57.魔法使い
「はぁ……急にいなくなったと思ったら、やっぱりアリアの所に来てたんですね」
「ああ! お前が気に入ってる奴を見ておきたくてな」
「っ、そういう話は本人の前でしないでくださいよ」
ユレン君が頬を赤くする。
私のことを言っているから、嬉しいけど反応に困るな。
「はっはっはっ! まぁいいじゃないか!」
「先に話したのは間違いだったかな……」
「そう言うなよ。んじゃ改めて自己紹介させてもらうぜ? 俺はアッシュ・セイレム。この国の第二王子で、ユレンの兄だ。よろしくな」
「は、はい! こちらこそよろしくお願いします!」
私は深々と頭を下げる。
するとアッシュ殿下は豪快に笑いながら言う。
「そう畏まらなくて良い。お前は王宮の人間である前に、俺たちにとって大恩人だからな! 気軽に話してくれていいぜ」
「は、はぁ、いえその……」
「アリアの楽なほうでいいよ。無理に砕けて話すのは緊張するだろ?」
「なんだそうか? んじゃ好きにしてくれ」
ユレン君とアッシュ殿下が並んで立っている。
二人とも体つきから全然違うけど、なんとなく似ている。
雰囲気だって別なのに。
やっぱり兄弟って似ているんだな。
「なぁアリア、礼を言わせてもらえないか?」
「え、はい?」
「聞いたよ。お前のお陰でイリーナが元気になったんだろ?」
ああ、そういう話。
だからさっきも大恩人って。
「兄として礼を言いたい。本当ありがとう! それが言いたくて急いできたんだよ」
アッシュ殿下は笑う。
彼の笑顔は眩い太陽みたいで、イリーナちゃんの笑顔と重なる。
とても温かくて、包み込まれそうな感覚だ。
「どういたしまして。でも私はただ、自分にやれることをしただけですから」
「真面目だな。そういう所が気に入ったのか? ユレン」
「俺に振らないでくださいよ。まぁそこも一つですけど」
「そうかそうか。良い奴を見つけて来たな」
アッシュ殿下はユレン君の肩をドンドンと力一杯に叩く。
あまりに豪快過ぎて、ユレン君の身体が上下に揺れる。
「とりあえず用件はこれだけだ。邪魔して悪かったな」
「いえ、お会いできてよかったです」
「そうか。これからも俺の弟や妹と仲良くしてやってくれよな」
「はい!」
なるほど、確かに想像は裏切ってくれた。
良い意味で。
身体は大きくて威圧感はあるけど、それが全て包容力になっているんだ。
まるで太陽……ううん、全てを包み込む大空みたいな人。
「じゃあ俺たちはいくぜ」
「またな、アリア」
二人が背を向けて去っていく。
私もアトリエに戻ろうとしたけど、ふいに会話が聞こえてきた。
「なぁユレン、この後は予定空いてるか?」
「空いてますよ」
「よーし! そんじゃ久しぶりに稽古をつけてやるよ!」
「そのセリフを待ってました。ぜひお願いします」
二人の話が盛り上がって、稽古する流れになったようだ。
私は彼に聞いた話を思い出す。
アッシュ殿下は魔法使いだと。
「あ、あの!」
「「ん?」」
二人が揃って振り向く。
図々しいお願いなのは承知の上で、どうしても気になった。
魔法がどういうものなのか。
「もしお邪魔じゃなければ、お二人の訓練を見学してもいいですか?」
勇気を出してお願いしてみる。
二人は互いに顔を見合い、揃って答える。
「もちろんいいぜ」
「ご自由に」
「あ、ありがとうございます!」
私は改めて深々と頭を下げた。
胸のうちでワクワクが込み上げてくる。
◇◇◇
二人は場所を王城に移した。
王城の敷地内には騎士たちが訓練する場所があって、二人の稽古もそこで行われる。
広々とした殺風景な部屋で二人が向かい合う。
ユレン君は普通の木剣を持ち、アッシュ殿下は一回り大きな木剣を手にしていた。
「準備はいいか?」
「いつでも大丈夫ですよ」
「そんじゃ……いくぜ!」
アッシュ殿下の掛け声を合図に、二人は同時に駆け出した。
素早く接近し、剣が届く間合いまで詰める。
最初に攻撃を仕掛けたのはユレン君だ。
半身に構えて突きを連続で繰り出す。
鋭い一刺しの狙いは顔面。
しかしこれを首を傾け簡単に躱すアッシュ殿下。
大振りの一撃でユレン君に斬りかかる。
アッシュ殿下の剣のほうが大きくて重い。
その分遅くなるはずなのに……
「くっ……」
ユレン君がギリギリ反応できる速度で剣を振り下ろし、彼はなんとか剣で受ける。
たったの一撃の衝撃に耐えかね、ユレン君は片膝をつく。
「よく受けたな」
「これくらいじゃ終われませんよ!」
「その意気だ!」
ユレン君が気合いで打ち込み、それを受け流す。
終始アッシュ殿下が優勢のまま訓練は続いていた。
私から見ても力の差は明らかだ。
ユレン君の攻撃はほとんどかすりもしないし、手数は彼が多いのに、アッシュ殿下は余裕の表情。
純粋に強い。
攻防は約十分ほど続いて……
「はぁ……はぁ……」
ユレン君が床に大の字で倒れ込んだ。
体力の限界のようだ。
「一旦休憩だな」
「はい、それでお願いします」
ユレン君の隣に腰を下ろしたアッシュ殿下が、私に問いかけてくる。
「どうだ? こんな感じで見てても面白くないだろ? なんで見学なんて言い出したんだ?」
「いえその、魔法が見られるかなと思って」
「ん? それは無理だぞ。俺は魔法が使えるだけだからな」
「え……」
どういうこと?
疑問符が頭に浮かんでくる。
すると……
「なんだ? もしかしてリスクを知らないのか?」
「リスク?」
「その感じはマジで知らないんだな。魔法っていうのは人知を超えた力だ。だから使用者はリスクを伴う。具体的にはな? 魔法を使えば寿命を削られるんだよ」
「じゅ、寿命を?!」
魔法にそんなリスクがあったなんて知らなかった。
さっきの言葉。
魔法が使えるだけっていうのは、そういうことだったんだ。






