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【WEB版】錬成師アリアは今日も頑張ります ~妹に成果を横取りされた錬成師の幸せなセカンドライフ~【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第三章

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52.強引な自分

「今日もよろしくお願いします!」

「う、うん」


 毎朝、気合いの入った挨拶をしてくれる。

 これだけなら単にやる気をアピールしているだけなのに、彼の場合は少し違う。

 傷ついた身体を無理やり酷使して、情けないと思い込んだ自分を追い込んでいるよう。

 実際そうなのだろう。

 私やユレン君がどれだけ言っても無茶をする。

 昨日の夜、ユレン君とも相談したけど、結局はやりたいようにさせるのが一番という結論に至った。

 仮に私たちが強く注意して休ませようとしても、きっと別の形で無茶をするだけだ。

 そんな危うさを感じられる。

 ならせめて、目の届く距離でいてくれたほうが安心する。


「本当は休んでいてほしいけど」


 そんな言葉は届いていない。

 いや、届いてはいるけど聞いてはくれない。

 良い意味でも悪い意味でも、彼はまだ子供だから。

 少し前なら私より落ち着いていて、周りをよく見ているし、ある程度のことは割り切っている感じが大人っぽかったけど。

 一つ脆さが現れたら瞬く間に崩れ落ちていく。

 風で飛んでいく砂山のようだ。


「姉さん、この箱ってここでっ」

「フサキ君!」

 

 大きめの木箱を運んでいたフサキ君が、突然箱を落として膝をついた。

 あわてて駆け寄ると、額から汗が流れ落ちている。

 表情でも痛みに耐えているのが伝わってきて、私は視線を彼の背中に回した。


「フサキ君、背中の傷から血が」

「っ……」

「傷が開いてるよ。すぐに治癒ポーションを出すから!」

「ま、待ってください!」


 立ち上がろうとした私の腕を、フサキ君が弱々しく握る。

 

「オレなんかのために貴重なポーション……使わなくて良いですよ」

「何を言ってるの? ま、まさかフサキ君……私が送ったポーションも飲んでないんじゃ」

「……」


 おかしいとは思っていた。

 いくら重症とは言え、適切な処置をされた後に治癒系のポーションを一通り彼に渡しておいたんだ。

 深い傷でも、何度か飲めば回復力が上回る。

 痛みだって弱まるのに、その兆候がまったく表れなかった。

 つまり彼は、飲んでいないんだ。


「どうして?」

「……オレなんかに」

「ふざけないで!」


 自分でも驚くほどに大きな声が出て。

 もしイリーナちゃんが近くにいたら、驚いて後ずさっていたかもしれない。

 それくらい、私は怒っていた。


「命は一つしかないんだよ? それを大事にしなくてどうするの!」

「姉さん……」

「まずは飲んで! ここまで治癒してる傷なら、これ一つで全快できるから」

「……でも……」


 しぶるフサキ君。

 普段と違って興奮している私は、そんな彼の態度に苛立った。

 苛立って、無理やりポーションを口に突っ込んだ。


「むぐっ」

「いいから飲むの!」


 本当に意外だ。

 これほど強引になったのは生まれて初めて。

 命を大切にしない考え方が許せなかったのかも。

 

「……ぷは」

「どう? 傷の痛みは?」

「……痛みはなくなりました。たぶん、塞がったんだと思います」

「本当に? ちょっと見せて」


 念のために確認を。

 私は彼の服をまくり、背中を確認する。

 包帯でぐるぐる巻きにされている上から、軽く触ってみた。

 痛いなら表情を変えるはず。

 それはなかったから、包帯を外してみる。

 どちらにしろ血が付いているから、新しい物に替えないといけない。

 包帯を外すと、傷口が顔を出した。

 

「塞がってるね。痕は残ってるみたいだけど」

「そう……ですか」


 あまり嬉しそうじゃない。

 どうせまた、手を煩わせてしまったとか考えているのだろう。


「すみま――」

「謝罪は禁止だよ」

「え?」

「謝罪って言うのは、本当に悪いことをしたときにするものでしょ? フサキ君は悪いことなんてしてない。こういう時に言うのは、感謝のほうじゃないかな?」


 なんて、自分で言っていて恥ずかしい。

 偉そうに言っているけど、私だってよく謝るし、感謝よりも謝罪を優先することが多かった。

 だからこそ学んだ。

 誰かを助けて謝られるより、感謝されるほうが嬉しいと。


「ありがとう……ございます」

「うん」


 やっぱり、ありがとうは嬉しいよ。

 大切な人たちから言ってもらえるなら尚更。


「フサキ君、聞いても良いかな?」

「何をですか?」

「フサキ君のこと。ここに来るまで、イリーナちゃんの護衛になる前のこと」


 聞くつもりはなかったけど、自然と言葉になって現れた。

 知りたかったことだ。

 ユレン君が公爵様に聞くのを待つのも良かったけど、本人の口から聞きたいと今は思っている。


「……そんなの聞いても面白くありませんよ?」

「面白さは関係ないよ。ただ知りたいんだフサキ君のこと」

「オレのことなんて」

「またそういう。なんかとか言わないで」


 私は彼の手を優しく握る。

 いつか、ユレン君がしてくれたように。


「私は知りたい。これからも一緒にいる相手のことだから、ちゃんと知っておきたいの」

「……これからも……ですか」

「うん。私も、ユレン君たちも同じ気持ちだから」

「……そうですか」


 フサキ君はどこか切なげに、ホッとしたように目を伏せる。

 私が握った手が、僅かに震えたように感じた。


「わかりました。オレの話、聞いてください」

「うん」


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