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3.俺の国に来ないか?

「この屋敷に住んでたのも錬成師だったんけど、話に聞く限りとてつもない天才だったらしいんだ」

「天才? そんなに凄い人だったの?」

「そうらしい。本人が目立ちたくないからって、表立っての活躍は少なかったみたいだけど。彼が残したポーションや人工物は、今もよく使われているんだ」

「へぇ~」


 ユレン君曰く、この屋敷に彼が足を運んだのも、かつていた天才の痕跡を辿る為だったようだ。

 この場所には表に出ていない研究成果もあって、それを確かめ実践するつもりでいたらしい。

 三十年も前に放置された屋敷なのに、妙に手入れされていたのは、やっぱりユレン君が頑張ったからだった。

 

「良い話ってことは、もしかして妹さん用のポーションが完成したの」

「ああ、半年前にな」

「凄いじゃない! 良かったねユレン君!」

「ありがとう。でも、ちょっと違うんだ。ポーションを作ったのは俺じゃない」


 そう言って彼は、優しい目で私を見つめる。


「先天性マナ循環障害」

「え……」

「聞き覚えがあるだろう? 生まれつき、身体に流れるマナを調整できない病気だ。俺の妹の虚弱さは、この病気の所為だった。難しい病で発見されて以来、有効なポーションも出来ていなかったけど

……それが半年前、特効薬と呼べるポーションが発表された」

「それって……」


 その病の名前も、ポーションのこともよく覚えている。

 なぜなら、そのポーションを作ったのは私だから。


「ポーションの説明とか製造方法とか。それを見てすぐにピンときたよ。このポーションを作ったのは君だって」


 私が考案し、作り上げ、量産方法を提示した。

 おそらく宮廷付きになって初めての大きな成果だったと思う。

 だけど、発表されたのは私の名前でじゃない。

 その成果を盗み奪った妹の名前で……だ。

 だからこそ覚えているし、彼が言っていることに疑問を感じた。

 ポーション開発者には、私ではなく妹の名前が記されていたはずだから。


「開発者は別人だったけど、君とその周囲の人の話は聞いていたからね。きっと苦労しているんだなとは思っていたんだ。でも、ともかくお陰で妹は元気になった」

「ほ、本当?」

「ああ。今じゃ病弱だったのが嘘みたいに、庭中を駆けまわっても平気な顔をしているよ」

「そっか。そうなんだ」


 良かった。

 と、心からホッとする。

 私が作ったポーションで元気になった人がいる。

 それが実感できてうれしく思う。


「まぁ正直、自分の力で作り上げたいって思ってたからさ? 少しは悔しいけどね」

「ふふっ、ユレン君らしいね。昔から負けず嫌いだったし」

「ああ、君と同じでね」

「ユレン君ほどじゃないと思うけどな~」


 二人で他愛のない話をして笑い合う。

 落ち込んでいた私も、彼の妹の話を聞いて心が安らかになったお陰で、自然な笑顔を見せられるようになっていた。

 そうしてユレン君が改まって言う。


「ありがとうアリア。君のお陰で、俺の願いが叶ったよ」

「ううん、私はそんな、大したことはしてないから」

「大したことだよ。あのポーションのお陰で、俺の妹を含む多くの人が元気になったんだ。彼女たちの笑顔を作ったのは君なんだ。そこは素直に誇ったほうが良い」

「……うん」


 そう言ってもらえると嬉しい。

 嬉しいけど……悔しい。

 だって、その成果も結局は、妹に奪われてしまったのだから。

 ユレン君の妹とは、きっと正反対なのだろう。

 嫌なことを思い出してしまって、私は小さくため息をこぼす。


「さて、前置きはこれで終わりだ。そろそろ本題に入ろう」

「え? 今のが前置き?」

「そうだよ。大事なのはここからだ。実は、うちの国では数年前から錬成師不足が深刻化していてな? 天才の喪失以降、人員は徐々に減ってきているんだ」

「そ、そうなんだ」


 あれ?

 今ユレン君、うちの国って……


「ユレン君って、私と同じ王国出身じゃなかったの?」

「違うよ。俺は出身は隣国セイレム王国だ。この森だって、元はうちの領土だったんだけど、俺が生まれるより少し前に手放したんだ」

「へ、へぇ~ そんなことがあったんだ」

「まぁな。天才がいなくなって管理も出来てない領地だから不要と判断したみたいだけど。こんな宝の山を捨てるなんて、我が父ながら浅はかな判断だったと思うよ」


 ユレン君はやれやれと首を振りながら呆れる。


「あはははっ、それはでも仕方が……」


 彼の言葉を思い返す。

 我が父ながら浅はかな判断だった……と。

 ここは元隣国の領地で、今は私のいる国の物。

 国同士の土地のやり取りを、普通の人間が行えるはずもない。

 いや仮に貴族ですら、意見は出来ても最終的な判断を下すのは、国を治める王だ。

 

「ユレン君って、もしかして……」

「ちゃんと名乗るのは初めてだな?」


 そう言って彼は改めて口にする。


「俺の名前はユレン・セイレム。隣国セイレム王国の第三王子、こう見えて王族なんだ」

「え、ええ!? ユレン君が……」


 セイレム王国の……王子様?

 

「信じられないか?」

「え、えっと……本当なの?」

「ああ、嘘じゃない」


 ユレン君は冗談は言うけど、嘘はつかない人だった。

 だから信じてしまえる。

 確かに言われてみれば、王子様らしい雰囲気もあるような……ないような?

 普通の人ではないとは思っていたけど、まさか王子様だったなんて。


「うちの国風は自由だからな。兄上たちは忙しそうだが、第三の俺は比較的動きやすい。だからここにも足を運べた」

「そうだったんだ。でも王子様が隣国の領地に無断で入るなんて、見つかったら大変だよ?」

「ははっ、だから見つかったのが君でよかった。それにまた会えてよかった。本当はずっと、君にまた会えるんじゃないかって、この場所にも通ってたんだ」

「え、そうなの?」


 私に会うために?

 ポーション作りの理由がなくなっても、この場所に足を運んでいたの?

 会えるかわからない私を待って、まさか半年間も?


「どうしてそこまで?」

「直接お礼が言いたかった。それと、妹を助けてくれた恩返しがしたかったんだ」

「恩返し?」

「うん。なぁアリア、もし行く当てがないなら、俺の国に来てくれないか?」


 それは思いもよらない誘いだった。

 彼は私に手を差し出す。

 優しくて、握ったら暖かそうな手を。

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