30.嫌な視線
今回から新展開?かもです。
アトリエの中でいろんな音が聞こえる。
キンキンと金属を叩く音だったり、カランとコップが転がるような音も。
時折ガラスが割れたような高い音が響くこともあれば、重量感溢れるワイルドな音だって。
中を見ればなるほど、と思うかもしれない。
だけど知らない人が通りかかったら、こう思うかもしれない?
「魔女の館みたいだな」
「え?」
不意にアトリエを訪れたユレン君がぼそりと呟いた。
私とイリーナちゃんが作業の手を止める。
「あーいやすまん。王宮内でそんな噂が流れててさ」
「噂? 私のこと?」
「アリアのっていうか、このアトリエがかな? ほらここ、位置的にいろんな人の通り道になるだろ? あと昔の建物だから防音もしっかりしてないし、よく音が響くんだ」
「あー……」
それを聞いて納得してしまう自分がいた。
確かに私も昔、錬成師になる前に屋敷の研究室から聞こえてくる音を耳にして、中で何をしているのだろうと不安になったことがあった。
知らない人からすれば得体のしれない実験をしている、と思われても仕方がない。
ただ、魔女と言われたのは初めてだけど。
「それはお姉さまが短期間で功績を残したからですよ」
と、教えてくれたのはイリーナちゃんだった。
彼女は未だにお手伝いをしに来てくれる。
イリーナちゃんはガラスの瓶に入った液体を流し台に捨てながら、話の続きを口にする。
「お姉さまは錬成師に任命されて日が浅いですし、私たち以外は事情を知りません。急に現れた新人が、王国の抱える問題を解決している、という話が広まって」
「恐ろしいスピード、素性もわからない。もしかして魔女なのか? って感じになったんだと思うぞ」
ユレン君が続きを話してくれた。
そういう流れがあったことにまったく気が付かなかった。
確かに言われてみると、私って王宮じゃ特に異端な位置にいるような。
今更だけど、結局他の錬成師さんに紹介もしてもらってないし。
忙しすぎて自分から挨拶にいく時間もない。
というより誰が誰なのかわからないよ。
「にしても魔女は面白いけどな」
「笑い事じゃありませんよお兄さま! 魔女なんて呼び名はお姉さまにとって不名誉です」
「え? そうなんですか?」
私は意味がわからなくて首を傾げる。
するとイリーナちゃんが驚いたような顔で尋ねてくる。
「お姉さまは魔女のことをご存じないんですか?」
「は、はい……その大昔にいた凄い人……くらいの認識で」
絵本とか童話に出てくるって話も聞いたことがある。
それ以上の知識はない。
私がそう答えると、イリーナちゃんは酷く驚いていた。
ユレン君がフォローする。
「アリアは小さい頃から錬成ばっかりだったからな。それに必要ない知識は軒並み避けてたんだ」
「なるほど。お姉さまは小さい頃から頑張り屋さんだったのですね」
「い、いえ……別にそんなことは」
「謙遜するなって。アリアが努力家なことは俺が保証する。近くで見てきたからな」
こんな風に、ユレン君はよく私のことを褒めてくれる。
最近では褒められ慣れてきて、少しずつ恥ずかしさは減ってきたのだけど。
何度聞いても嬉しいのは不思議だ。
「それで魔女ってどんな人なのかな?」
「お? 何だ気になるのか?」
「うん。みんな知ってるみたいだし」
錬成には関係なさそうだけど、一応聞いておこうかなと思った。
私がそう呼ばれているなら、多少は無関係でもなさそうだし。
イリーナちゃんの言う、不名誉って所が気になる。
「魔女っていうのは、大昔に実在した魔法使いの女性のことだ。魔法については知っている?」
「うん。現代では限られた人しか使えない奇跡……みたいな力だよね?」
「そうそう。今じゃほとんど見かけないけど、昔はみんな普通に使えていたんだって。その中でも特に強力な力を持っていた一人が、魔女って呼ばれてるんだ」
「へぇ~ じゃあやっぱり凄い人なんだ」
私が理解の軽い反応を見せると、二人とも微妙な表情を見せる。
特にイリーナちゃんは表情が暗めだ。
魔女の話の続きをイリーナちゃんが話し出す。
「凄い人なのは確かですが、とても怖い人だったんです」
「怖い人?」
「はい。魔女は人間や世界に対して強い恨みを持っていたんです。だから自らの力を使って滅ぼそうとしました」
「え!?」
人類を、世界を滅ぼそうとしたってこと?
そんな意味不明なことを考える人がいたことに驚く。
「えっと、どうなったの?」
「失敗に終わったそうです。でもたくさんの人たちが犠牲になったらしく、魔女の名前は悪名として広まりました」
「その時に見たこともない道具や武器を使ったそうなんだ。たぶんその点が、アリアを魔女だっていう理由だと思う」
「な、なるほど」
何を作っているかわからない怪しさが、私を魔女と呼ぶ理由か。
魔女が悪い人だっていうなら、確かに不名誉だけど。
「あー……だからなのかな。最近変な視線を感じるのは」
「視線? そうなのか?」
「うん。でも今の話を聞いたらそうなのかなって。別に危害を加えられたわけじゃないし、噂の所為なら仕方がないね」
噂ならすぐにおさまるだろう。
この時は軽く考えていた。
「……そうだな。でも何かあったら必ず言うんだぞ?」
「うん、もちろん」
私はそう答えた。
だけど、この後……私は約束を破ることになる。
続きが気になる方はぜひとも評価を!
そうでない方でもしてくれたらやる気が出ます!






