50.少しは進めたかな?
後悔したから、したくないと思う。
あの時と同じ。
何も出来ないまま、黙ってみているなんてしたくない。
そうならないように、私は備えてきた。
「これを飲んで!」
「お……姉さま?」
「私が錬成した解毒ポーションだよ! どんな毒でも治せるから!」
毒に対しては特に気を張っていた。
どんな毒でも解毒できるポーションは存在しない。
だから私が作った。
毒で死ぬ人がいなくなるように。
過去の大きな失敗から学んだことだ。
「でも……私は……」
「良いから飲んで! 後悔してて、償いたいと思ってるんだよね?」
「……はい」
「だったら生きて償わないと駄目だよ! 一人で死んだって誰も褒めないし喜ばない! 本当に償いたいなら、セリカの力でたくさんの人を助けなきゃ!」
「私の……」
私はそうする。
そうして生きていく。
消えない後悔を抱えながら、前へと進んでいく。
彼女にも同じように、前を向いて生きてほしい。
先を行った一人の先輩としてじゃない。
彼女の……姉として思う。
「生きてなさい! セリカ!」
返事を聞く間もあたえず、彼女の口に解毒ポーションを流し込む。
本当はよくないことだけど、待っていたなら時間切れになる。
ポーションを飲み干したことで毒が消え、セリカの顔色が良くなっていく。
冷たかった肌にも、徐々に熱が戻ってきた。
「お姉さま……私……」
「アリアの言う通りだ」
「ユレン君」
彼は剣を納めて微笑む。
「償い方を間違えるな。償うなら、自分にしか出来ない方法でやれ」
「私にしか出来ない……」
「君も錬成師なんだろ? なら、見習うべき人が近くにいるんだ。今からでも遅くはない。少しずつ、学んでいけば良い」
彼はこんな時でも優しい顔をする。
怒っても良い立場なのに、まるでもう許してしまったように。
「それでいつか、俺の国に貢献してくれ」
「……はい」
こうして、一つの因縁が決着した。
◇◇◇
一週間後。
事後処理がひと段落して、私とユレン君はあの丘を訪れていた。
風が颯爽と吹き抜け、髪がなびく。
「気持ちいいね」
「ああ、天気も良いし最高だ」
あれから、ラウルスは地下の特別牢獄に入れられた。
罪を罪と認識せず、悪いと思っていない彼にはどんな言葉も届かない。
すでに隣国の王子ではなくなっている彼なら、この国の法で裁くことが出来る。
下された判決は、死ぬまで一人、寂しく生き続けること。
殺したところで罪の償いにはならない。
野放しにすればまた罪を重ねる。
ならば最後まで、苦しみながら生き続けてもらおうと。
「せめて来世があるなら、まともな人間に生まれてほしいものだな」
「うん……」
生まれが違えば、別の生き方があったかもしれない。
そう思うようにしている。
「フサキ君も元気になってよかったよ」
「だな。あいつが一番重傷だったのに、けろっとしてるのは驚きだが」
私が眠らされた後、フサキ君は残った盗賊を倒してしまったらしい。
あの傷で動けただけでも凄いのに、盗賊三人を相手に勝利したなんて信じられない。
痛みで意識を保てたこともうまく働いて、結果的に私の居場所をユレン君たちに伝えてくれた。
彼には感謝してもしたりない。
それから……
「セリカも頑張ってるかな」
「頑張ってるだろ。アリアの妹なんだ。頑張ると決めたならもう迷わないだろ」
「そう……かな? そうだと良いな」
彼女は今、王都の街で店を構えて働いている。
今回の一件に関して、彼女はラウルスに脅され利用されただけだった。
毒物や他の薬品も作っていたみたいだけど、どれも彼女の意志じゃない。
もしも逆らえば、女である彼女の未来は暗かった。
最初は恐怖で従っていたみたいだけど、次第に精神が摩耗して、何も考えられなくなっていたようだ。
そんな彼女は罪を償いたいと願った。
彼女にしか出来ないこと、錬成師としての償いを。
さすがに王宮で働くことは出来ないから、街で住民の皆さんの助けになってもらおう。
ちゃんと働いているかは、定期的に見に行くつもりだ。
「本当……助けられて良かった」
「ああ、俺もだよ」
いつか起こる悲劇を回避するために、常日頃から備えておく。
悲しくて悔しい過去があったから、こうして助けられた命がある。
「ねぇユレン君」
「ん?」
「私……少しは前に進めたかな?」
「――ああ、俺が保証するよ」
以前、この場所で誓った。
次のここへ訪れる時は、お互いに成長していようと。
ユレン君が日々前へ進んでいることは、私だけじゃなくてみんなが知っている。
私が進めているかどうかは、ユレン君が見ていてくれる。
彼がそうだというなら、きっと進めているのだろう。
「じゃあ今度来るときは、もっと頑張らないとだね」
「そうだな。お互い、やりたいことはハッキリしてるんだ」
「うん」
この国をもっと良い国にするというユレン君の夢。
彼の夢を支えたいという私の願い。
私たちは前を向く。
新しい場所で、新しい明日を思い描いて。
国を渡り、立場を超えて。
私たちは繋がって、一歩一歩進んでいくんだ。
これにて第二章完結です!
いかがだってでしょうか?
少しでも面白い、胸がきゅんとなったと思って頂けたら嬉しいです!
ここまで読んでくれた方々に最上の感謝を。
そして再三のお願いですが二章も終わりましたので改めて。
面白い、続きが気になるという方はページ下部の☆☆☆☆☆から評価してください!
どうか、ぜひ……ぜひお願いします!






