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【WEB版】錬成師アリアは今日も頑張ります ~妹に成果を横取りされた錬成師の幸せなセカンドライフ~【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第二章

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27.見せたい景色

 翌朝。

 いつもより早い時間に目が覚めた。

 というより緊張で眠れなかった。

 気持ちの良い快晴とはいかず、ここ数日は曇天が続いている。

 雨は降っていないけど、今にも降り出しそうな曇り空だ。


「ユレン君……なんで急に遊びの約束なんて」


 いいや、考えるまでもないだろう。

 きっと私のことを気遣って、元気づけるために言い出したんだ。

 自分では気を付けているつもりだけど、私は表情や態度に出やすいみたいだし。

 彼やみんなも含めて、私が気分を落としていることは気づいているはずだ。

 そう思うと申し訳ない。

 私のために時間を作ってくれることが。


「……でも、遊びに行こう……か」


 それとは別に、遊びに誘われた嬉しさも感じていた。

 友人に誘われた経験なんてないし、異性なんて想定すらしていなかったから。

 相手がユレン君だから、ということもあると思う。

 不安や悩みと一緒に、小さな期待が胸にある。

 

 着替えを済ませ、待ち合わせ場所に向う。

 仕事じゃないから宮廷付きの服は着られない。

 プライベートで必要になると思って、いくつか普通の服も買っておいて正解だった。

 そんなに数は多くないけど、最大限のおしゃれをして歩く。

 待ち合わせ場所は、王城の出入り口。

 私が到着すると、すでにユレン君が待っていてくれた。


「ユレン君」

「おはようアリア」

「おはよう。待たせちゃった?」

「いいや? そんなに待ってないから気にしなくて良いよ」


 とかいいつつ、ユレン君のことだから待ち合わせ時間の三十分前にはいたと思う。

 彼はそういう人だから。

 私だって遅れないように、十分前にはこうして到着している。


「それじゃ行こうか?」

「う、うん」


 前に一度、一緒に街を巡ったことはあった。

 けれどあれは偶然で、待ち合わせて一緒に行くのはこれが初めてだ。

 意識すると緊張が強くなって、変に周囲を気にしてしまう。


「ね、ねぇユレン君、今日ってどこに行くの?」

「あ~ それなんだけどさ」

 

 ユレン君は言い辛そうに答える。


「行きたい場所一つは決まってるんだけど、それ以外は考えてなくてさ?」

「そ、そうなの?」

「ああ。だから昼までは適当に街をぶらつこうかと思うんだ。駄目か?」

「ううん、ユレン君に任せるよ」


 私が行きたい所は錬成術の素材関連だし。

 それを除いて行きたい場所なんて思い浮かばない。

 街のことも詳しくないから、ユレン君に任せたいと思う。


「じゃあ街を回ろう。前の時は素材を売ってる店数件しか回ってないし、その後も邪魔が入ったからな」

「うん」


 それから二人で街を巡った。

 飲食店、服屋さん、アクセサリーや貴金属のお店。

 女の子が好きそうなお店もあって、なんだか新鮮な気分になった。

 王宮でもずっと研究でこもりがちだったし、普通の女の子が好きな物には疎い。

 同年代くらいの女の子たちが集まっているのを見ながら、私にもあんな未来があったのかな?

 なんてことを思うくらいには羨ましい。

 まぁ別に、今が悪いとも思ってはいないけど。


「アリア、どこか行きたい店とかあるか?」

「うーん、素材集め以外だと……思いつかない」

「はははっ、アリアらしいな」

「小さい頃から錬成のことばかり考えてたからね。他のことなんてさっぱり」


 年頃のおしゃれや流行も知らない。

 青春の大半を錬成術に費やして、今もその延長線上にいる気分だ。

 そう考えると、私は小さい頃から変わっていないのだろうか?

 成長していないのかも……しれないな。


「ねぇユレン君。ユレン君の行きたい場所ってどこなの?」

「それは行ってからのお楽しみだ。先に昼食にしよう」

「うん」


 勿体ぶるから余計に気になってしまう。

 ただ一度内緒と言った彼の口は堅い。

 私はソワソワしながら二人で昼食を終え、店を出た所でユレン君が言う。


「今から行くところ、ちょっと歩くけど平気か?」

「大丈夫だと思うよ。まだ疲れてないから」

「じゃあ行こう。丁度良い時間だ」


 ユレン君の後に続いて歩く。

 向かったのは街はずれ。

 以前に素材集めで入った森を抜け、さらに進むと見えてきた開けた場所。

 坂道を進めば、小高い丘があって。


「ここだよ」

「これ……お墓?」

「みたいな物、かな」


 丘の先には十字架が埋まっていた。

 白くて綺麗な十字架には、色鮮やかな花のわっかがかけられている。

 ユレン君の返事は中途半端だった。

 お墓とは違うのだろうか?


「ここが来たかった場所なんだよね?」

「ああ、後ろを見て」

「後ろ?」

「見ればわかるよ」


 言われた通りに振り返る。

 すると――


「わぁ、これ街が見える! お城も」

「良い眺めだろ? ここはこの辺りで一番綺麗に王都が見えるんだ。俺のお気に入りの場所だよ」


 彼の言うように、街並みがハッキリと視界に収まる。

 一緒にお城も見えて、四方を囲む大自然もセットで映る。

 確かに綺麗な場所だ。

 それに吹き抜ける風も気持ちが良い。

 

「これで天気が良かったら完璧だったんだが~ まぁ雨が降ってないだけマシか」

「ううん、十分綺麗だよ。こんな景色初めて見る」

「それは良かった」

 

 見ているだけで感動する景色。

 言葉では聞いたことはあっても、実際にそんなものないと思っていた。

 でも、世の中にはあるんだ。

 こういう、心を穏やかにする景色が。

 

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