61.ルイーア到着
その後も私は、村の人たちから話を聞いた。
彼らは口を揃えて同じことを言う。
気が付いた時にはもう病気になっていた。
予兆や前触れはなく、瞬く間に進行した病の症状が全身に現れる。
気味悪がる者、怖がる者が多く、追い出す様に大きい街のお医者様の元へ送り出したそうだ。
だが結果、病にかかった者はだれ一人戻ってきていない。
最初に発症した子供は、数週間ほど前にこの世を去った。
子供の母親も、その数日後に他界したと聞かされた。
「母親も同じ病で亡くなられたのですか?」
「いや、そっちは過労だと聞いたよ。寝ずに看病していたらしくてね? 息子さんを亡くして気力が落ちてしまったんだ」
「私らも聞かされた話だから本当かどうかわからないんだけどねぇ」
「そうですか……」
話通りに過労なのか、病が感染したのかどっちなのだろう。
感染者と長く接触することで自らも感染する危険性が高まるのなら、私たちも気を付けなければいけない。
これからしばらく、嫌でも多く触れ合うことになりそうだから。
後でアッシュ殿下に聞いてみよう。
「他にはありませんか? その、最初に感染したというお子さんのことで」
「うーん、変わったことは特になかったと思うんだがねぇ」
「病気になる前はどんな子でしたか? 元々身体が弱かったとか、ありませんでしたか?」
「いやいやむしろ元気な子だったよ。毎日森を駆けまわって遊んでた。危ないって注意しても勝手に遠くまで行ってしまうから、母親も苦労しておったよ」
元から身体が弱かったり、何かの病気を患っていたわけでもなさそうだ。
彼らの話によれば、そういった身体が弱い成人男性がいたらしく、彼は感染しなかったという。
その彼は現在、感染した人たちに付き添って大きな街へ移動した。
年老いた自分たちよりは動けるからと。
逆に言えば、身体の弱い彼しか頼れる人は残っていなかったということだった。
「お話を聞かせていただきありがとうございました」
「いいのよ」
「ワシらに出来ることはこれくらいだからね。少しでも早く、こんな病気なくしてください」
「はい。頑張ります」
村の人たちから一通り話を聞けた私は、馬車で待機していたみんなの元へ戻る。
ユレン君たちは、自分たちがいると話し難いかもしれないと気を聞かせて、村の入り口付近で待っていてくれた。
戻ってきた私の姿を見つけると、ユレン君とフサキ君が揃って駆け寄ってくる。
「姉さん!」
「もういいのか?」
「うん。お陰で話は聞けたよ」
二人と話した後、遅れてアッシュ殿下が歩み寄ってくる。
私は彼と視線を合わせる。
「お待たせしました」
「おう。じゃあ出発するか」
◇◇◇
アイル領の中心に位置する街ルイーア。
領民のほとんどが暮らす大きな街で、白く幻想的な街並みが特徴の美しい街だ。
観光地としても有名らしく、連日多くの観光客が足を運んでいた。
ただ現在は観光客の受け入れを完全に断っていて、街を歩く人の姿も少なくなっている。
街でも感染が広がっているらしく、住民の皆さんが怯えてしまっているんだ。
私たちの馬車は街を静かな商店街を抜け、アッシュ殿下の御屋敷にたどり着く。
馬車を停めて屋敷に入り、応接室で向かい合う。
アッシュ殿下が私に尋ねてくる。
「村人から聞いた話でわからないことはなかったか?」
「一つだけ。最初に感染した子供の母親が亡くなられたと聞いたのですが、過労というのは本当なのでしょうか?」
「ああ。その女性は感染してないよ。ご遺体にもそれらしき症状は見られなかった」
「そうですか」
つまり一緒にいることで罹りやすくなるわけじゃない?
でも一例だけじゃ判断できないな。
自分も感染しないように用心だけはしておかなきゃ。
「他にはあるか?」
「いえ、今のが聞きたかったことです」
「そうか。それじゃさっそく今日から動いてもらいたいんだが構わないか?」
「はい!」
私はやる気を再充填するために大きくハッキリ返事をした。
するとフサキ君も大きく手を挙げる。
「オレも手伝いますよ! 必要なものがあったら取りにいきますね!」
「うん。頼りにしてるね」
続けてユレン君も殿下に尋ねる。
「兄上」
「わかってるよ。お前も力になってやってくれ」
「ありがとうございます」
ユレン君が殿下に頭を下げる。
ありがとう、と言いたいのは私のほうだ。
私も彼に合わせてお辞儀をして、殿下が良い良いと言いながら手を振る。
「感謝の言葉は全部が片付いてからだ! そんじゃ頼むぜ、期待の錬成師」
「はい」
その期待に応えられるように、私は全力で取り組むと誓う。
◇◇◇
アリアたちが到着した頃と同時刻。
ルイーアの北方を地響きが襲い、周辺の村々が壊滅した。
村人たちも全滅。
死因は揺れと建物の倒壊によるものだとされたが、若い村人の遺体からは全て、茨の模様が確認された。
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