43.初めてのお出かけ?
二人の思い出。
病と闘う王女と、それを支えた少年のお話は、私の胸をじーんと熱くさせた。
私が知らない所で、きっとユレン君も知らない二人だけの時間があったのだろう。
こんなにも素敵な話があるのかな?
「優しいね、フサキ君は」
「そんなことないですよ。任務でしたから」
口ではそう言っているけど、仕事以外の感情が籠っていたのは明白だ。
当時を語る彼の表情は、懐かしさと憂いで満ちていた。
彼女の苦しみを身近で感じ、どうにかしたいと思っていたに違いない。
自分ではどうしようも出来ない歯がゆさを感じていたから、今みたいな表情ができるんだ。
フサキ君はまだ子供だけど、心は大人に負けないくらい育っている。
もしかしたら私より、強い心を持っているかも。
「私も負けてられないな」
「え、なんの話ですか?」
「ううん、なんでもないよ」
キョトンとするフサキ君は可愛らしく、年相応の子供らしい表情の変化を見せる。
彼がイリーナちゃんを支えて笑顔を守ったように、私もユレン君を支えられるように頑張ろう。
二人の馴れ初めを聞いた私は、密かに胸の内でそんなことを思っていた。
◇◇◇
ある日のアトリエ。
私とフサキ君、イリーナちゃんも交えて頭を悩ませていた。
「うーん、これも失敗ですね」
「素材が足りなかったのでしょうか? どう思いますかお姉さま」
「……繋ぎになる素材が足りない、と思う」
以前から進めている小麦作り。
最初の一つは成功したものの、その後は苦戦していた。
形になったものはいくつかあるが、量産するまで到達できない。
作成の工程が難しすぎて、私の錬成でしか作れないのでは意味がないんだ。
「フサキ君、あと残ってる素材は?」
「ちょっとお待ちを」
彼が木箱を軽々持ち上げる。
「よいしょっと、素材の箱も随分軽くなりましたね」
中身は注文して仕入れてもらった素材たち。
といっても半分以上は使ってしまって、中は涼しくなっている。
「また仕入れてもらいますか? 素材表出しますよ」
「ううん、あの中にあった素材じゃ駄目だと思う」
「ですよね~ もう一通り試しましたし」
「あ! でしたら以前に話していた『七ノ葉草』はどうでしょう?」
イリーナちゃんの提案にハッとなる。
「それです!」
何かが足りないと思っていた。
素材と素材を繋げるもう一つの素材がほしい。
汎用性が高く、厳しい環境でも育つ植物。
しかも七ノ葉草は、育つ環境によって七種類の葉っぱに変化する。
それぞれがもつ効果が異なり、汎用性でいえば断トツだ。
「それが育ってる場所なら知ってますよ」
「本当?」
「はい。フローリアっていう街の近くで見つけました。でもあれ、確か採取方法が難しいんですよね?」
「うん。葉の種類にあった適切な処理をしないと、抜いてからすぐ枯れちゃうんだ」
葉の見分け方も難しい。
猛毒をもつ葉と、食用になる葉の形が似ていることもあって、知識のある人でも避けがちな素材だ。
私も実物は見たことがないし、処理も知識として知っているだけ。
だけど今は、その素材が必要になる。
フサキ君が私に尋ねる。
「どうします? 依頼を出しておきますか?」
「ううん、たぶん自分で採りに行ったほうが良いと思う」
「そうですよね。素材リストにないですし。んじゃオレが外出の手続きしてきますよ!」
と言って、出口に駆け出そうとしたタイミングで。
「その必要はないぞ」
「うわっ! 殿下!?」
「ユレン君」
「お兄さま!」
ユレン君が扉を開け、アトリエにやってきた。
三人とも気付くのが遅れて驚き、アトリエ内に響く大きな声を出した。
彼は歩きながら話す。
「話は聞かせてもらった。フローリアに行きたいんだろ?」
「うん。素材を集めにいきたくて」
「だったら丁度良い。明後日に行こうか」
「明後日?」
明後日、ユレン君たちもフローリアに行く予定があるという。
私たちもそれに同行する形なら、許可をもらわなくても問題ないそうだ。
「ユレン君がわざわざ出向くなんて、何かあったの?」
「いいや、ただの定期監査だ。あそこは俺の管轄の領地だからな」
「あーそういえばそうでしたね! 時期もぴったりだ」
フサキ君の反応……知っていたみたいだ。
さっき口にした許可も、ユレン君に話しに行くつもりだったのかな?
「どうする? 都合が悪ければ別日で許可を出すけど」
「ううん! 私もその日が良い」
「じゃあ決まりだ。早朝には出発するから、当日は遅れないように準備しておいてくれ」
「うん」
それから時間はあっという間に過ぎ。
当日の朝。
私とフサキ君は王城の前で、ユレン君たちを待った。
「姫様は残念でしたね~ 一人だけお留守番なんて」
「それは仕方ないよ」
元気になったとはいえ、気軽に外出するのは危ない。
イリーナちゃんも理解しているから了承していたけど、ちょっぴり寂しそうだった。
「お土産でも持ち帰りましょう。きっと喜びますよ」
「そうだね」
フサキ君から土産話の一つでも話してあげたら、きっと喜ぶと思う。
話をしていると、王城のほうから馬に乗ったユレン君とヒスイさんがやってきて。
「お待たせ。それじゃ行こうか」
「うん」
私は密かにワクワクしていた。
この国に来て、初めての遠出だから。






