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5.同じ王子でも

5話以降は新規のお話です。

 王宮を追いだされて、私に残った物は何もない。

 何もなくなった私なんて無価値で、誰からも必要とされない。

 このまま人知れず、緩やかに人生を終えるのだろうか。

 そんなことすら考えていた私に、救いの手を差し伸べてくれた懐かしい友人。

 ユレン君だけは、私の努力を見ていてくれた。

 評価もしてくれた。

 必要だと言ってくれた。

 握ったその手は温かくて、優しいけどやっぱり強い男の子の手で、心強く感じた。


 私たちは見つめ合う。

 自分たち以外誰もいない古びた屋敷の中で。

 一言も発さず、ただ見つめ合うだけで、心がポカポカしてくるようだ。


「さて、そろそろ出発しようか? ここは明かりもないし、暗くなった森は特に危険だしな」

「え? 私なら平気だよ? 素材集めのために何度か野宿だってしてるし」

「だとしてもだ。俺一人ならともかく、女の子をこんな場所にいさせたくない。アリアは昔からわりと無茶するよな。もう少し自分のことを大切にしたほうがいいぞ?」

「う、うん」


 私のことを女の子として扱ってくれるのは、たぶんユレン君だけだろう。

 自分のことを大切にしてほしい……そんなこと、家族にだって言われたことがないのに。


「優しいよね、ユレン君って」

「ん? 何か言ったか?」

「ううん、何でもないよ」


 私は誤魔化す様に笑う。

 ユレン君は本当に聞こえてなかったみたいで、わからないと首を傾げていた。

 別に聞こえるように言っても良かったけど、意識すると恥ずかしいな。


「あ、そうだユレン君。行くってどこに?」

「もちろん、俺の家だけど」

「ユレン君の家……え? それってまさか――」


 セイレム王国のお城?


  ◇◇◇


 私の出身であり、ついさきほどまで仕えていたメイクーイン王国。

 その北東に位置する森を抜け、小さな山を越えた先にあるのが、隣国セイレムだ。

 国土はメイクーイン王国の半分以下で、人口も三分の一程度。

 小国ではあるものの、豊かな自然と豊富な資源に恵まれ、国民の生活水準は高いと聞く。

 特に国風は特徴的で、『自由』だ。

 これは何でもあり、という意味ではもちろんなくて、お互いに迷惑をかけない範囲で好きに生きようという意味が込められている、らしい。


「今の国風になったのも、俺の爺さんの代からだからな。最初っから自由なら、王も城もいらないし」

「そうだったんだね。私お隣の国のことは全然知らなくて」

「これから知っていけば良いさ」

「うん。あの、それはそれとして……」


 私たちは屋敷の一番奥にある暗くてジメジメした部屋に到着した。


「どこに向ってるの?」

「隠し通路だよ。ここから王城までは、地上を歩けば四時間以上かかる。森を抜けて小さい山を越えないといけないからな」

「四時間……」

「さすがに疲れるだろ? でもこの抜け道を通れば、一時間弱で着ける」


 部屋の中央の地下には、正方形でとって付きの扉が設置されていた。

 ユレン君がとってを引っ張り、扉をギギギとずらす。

 すると、扉の奥には地下へと続く石階段があった。


「これって」

「この屋敷の主は、当時王宮に仕える錬成師だった。ここは当時の名残で、彼が王宮とこの場所を楽に行き来できるよう作られたんだ」


 彼は説明しながら階段の一歩目を踏みしめる。

 私に大丈夫だと伝えるように振り返って、優しく手を差し伸べてくれた。

 彼の手を握り、暗い階段をゆっくりと降る。


「怖くないか?」

「う、うん。ちょっと怖いけど大丈夫」

「悪いな、少しだけ我慢してしてくれ。階段降りたらまっすぐ行くだけだし、外を行くより安全だから」


 そうは言われても、階段は暗くてよく見えない。

 ユレン君が手に持っている小さな明かりだけが頼りだ。

 もし仮に、彼が私の手を離して走り去ったら、私は暗さで何も出来ない。

 彼がそんなことをするわけないけど、何となく不安であった。


「ユレン君は一人でいつもここを通ってきてたの?」

「ああ」

「凄いね。王子様、なんでしょ? 護衛もつけずに一人で出歩いて大丈夫なの?」

「へーき平気。兄上たちは忙しそうにしてるけど、俺は第三だからそこまでだし。護衛だって、剣の腕なら騎士団長にも負けないぞ?」


 ユレン君は私の手を握っているのとは反対の腕を、力こぶを見せるように曲げて見せる。

 そんな彼の姿に、私は思わず笑ってしまう。


「何だよ、笑う所か?」

「あ、ごめん。おかしかったんじゃなくてね? 同じ王子様なのに、全然違うなって思ったから」

「ん? 誰と?」

「……メイクーイン王国の第二王子様だよ」


 あの人のことを思い出すと、少し気分が悪くなる。

 それでも思い出してしまうんだ。

 王子様と聞いて、あの嘘つきで怖い王子様のことを。


  ◇◇◇


 一年前のこと。

 私がようやく、念願の宮廷錬成師に着任したばかりの頃だ。

 右も左もわからない状況で、家の人はもちろん誰も手を貸してくれない。

 そんな中、初めて声をかけてくれたのが……


「やぁ、お困りのようだね? 新人の錬成師さん」


 鮮やかな金色の髪と青い瞳。

 絵に描いたような優しい笑顔を見せる。

 メイクーイン王第二王子、ラウルス・メイクン。

 彼は誰にでも優しく、好意的で、誠意があって、周囲からの支持も厚い。

 しかし、その全てが表でしかないことを、私だけが知ることになった。

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