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【WEB版】錬成師アリアは今日も頑張ります ~妹に成果を横取りされた錬成師の幸せなセカンドライフ~【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第二章

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42.病と闘う君を

 もくもくと作業が進む。

 集中すると三人とも会話が減って、錬成台の起動音と素材や工具の音だけが響く。

 時計の針が進む音も、立ち位置によってはよく聞こえる。


「あ、姫様」

「なに? フサ君」

「そろそろ戻る時間じゃないですか? ほら時計」

「え、あ! 本当だ!」


 イリーナちゃんは驚き大きな声をあげる。

 彼女の声をきっかけに、アトリエ内は少し騒がしくなる。


「ごめんなさいお姉さま! 私そろそろ次のお稽古があるので戻らないと。まだ途中なのに……」

「気にしないでください。私もお仕事頑張るので、イリーナちゃんも王女として頑張らないと」

「はい! 頑張ります!」


 手元に触っていた素材を丁寧に並べると、イリーナちゃんは出口の扉に向う。

 元気いっぱいに振り返り、にこやかに言う。


「それじゃ行ってきます! 早く終わったらまた来ますから!」

「はい。いってらっしゃい」

「無理しちゃ駄目ですよ~」

「うん!」


 イリーナちゃんは可愛らしく手を振って、庭をかけ王宮のほうへ行ってしまった。

 私とフサキ君は彼女が見えなくなるまで見送る。

 

「元気になって良かったですね~ あんなに走り周る姿なんて、昔じゃ考えられなかった」


 私の隣で彼が言う。

 病気と闘っていた頃の彼女をフサキ君は知っている。

 当時のことを思い出しているのか、その表情からは懐かしさを感じる気配がした。

 彼は私のほうへ視線を向ける。


「姉さんがポーションを作ってくれたんですよね?」

「ええ、そうみたい」

「もう散々言われたと思いますけど、オレからもお礼を言わせてください。姫様を助けてくれて、ありがとうございました」


 フサキ君は深々と頭を下げた。

 普段はおちゃらけている彼が、真剣な顔と声でお礼を言う。

 心の底から、イリーナちゃんのことを案じていたからなのだろう。

 彼女が病気だと知ったのはつい最近だけど。

 私が作ったポーションで、彼女は元気になってくれた。

 多くの人の役に立ってほしい。

 そう思って作った物で、彼女の命を救っていたことは、本当に良かった思う。


「ねぇフサキ君、昔のイリーナちゃんってどんな様子だったのかな?」

「え? 昔って病気だった頃ですか?」

「うん」

「気になるんですか?」


 気になる。

 病気で苦しんでいる人の様子が知りたい。

 と言い換えると性格が悪いけど、私だけ知らなくてみんなが知っているから。


「駄目かな?」

「別に良いですよ? 隠すことじゃないですしね~」

「ありがとう。じゃあえっと、作業しながら聞いても良いかな?」

「もちろん。仕事サボってたらそれこそ姫様に怒られちゃいますからね」


 私たちはアトリエの中に戻る。

 フサキ君は空になったポーション瓶を洗い、私は錬成台の前で作業する。


「姫様の昔ですけどね。大体は今とおんなじでしたよ」

「え? そうなの?」

「はい。あーでも、オレが護衛に付いたばかりの頃は大人しかったかな? 部屋のベッドで本を読んでて、つまんなそうな顔してました。まさに囚われの姫って感じでしたよ」

「囚われの姫……」


 今の彼女からは想像が出来ない。

 彼は話を続ける。

 数年前から今日に至るまで、姫と護衛の間に出来た物語を。


  ◇◇◇


 イリーナ・セイレム。

 セイレム王国の幼き王女。

 彼女は生まれつき身体が弱く、その原因となっている病の名は先天性マナ循環障害。

 昔からある病にも関わらず、未だ治療薬が完成していない難病だった。

 マナは体内に宿る生命エネルギーの別称。

 命そのものと言っても過言ではない。

 彼女の抱える病は、マナを急激に消費してしまう恐ろしいものだった。

 食事をとっても栄養にならず、身体を動かしても筋肉はつかない。

 頑張れば頑張るほど衰え、衰弱していく。

 だから彼女は、部屋からまともに出ることが出来なかった。

 それどころか、ベッドの上から降りることすら辛いほど。


 吹き抜ける風が本のページをめくる。

 窓は開いていて、青い空が見える。

 外はとても心地よさそうな日差しが降り注いでいるのに、自分は出ることが出来ない。


「……このままなのかな」


 一生、何も出来ずに終えていくのか。

 そんな寂しさを感じていた彼女の前に、彼は唐突に現れた。


「つまんなそーな顔してますね~」

「え?」


 窓から颯爽と現れた彼はまるで、囚われの姫を救い出すためにやってきた王子様のように。

 無邪気な笑顔で語り掛ける。


「本読んでもつまらないなら、オレが面白い話をしてあげますよ!」


 それが二人の出会いだった。

 当時の彼女は、フサキが護衛になったことを知らなかった。

 彼もあえて口に出さず、友人のように接していたから。

 王女である彼女が気兼ねなく話せる相手になれるようにと、彼なりの配慮だった。


「ねぇフサ君! その後はどうなったの?」

「やばかったですよ~ そのまま海に落っこちちゃってビショビショ」

 

 彼の明るさが上手く作用して、イリーナも次第に活力を取り戻していった。

 いつか病気を治して、外の世界を見たい。

 庭を駆け回りたい。

 そんな風に彼女が思えるようになったのは、フサキの存在が大きかっただろう。


「その時はフサ君が案内してね?」

「もちろんですよ! 世界中のどこだって連れて行ってあげますから!」


 病と闘う彼女を見てきた。

 彼は傍らで、肉親以上に近しい距離で。


 そして半年前。


 イリーナ姫は病から解放された。

 隣国の錬成師が作り上げたポーションの力で。


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