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【WEB版】錬成師アリアは今日も頑張ります ~妹に成果を横取りされた錬成師の幸せなセカンドライフ~【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第二章

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49.後悔しないために

 鎖で繋がれ動けない私の前に、ユレン君とヒスイさんが駆けつけてくれた。

 二人とも剣を握り、息を切らしながら走ってきたのだろう。

 私を見つけて安心するユレン君と、彼が助けに来てくれたことに安堵する自分。

 その間を邪魔するように、ラウルスが姿を現す。


「まさかこんなにも早く再会できるなんて嬉しいよ。手間が省けたよ」

「ラウルス、彼女を攫ったのはお前だな?」

「見ての通りさ。僕以外にこんな鮮やかなことが出来ると思うかい?」


 ラウルスは得意気に語る。

 今さらながら、悪いという気持ちは一切ないようだ。

 あの頃と同じ、変わっていない。


「そうか。最近になって盗賊にまとまりが出来たのもお前の影響か? なら合点がいったよ」

「その通り。まとめるのは中々に苦労したけどね? 何せ美学の通じない野蛮な連中だ」

「美学……お前にそんなものがあったとはな」

「あるさ。僕の存在こそ美であり至高だ。今もなお、それは変わらない」


 ラウルスはニヤリを笑う。

 発言から感じられる究極のナルシズム。

 彼は自分が世界の中心にいて、全て自分を起点に周っていると思っていそうだ。

 いや、思っているのだろう。

 だから犯罪行為も、彼の中では美化される。

 悪いなんて、思うはずもない。


「一応、参考までに聞かせてほしいのだけど、どうやってここがわかったんだい?」

「うちの護衛は優秀なんだ。傷つきながらでも、彼女を探す糸口を残してくれたんだよ」


 そう言ってユレン君は左手首を見せつける。

 ラウルスはその動作の意味が理解できず首を傾げる。

 でも私には、理由がハッキリとわかった。

 フサキ君が手首に巻いていた細い糸、それを私に巻き付けて、ここまでの道を示してくれていたんだ。


「ユレン君! フサキ君は?」

「無事だ。今は街で手当てしてもらってるよ」

「良かった……」


 心からホッとする。

 彼が死んでしまっていたら、私はまた潰れてしまっていただろう。

 それにフサキ君はあんな状況でも、私のことを守ろうとしてくれたんだ。

 不謹慎かもしれないけど、私にはそれが嬉しかった。


「ふん、よくわからないが彼らがしくじったんだね。これだから無能な連中は困るんだ」

「盗賊たちなら制圧中だ。もう終わりだラウルス、彼女を解放しろ」

「それは出来ないよ。言っただろ? 手間が省けたって。最初から彼女を捕まえたのは、君を呼び出すためだったんだよ?」


 ラウルスはユレン君を指さす。

 身構えるヒスイさん。

 ユレン君は手で制止し、ラウルスに問う。


「俺を? 何のために?」

「決まっているだろう? 僕がもう一度王子に戻るための駒になってもらうのさ!」

「……頭がおかしくなったのか? 今さらそんなこと不可能だ」

「いいや出来るさ! 全てが君の策略だったと証言してしまえば良いだけだ! 足りなければ薬でも何でも使ってしまえ! 君たちがそうしたように」


 悪意、恨み。

 ラウルスの視線から感じられる感情が、私とユレン君に向けられる。


「そこまで堕ちたか……俺と彼女が協力すると思うか?」

「君はともかくアリアは必要ない。彼女は君を呼び出し交渉するための人材だ。代わりはもう用意してある」

「代わりだと?」

「ああ。セリカ」


 ラウルスに命令され、私の背後からセリカが顔を出す。

 ここで囚われている間、彼女はずっと無言で後ろに立っていた。

 話しかけても応えず、心を失ったように。

 その右手には毒の入ったポーション瓶が握られている。


「もし君が拒否すれば、アリアはここで毒を飲む」

「なっ……」

「強力な毒だ。飲めば一分もたたずに絶命するだろうね」

「っ、ラウルス!」


 ユレン君の叫びをあざ笑う。

 勝利を確信したラウルスは、得意げに笑いながら言う。


「どうだい? 君に選択肢なんてないんだよ? 彼女は大事なんだろう? 何せ僕を陥れてまで庇ったんだから」

「貴様……」

「ユレン落ち着け。わかってるだろ? 無暗に首を振るなよ」

「わかってる。わかってるが……」

 

 選択肢はない。

 彼は王子であり、セイレム王国を治める立場だ。

 一人の犠牲よりも、自身の安全を優先する義務がある。

 ヒスイさんも立場上、何を犠牲にしてでも主を守らなければならない。

 だから二人とも動けない。


「わかってると思うけど、僕に手を出そうとすれば同じことだよ?」

「っ……」

「ユレン君! 私のことより」

「気にするに決まってる!」


 ああ、そうだ。

 ユレン君ならそう言う。

 自分のために犠牲になった人たちを憂い、悲しみ、覚えている。

 そんな彼が、目の前で起こる犠牲を認められるはずもない。

 立場を優先しても、感情を優先しても。

 望んだ未来は手に入らない。

 

「お姉さま」


 諦めかけた時、彼女が私を呼んだ。


「セリカ?」

「――ごめんなさい」


 涙と謝罪。

 直後、彼女は持っていた毒を自分で飲み干した。


「なっ――何をしている!?」


 ラウルスも予想外の行動だったらしい。

 動揺を隠せず、取り乱す。

 その一瞬を突いてユレン君が駆け出し、ラウルスを斬り伏せた。


「ぐおっ……」

「お前には後で罰を与える。ヒスイ!」

「拘束しておく!」

「頼んだ!」


 ユレン君が私のほうへ駆けつける。


「ユレン君!」

「大丈夫だ! すぐに外す」


 彼は繋がれた鎖を剣で切断してくれた。

 動けるようになった私は、毒を飲んで倒れたセリカを抱きかかえる。

 

「セリカ! どうして自分で……」

「ごめんなさい……私の所為で……たくさん人が死んだの」


 彼女の瞳から涙がこぼれ落ちる。

 本物の哀しみが混ざった涙は冷たく、彼女の頬から私の手に伝って落ちる。


「ごめんなさい……ごめんなさい」

「セリカ……」


 彼女からは後悔が伝わってくる。

 きっと今も、ラウルスに協力していたわけじゃなくて、利用されていたのだろう。

 私のように脅されたのかもしれない。

 王国を追い出され、何もなくなった彼女はそうするしか道はなかったのかも。

 

 そして今、彼女は罪の意識に耐え兼ね、自ら命を絶とうとした。

 自らの命で、過ちに報いるために。


「駄目……そんなの償いにならないよ!」


 私は知っている。

 本当に償いたいなら、どうすればいいのか?

 彼女は死ぬべきじゃない。

 後悔しているなら、生きて償うべきなんだ。


 私だって――


「後悔したから、今があるんだよ」


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