表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【WEB版】錬成師アリアは今日も頑張ります ~妹に成果を横取りされた錬成師の幸せなセカンドライフ~【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/84

39.自分の目で確かめろ

 執務室で話す二人。

 ユレンとガーデン公爵。


「報告は以上です」

「わかった。引き続きそちらの領地については任せる」

「はい」


 定期報告を終えて、会話に区切りが出来る。

 数秒の間が生まれ、公爵が話を切り出そうとする。


「殿下」

「そういえば、先ほどは随分と面白い会話をしていたな?」

「――! 聞かれていたのですか?」

「まぁな。言っておくが盗み聞きしていたわけじゃないぞ? 偶々通りかかっただけだ。道を塞がれては進めないだろ?」


 にやにやと笑いながら語るユレン。

 それを盗み聞きと言うのだ、と言いたげな公爵はため息をこぼす。


「アリアはどうだった?」

「……そうですね。意気込みは本物だったと認めましょう」

「それだけか?」

「……殿下の信頼も感じました。以前の発言を撤回するつもりはありませんが、結論を出すのは早計だったと反省しています」


 ユレンは公爵らしい返事だと思いホッとする。

 しかし、話をここで終わらせるわけにはいかない。

 彼は引き出しからナイフを取り出し、テーブルの上に置く。


「このナイフに見覚えはあるだろう?」

「……はい」


 公爵も嘘はつかない。

 最初からこの件について自白するつもりだった。

 先にユレンから話を出されてしまったことで、言い出すタイミングを失っただけ。

 仮に話を持ち出されなくても、気づかれていなくとも、自分から話すつもりで覚悟を決めていた。


「今回はやり過ぎたな。一歩間違えば結果も変わっていただろう」

「はい。申し訳ありません」


 言い訳はしない。

 やり方を間違えたことは事実だ。

 公爵も自覚しているからこそ、深く頭を下げた。


「頭を上げろ、ガーデン公」

「はい」


 命令通りに頭を上げる公爵。

 どんな処罰も受けるつもりでいた彼だったが、ユレンは表情を見て、そのつもりがないことを悟る。


「なぁガーデン公、俺のためと言っていたな? あれは本心だな?」

「はい。殿下の未来のために、私は私が必要と感じたことを愚直に成すのみです」

「そうだな。貴公はそういう男だ。だからこそ信頼している。今回の件も、貴公なりの配慮があったと信じている」

「はい」


 信頼。

 互いに思惑を知り、尊重し合ってきた二人。

 故に、公爵に悪意がないことをユレンは知っている。

 そうでなければ最初から、彼に自身の領地を任せることもなかった。

 今回の一件も、すぐに兵を動かしていたに違いない。

 そうしなかったのは、ユレンも彼のことを信じていたからに他ならない。


「俺は貴公の考えも尊重したい。貴公は俺には出来ない発想をする。貴公の意見は、俺が本当の意味で王子となるために必要だ」

「滅相もございません。私の考えなど、殿下に比べれば軽いものばかりです」

「そんなことはない。だが、今言いたいことはそれじゃなくて、自分の意見だけが全てではないということだよ」


 ユレンは語りながら背を向け、徐に窓の外を見る。

 彼の執務室からは小さく、アリアのアトリエが見えていた。


「俺は自身のためにも、自分には出来ない発想をする者たちと関わりたい。そういった者たちを傍に置きたい。アリアも同じだ。彼女は俺にない物を持っている」

「それは一体何でしょう?」

「さてな? それを知りたければ関わることだ。貴公も彼女を見定めるつもりなのだろう?」

「……はい。そうさせていただきます」


 自分の目で確かめろ。

 ユレンは公爵にそう伝え、公爵も納得した。

 誰かに聞くのではなく、自分自身の目で確かめ、理解することが出来たなら。

 本当の意味でその人の好さに気づけるはずだ。

 ユレンは、アリアは、そうやって絆を深めてきたのだから。


  ◇◇◇


 時計の針が午後七時を告げる。

 外はすっかり日も落ちて暗くなった。

 六時に終わるつもりが、いつの間にか一時間も過ぎていたらしい。

 急いで片づけをしていると、ガラッと扉が開いた。


「相変わらず仕事熱心だな? アリア」

「ユレン君? こんな時間にどうしたの?」


 彼が夜に訪ねてきたのは初めてかもしれない。

 私は片付けの手を止める。


「一応報告しておこうと思ってな」

「報告?」

「ああ、あの件が片付いたっていう話」


 ユレン君に言われてハッとなる。

 公爵様と話をしてスッキリしてしまって、ユレン君には何も伝えていなかった。

 言われなければ報告に行くことも忘れる所だったよ。


「え、でも片付いたって、話がついたの?」

「まぁな。というか、アリアが全部言ってくれたお陰で、俺は大して言うことなかったけど」

「……え? もしかして聞いてたの?」


 ユレン君は頷く。

 どうやら廊下での会話を聞かれていたらしい。


「あんな場所で話してたら他にも聞かれるぞ? 幸い、あの時は他に誰もいなかったみたいだけどな」

「そ、そうなんだ……」


 聞かれてたんだあれ。

 ちょっと待って?

 思い返すと私、色々と恥ずかしいことも言っていたような……


「格好良かったよ。ガーデン公を前に堂々としてたな」

「そ、そうだね。あの時は無我夢中だったから」

「それに嬉しかった。ありがとう」

「え、うん」


 嬉しかったと彼は笑顔で言った。

 それは一体、どの言葉のことを言っているのかな?

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿してます! 下のURLをクリックしたら見られます

https://ncode.syosetu.com/n7004ie/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

5/10発売予定です!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000



5/19発売予定です!
https://m.media-amazon.com/images/I/71BgcZzmU6L.jpg
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ