34.二度目の脅迫文
ユレン君が私を見つめる。
疑っている顔でも、心配そうな顔でもなく。
ただ普段通りの表情で、私の瞳から視線をそらさない。
完全に不意打ちで、気を抜いていた私は咄嗟に返事が出来なかった。
僅かに視線をそらしてしまう。
だけど、すぐに動揺を鎮めた私は聞き返す。
「変わったことって?」
精一杯、何食わぬ顔をする。
本当に心当たりはないよ、という風を装う。
ユレン君を巻き込みたくない私は、彼に悟られないよう必死だった。
「……何もないなら良い。頑張れよ、アリア」
「うん、ありがとう」
そう言い残し、ユレン君はアトリエを去っていく。
なんとか気づかれずに済んでホッとする一方、不審がらせてしまったことを反省する。
隠せているつもりが、普段との違いを感じさせてしまったようだ。
もっと注意しないと。
せめてヒスイさんが、手紙の主を探し出してくれるまで。
◇◇◇
数日後。
特に動きはなく、ヒスイさんからの報告もない。
私はナイフが飛んできた木々の辺りを歩く。
今日もラウラさんへの報告のため、近道を通っていた。
ちょうどナイフが突き刺さった木の前にたどり着き、なんとなく足を止める。
「うわっ!」
そこへ再び、あの日と同じように。
一本のナイフが顔の前を横切って、切り目の入った木に突き刺さる。
寸分違わず、まったく同じ刺さり方をしていた。
「あ、手紙」
ナイフの柄に手紙が巻き付いている。
白い紙が折り畳んで巻いてあるだけなのに、手紙だとわかってしまうのは二度目だから。
私はナイフを抜き取り、手紙を開けて読む。
二度目の忠告だ。
これ以上、ユレン殿下と関わるな。
短文でハッキリと、強い感情が込められていた。
あきらかに最初の手紙より怒っているのが伝わってくる。
「やっぱり見られてたのかな」
ユレン君がアトリエに訪れる様子を、どこかで観察していたのだろうか。
私は左右を一度ずつ見て、改めて手紙に視線を降ろす。
飛んできたナイフは外れるように投げていた。
危険は感じられなかったけど、二度目となると不安は強くなる。
私はナイフを隠すようにしまい、手紙を折り畳んでポケットに入れた。
それからラウラさんに報告を済ませ、遠回りしてアトリエに戻る。
近道は使いたくなかった。
またナイフが飛んでくる気がして。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさいお姉さま! どうかなされましたか?」
「え?」
「顔色が優れませんが」
悩んでいるのがイリーナちゃんに伝わってしまった。
私は咄嗟に笑顔を作る。
「あ、いえその、最近王宮への出入りが多いなーっと思って考えていたんです」
「ああ、それは……隣国での一件が関係しているんです」
イリーナちゃんは言い辛そうに声量を下げる。
隣国の一件といえば、間違いなくメイクーイン王国での事件だ。
彼女は続ける。
「あの一件が各国に広まって、自分たちの国でも同様のことが起きていないか……と不安を感じる方々が増えたそうです」
「不安……ここもそうなのですか?」
「はい。ただ当人のお兄さまは気にされていません。気にしているのは、五大貴族の方々です」
「五大貴族?」
以前に話の中で出て来た名前だった。
とても偉い人たち、と言うことは知っている。
「五大貴族って、どんな方々なんですか?」
「私たち王家に連なる貴族の末裔です。古くから国を支えてきた方々で、お父様も頼りにされています。それから五大貴族の皆さまは、それぞれ別々の王子を支持されているんです」
イリーナちゃんが言うには、支持という言葉より、単に支えているという表現のほうが合っているらしい。
王子はいずれ王になる資格を持つ者。
政治を動かし、国を支える者。
そんな彼らを見定め、力を貸すのが五大貴族の役割とされる。
だから彼らは王子のことを気にかけていて、王子も彼らを信頼しているそうだ。
途中まで話を聞いた私は、ある予感が脳に過る。
「じゃあユレン君を支持している人もいるの?」
「もちろんです。ガーデン公爵様がユレンお兄さまの支持者になります」
「ガーデン公爵様……どんな方なんですか?」
「そうですね~」
イリーナちゃんがうーんと唸りながら考える。
「一言で言えば、とても厳格な方です」
「厳格……厳しい方なんですね」
「はい。ですがただ厳しいわけではなく、とても真面目で真摯な方なので、お兄さまも信頼されています」
「そう……ですか」
予感が強くなる。
まさかそのガーデン公爵が脅迫状を?
いや、相手はとても偉い貴族だし、そんな回りくどいことをするかな?
私をユレン君に近づけさせたくない理由はわかる。
素性のハッキリしていない。
しかも問題のあったメイクーイン王国の出身で、王宮で働いていた錬成師。
その人がどこまで事情を知っているかはわからないけど、危険だと思うのは当然だ。
だとしたらやっぱり……そうなのかな?






