28.君が自分を許せなくとも
二章も更新頑張ります!
その活力維持のためにも評価して頂きたいです!
綺麗な景色を見ていると、それだけで気分が良くなる。
広大な自然を感じることで、自分自身のちっぽけさを痛感するからだろうか?
この大自然に比べたら、私の悩みはあまりに小さく、酷く弱々しい。
「どうだ? 悪くない気分だろ?」
「うん」
「俺も悩みがある時はよくここへ来たんだ。変に考えすぎて落ち込むことも多かったし」
「ユレン君もそうなの?」
私が尋ねると、彼は優しく微笑み頷く。
やっぱり悩んでいる私のために、この場所へ連れて来てくれたんだ。
ユレン君は相変わらず優しいな。
「歩き疲れたし、ちょっと座って休憩しようか?」
「うん……そうだね」
私たちは丘に腰を下ろす。
緑の芝生はフカフカで、ちょっとした絨毯みたいだ。
曇っている所為で冷たいけど、これはこれで気持ちが良い。
座ったままでも景色は見える。
私はしばらく黙って、ただ景色を眺めていた。
ユレン君も同じようにしていたけど、不意に口を開く。
「この十字架、俺が勝手に建てたものなんだよ」
「え……どういうこと?」
「墓かって聞いたよな? 半分正解、でも半分は違う」
私は首を傾げる。
ユレン君は十字架を懐かしむように見つめ、続けて説明する。
「この十字架は、小さい頃に俺の護衛をしてくれた人たちを弔うために作った。ちょうど五年くらい前だったかな」
「護衛をしてくれた人……ヒスイさんみたいに?」
「あいつはまた別だけどな。俺は一応王子だから、小さい頃から身近に命の危険があった。暗殺、襲撃、誘拐……全部一度は経験してる」
彼の話を聞いて、ぞくっとして身体がわずかに震えた。
暗殺の恐怖は記憶に新しい。
それを思い出みたいに語るのは、少なくとも私には無理だ。
彼にとってあれは、日常の一コマだったのだろうか。
だとしたら……
「大変だった……よね?」
「まぁな。でも王子が狙われるのは仕方がない。一番嫌だったのは、俺のために犠牲になる人を見ることが……だったよ」
彼を守る為に戦い、命を落とした者たちがいる。
国のため、命令に従い、命をかけてユレン君を守った人たち。
この十字架は、そんな彼らを称える物でもあった。
ユレン君は思いを語る。
「俺は、俺の所為で死ぬ人を見たくなかった。でも小さい頃の俺には力がなくて、守られなきゃ生きられなかった。それが歯がゆくて、申し訳なくて……でも目を逸らすことは出来なかった。みんな、俺のために戦ってくれたんだから」
彼は語りながら拳を力強く握りしめていた。
その動作には悔しさが込められているのだと、見ていて気付く。
何も出来なかったことが悔しい。
自分に戦う力があれば、守れた命もあったのに。
「だからそれ以来、自分が強くなろうと頑張ったよ。守られなくても平気なくらいになったら、誰も自分の所為で傷つかなくて済むだろ?」
「……もしかして、よく一人でいるのって」
「ああ、俺の危険に巻き込みたくなかったからだ。特に騎士たちは、俺のために自分のことを盾にする。そんなの見てられない。でも彼らにとってそれが使命だからな」
命をとして主を守る。
それが騎士の本分だと、かつてどこかで聞いたことがあった。
他人のために命をかけられる。
普通にはありえない忠誠心を、ユレン君は幼い頃から感じていたんだ。
「あれから強くなった。お陰で守れた命もある。王子としても、一人の人間としても成長できた……と、俺は思ってる」
「してると思うよ? 私も」
「ありがとう。でもさ? いくら時間が経っても、消えていった人たちのことは忘れられないんだ。後悔はし続けてる。あの時こうすれば……って、君もそうなんだろ?」
優しい瞳を向けられる。
私は一瞬ためらって、でもすぐに頷く。
「うん。私が……最初に断っていれば、命が失われることはなかった。ラウルス殿下が悪い。私は悪くないって、みんなは言ってくれるけど……」
頭では理解できも、心で納得できない。
ユレン君が話してくれたように、私はずっと後悔している。
過去にけじめをつけて尚、後ろを向いてしまう。
そんな自分が……
「情けないなぁ」
「違うよ。それは君が優しいから思えるんだ」
「優しい……のかな? 私は弱いだけだと思うよ」
「だったら強くなればいいよ」
そう言って彼は立ち上がる。
腰に手を当て、大きく深呼吸をする。
「どれだけ考えても過去は消えない。割り切れるものじゃないし、後悔はし続ける。それでも俺たちは未来を生きて生きていかなきゃいけない。後ろ向きなままじゃ前には進めない」
「……うん」
わかってる。
そう思って頑張ろうとしている。
「もし、自分が咎められるべきだと思ってるなら違うからな? 本当に悪いのはあの王子で、恨まれるべきはあいつだ。そういう感情は全部背負って地獄に堕ちる。アリアが考えるべきは、恨みを背負うことじゃなくて、期待に応えることだと思うよ」
「期待に……応える?」
「そう。背負ったままで良い。後悔したなら、次はしないように努力すれば良い。一人で辛いなら俺も手伝う。悩んで立ち止まるより、今やれる精一杯をやろう」
「今やれる精一杯……」
私の精一杯は、錬成師として貢献すること。
かつてイリーナちゃんたちを助けられたように、たくさんの人たちの助けになれるなら。
それが贖罪になるのかもしれない。
ユレン君は私に手を伸ばす。
「胸を張って生きよう。強く生きて、幸せになって、あの世でみんなからお前は頑張ったぞって言われるくらいにさ」
「……うん」
私は自分を許せない。
愚かだったあの頃を、これからもずっと後悔し続ける。
それでも私は生きていく。
胸に秘めたまま、前を向いて歩いていく。
私を必要としてくれる人が、支えてくれる人がいるから。
その人たちの思いに応えたい。
後悔する気持ちよりも、期待に応えたいと思う気持ちのほうが強いと、今になって気付いた。
だから私は、彼の手を取った。
もう一度立ち上がって、一から始めるんだ。






