないと考える日々を送っている。

 私たちはそれを、彼らを助けるためにここへ来た。

 

「ごめんなさい」


 私は答える。

 再認識させられた。

 私たちが何を目指しているのか。


「私たちは生きるためにここへ来たんです。だから、そのお願いは聞けません」


 

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