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【WEB版】錬成師アリアは今日も頑張ります ~妹に成果を横取りされた錬成師の幸せなセカンドライフ~【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第三章

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56.アッシュ・セイレム

 魔法。

 それは奇跡を体現する力。

 理屈や常識を無視した現状の発生を、人の手によって引き起こす。

 最盛期だったのは大昔。

 世界は魔法によって繁栄を築いていた。


 だが、その繁栄は長く続かなかった。

 魔法は強力過ぎた。

 人の手に余る。

 小さな人間が手にしたことで膨張し、歯止めが効かなくなって。

 やがて争いが横行した。

 権力、土地、人、それら全てを奪い手に入れるために。

 力を行使すれば奪い取れる。

 奪われたくなければ力をつけなくてはならない。

 争いはより大きな争いを生んだ。


 世界は争いで満ちた。

 そんな世界を悲しいと思ったのかもしれない。

 誰かって?

 神様がいたんだ、当時は。

 人ではなく、動物でもなく、生命ならざる絶対の存在がいた。

 人知を超えた神様は、世界を正しい姿に戻すために、人々から魔法の力を奪ったんだ。


 そうして人類は衰退し、原始の生活に戻る。

 やがて穏やかに、緩やかに進化を続けて、新しい人類史を作る。

 魔法という万能な力を失ったからこそ、人々は知恵と勇気を振り絞った。

 人々が生きていくために、魔法は必要なものではなかったようだ。


 それでも尚、奇跡の力に夢を見る者はいる。

 何十年、何百年かかろうとも、それを手に入れたいと願った者たちが。

 だから神は再び与えた。

 奇跡の力を。

 ごくわずかな……選ばれし人間にのみ。

 

  ◇◇◇


「ユレン君のお兄さんが……魔法使い?」

「ああ。だからってわけじゃないけど、この国で一番強い人って言われてる。俺の目から見ても実際そうだからな」

「な、なんだか凄そうだね……」

「凄い人だよ。ただたぶん、アリアの想像は裏切るかな」


 そう言ってユレン君はニヤリと笑う。

 私の想像は、一言で表すと大きくて怖い男の人……なんだけど。

 違うっていうならどんな人なのかな?

 気になって色々と想像を膨らませていると、ユレン君が私に言う。


「近いうちに会えると思うよ。そろそろ一時帰国される頃だから」

「帰国……今は外の国にいるんだ」

「ああ、外交半分、けん制半分くらいの名目でね。兄上がいるから、この国に正面切って喧嘩をしかけてくる国はいない。そのことをアピールする目的もあるんだよ」

「な、なるほど……」


 ますます気になってくる。

 ユレン君のお兄さん……アッシュ・セイレム第二王子様。

 一体どんな人なのだろう。

 会える日が楽しみだ。


「その時は俺から紹介するよ。初対面は緊張するよな?」

「うん! そうしてくれると嬉しい」


 その後もしばらく二人で盛り上がった。

 他愛ない話も多かったけど、ユレン君のお兄さんの話も聞けた。

 ユレン君に剣術を教えたのはお兄さんらしい。

 小さい頃から武闘派で、よく稽古をつけてもらっていたそうだ。

 ユレン君が一度も勝てない程にお兄さんは強敵だという。

 

「次に戻って来られたら、また稽古をつけてもらうつもりだよ」

「今度は勝つ?」

「そのつもりでいるよ。よくわかったな」

「顔に描いてあるからね」


 ユレン君は顔に出やすい時があるよね。

 私とかヒスイさんの前では特に。

 気を許してくれている証拠なんだと思って、一人で嬉しくなった。

 

  ◇◇◇


 穏やかで楽しい休日を過ごした翌日。

 私はいつものようにアトリエで仕事に励んでいた。


「これ室長さんのとこに持っていけばいいんですか?」

「うん、お願いして良いかな?」

「了解です。パパっと渡してきますよ!」


 元気になったフサキ君も一緒にせっせと働いてくれている。

 彼に室長さん宛の荷物を預けて、私は自分の作業に集中していた。

 錬成台の光と音、それ以外には聞こえない。

 集中していると、周りの音は聞こえなくなる。

 こういう時にこそ、ユレン君が急に声をかけてきたりする。


 と、思った時に気配を感じた。

 ユレン君じゃないのはすぐに分かった。

 だって……威圧感が違ったから。

 誰かがいる。

 大きな存在感を放つ人が、アトリエの前に。

 私は恐る恐る扉を開ける。


「あの……どちら様でしょう?」

「お? 俺に気づくとは中々鋭いじゃないか」


 扉の前に立っていたのは大きな男性だった。

 壁?

 それとも大樹と表現するべきだろうか。

 身体の大きさもだけど、存在感がそんな気がして。

 

「お前が新しい錬成師だよな?」

「は、はい。アリア・ローレンスです」

「アリアか。良い名前だな」

「あ、ありがとうございます」


 知らない人だけど、服装からして高貴な身分なのは間違いなさそうだ。

 それ以上に気になるのは、背中に背負っている大きな剣。

 身の丈ほどある大剣を背負っている。

 騎士さん……には見えなくもないけど、誰かに似てる気がした。


「話はいろいろ聞いてるぜ? 凄腕なんだってな! 俺の妹も助けてくれたみたいで、感謝してるよ」

「は、はぁ……妹?」


 もしかしてこの人……


「あ、そういや自己紹介がまだだったな? 俺は――」

「兄上! 勝手にいなくならないでくださいよ!」

「ユレン君?」

「遅いぞユレン!」


 ユレン君が息を切らしながら走ってきた。

 そして彼は兄上と口にした。

 つまりこの人が……この国で一番強い人、ユレン君のお兄さん。

 第二王子アッシュ・セイレム様なんだ。


 道理で誰かに似ているわけだよ。

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