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【WEB版】錬成師アリアは今日も頑張ります ~妹に成果を横取りされた錬成師の幸せなセカンドライフ~【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第三章

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64.涙の別れ

 さっそく出来上がったポーションを手に、重傷者が療養する施設に足を運ぶ。

 前回の訪室からそれほど時間は経過していない。

 にも関わらず……


「ぅ、うあ……」


 彼の状態は悪化していた。

 私に情報をくれた彼の全身を茨の紋様が覆っている。

 苦しそうな声をあげ、したたり落ちる大量の汗が高熱を現す。


「そんな……さっきは首までなかったのに」


 私たちが一度目に訪れた時、彼の茨は胸辺りまで進行していた。

 あれから約四時間。

 たったそれだけの時間で、茨は顔まで浸食しつつある。

 手首足首は完全に超えてしまっていた。


「まずいぞこれ。聞いた話じゃ茨の紋様が全身まで至ったら確実に――」


 ――死。


 茨の浸食は命の終わりを意味する。

 彼の命は今まさに終わろうとしていた。


「どうしますか姉さん?」

「……急いでポーションを飲ませてみよう。本当は本人の同意が必要なことだけど今は仕方がないよ」

「賛成だ。どのみちこのままじゃ長くもたない。助かる可能性があるならやるべきだ」


 ユレン君の言う通りだ。

 命の終わりを見過ごすなんて私には出来ない。

 私はポーション瓶を取り出す。


「フサキ君」

「了解です。オレが支えておくんで飲ませてあげてください」

「俺も手伝うよ」

「助かります」


 二人で男性を起こし、両肩から背中に手を回して支える。

 意識の不確かな人に液体を飲ませることは、本来なら良くないことだ。

 間違って肺に入ってしまう危険性があるから。

 そのリスクを差し引いても、今は飲ませるべきだと私は判断した。

 ポーションを彼の口の中に流し込む。

 限りなく万能に近いポーションが、彼の喉を通って身体に注がれる。

 ポーションの効果は即効性だ。

 飲めばすぐに効果は発揮される。

 逆に言えば、すぐに効果が出なければそれまで。

 ごくりと飲む音を聞きながら、私たちは息を飲む。


「ぅう……あ……君たちは?」


 彼が口を動かし、私と目を合わせた。

 一度目の時と違って意識もハッキリしている。 

 荒々しかった呼吸も落ち着き始めているようだ。

 私は二人と顔を合わせ、ポーションの効果が現れたことを喜ぶ。

 そのまま彼に視線を戻し、ゆっくりと話しかける。


「こんにちは。私の声は聞こえていますか?」

「ああ……聞こえているよ」

 

 良かった。

 ちゃんと声も届いているし、反応もしてくれる。


「初めまして。私は王宮から来た錬成師のアリアと言います」

「錬成師……?」


 ピンと来ていない様子。

 どうやら最初に自己紹介した記憶はなさそう。

 あの時は意識も虚ろだったし、記憶に残っていないようだ。

 

「身体の調子はどうですか? 痛みとか苦しさは?」

「……不思議と痛くないよ。辛さも……特には感じない。君が何かしてくれたのかい?」

「はい。私が作ったポーションを飲んでいただきました。勝手をしてすみません」

「そうか。だから気分が……ああ、でも……」


 彼は一瞬、幸せそうな表情を見せた。

 しかしすぐに悲しい涙が瞳から流れ落ちる。


「大丈夫ですか? まさかもう効果がきれて」

「いいや、お陰でとても楽だよ」


 口ではそう言いながら、彼はとても悲しそうな顔をしていた。

 私には表情の意味がわからない。

 ポーションの効果はちゃんと出ているはずだ。

 そうでなかったら会話すらままならなかったんだから。

 

「……私の妻が……街の西にある洋服屋にいます。彼女に伝言をお願いできませんか?」

「伝言。ですか?」

「はい。最後の言葉を……伝えてほしいんです」

「最後の?」


 だけど、彼の口から悲しい言葉を聞く。

 最後とはつまり、遺言だ。


「ポーションは……ありがとうございます。楽になれました……でもわかるんです。私はもう、長くない。貴女だって気付いている……でしょう?」

「っ……」


 そうだ。

 私は気づいている。

 目にしているのだから、嫌でもわかってしまう。

 ポーションを飲んで症状は治まった。

 ただ一つ、まったく変化してないものを除いて。


「紋様が……」

「ああ、消えていない。むしろ――」


 広がりつつある、とユレン君は言いかけた。

 フサキ君も気づいている。

 ポーションで鎮静化できたのは症状だけで、病を治すには至っていないんだ。

 おそらく、これまでに試したポーションと同じ経過をたどるだろう。

 一時的な改善から、さらなる痛みと苦痛を味わう結果に。


「……」

「そんな顔をしないでください。貴女のポーションは素晴らしい。お陰でこうして……話す時間を頂けたんです」


 彼は優しい言葉をかけてくれる。

 自らの死を悟りながら、無力を嘆く私に向けて。

 涙が出そうになる。

 目を、耳を背けたくなった。

 それでも私は、彼の言葉に耳を傾ける。

 彼の最後を看取る。


「伝言、お聞きします」

「ありがとう。妻には……一言……君と一緒にいられて幸せだった。どうか君も……君の幸せを見つけて……ほしい。そう伝えてください」

「はい。必ず」


 彼は本当に優しい人なんだ。

 最後の最後まで、誰かの幸せを願えるのだからだ。


 その後、彼は目を瞑る。

 二度と目覚めない眠りについてしまう。


「ぅ……っ……」


 自然と涙がこぼれ落ちてしまった。

 我慢しきれなくあふれ出した。

 そんな私の肩に、ユレン君がそっと手を乗せる。

 何も言わず、ただ見守ってくれていた。


 私はこの日初めて、人の死を経験したんだ。


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