26.抜け殻のような日々
第二章開幕です!
早朝。
窓の外から見える空は灰色。
雨は降っていないけど曇り空で、日差しの眩しさも感じない。
目覚めとしては普通。
いや、ちょっと気分が乗らないくらい。
「……仕度しなきゃ」
私はしばらくぼーっと窓の外を眺めていて、ハッと時計がさす時間に気付いた。
寝坊というほどじゃないがギリギリ。
普段より急いで支度を済ませ、私はアトリエに向かった。
◇◇◇
小麦の新品種開発は継続中だ。
まだ一つしか完成していない上、あれから他事もあって進んでいない。
いくつか新しい素材を集めているものの、ピンとくるアイデアは浮かばなかった。
なんだか惰性で仕事をしている気分だ。
明らかに仕事に身が入っていない。
理由は……わかっている。
「終わった……んだよね?」
私は自分にしか聞こえない小さな声で呟いた。
ラウルス殿下と再会して、過去の自分の愚かさを再認識させられて。
過去の自分にけじめをつける。
そのためにユレン君に協力してもらいながら、自白剤づくりをした。
結果は、思い通りになったと思う。
他国のことだし詳しい事情はわからないけど、あの日からメイクーイン王国は慌ただしい様子だ。
報じられている内容では、第二王子が失脚したとされる。
理由は明確にされていない。
それと同時期に、ローレンス家の名前も取り上げられていた。
宮廷で働く娘が不祥事を働いたと。
どうやらラウルス殿下の協力者は妹のセリカだったらしい。
まさか彼女まで関わっていると思わなくて、正直かなりショックを受けた。
「そこまでして私を陥れたかったのかな……」
嫌われていた自覚は当然あって。
理由もなんとなく想像できる。
それでも、他人を犠牲にしてまで私をこき下ろしたかったのか。
甚だ理解できないことだ。
とは言えこれで、全ては終わった。
長く続いた悲劇は幕を下ろしたんだ。
私の過去も……
「お姉さま、こちらの素材なのですが……お姉さま?」
「え、何ですか?」
「いえ、配合の提案をしようかと思ったのですが……お疲れなのです?」
「そんなことないですよ? どれですか?」
いけない。
ちゃんと仕事に集中しなければ。
私がここ数日頑張ったのは、これからも王宮で働いていくため。
過去とけじめをつけ、前を向いて歩いていくためだ。
今も手伝いにくてくれるイリーナちゃんや、協力してくれたユレン君たちに心配はかけられない。
しっかりしなきゃ。
そう心の中で自分に言い聞かせる。
だけど、不意に思ってしまうんだ。
本当にこれで良かったのか。
過去を清算出来たのか。
いくら悪を露見させても、私の愚かさで傷ついた人がいる事実は変わらない。
結局私は、恨まれるべきなんじゃないかって。
◇◇◇
ある日の夕方。
空は曇っていつもより暗い。
ラウラ室長の部屋に、彼女を含む四人が集まっていた。
「――と言う感じで、お姉さまの元気がありません」
イリーナが三人に普段のアリアの様子を伝えると、ラウラ室長が話を繋げる。
「私も感じてるわ。仕事はいつも通りやってくれてるけど、心ここにあらずって感じね。悩んでいるようで、落ち込んでいるようで、なんだか複雑な感じだわ」
「そうか……」
二人から話を聞いたユレンは悲しそうな表情で下を向く。
その様子を見たヒスイが尋ねる。
「あの件は上手くいったんだよな? 第二王子と協力者の」
「……ああ、聞いた限りでは完璧に予定通りだったよ。第二王子は失脚、協力者も処罰されたって話だ」
「だったら落ち込む必要なくないか? 悪を成敗したわけだし」
「俺もそう思うんだが……いや、そう簡単ではないんだよ」
諸悪の根源は罰せられた。
彼女が気に病むことはない。
協力者もハッキリしたことで、彼女が罪に問われることもないだろう。
「アリアは悪くない。俺たちがそう思っても、彼女自身が自分を許せないでいるんだ。自分の所為でって……優しいからな、アリアは」
「なるほど、難しい問題だな」
「私みたいに過去は過去で流せる性格だったら良かったのにね~」
「お兄さま、何か私たちに出来ることはないのでしょうか?」
妹からの言葉に考え込むユレン。
何かしてあげたい気持ちが彼にはある。
しかし、何と声をかけるべきか、正解が思いつかない。
「結局放っておくことが一番だと思うぞ? 俺は」
「私もよ。あの子自身の問題に、他人が口を突っ込んでもよくならないわ」
「そうだな」
「でも……お姉さま、辛そうです」
イリーナの悲しい声が部屋に響く。
この場にいる全員、アリアのことを気遣っていることは同じ。
そして、良い方法が浮かばことも共通していて。
「あーでも! うまい方法はないけど、気分を紛らわすだけなら出来ると思うわよ?」
「本当か?」
ラウラの発言に一番早く反応したのはユレンだった。
彼女はニヤっと笑う。
「あるある、ありますよ~ ちょうどユレン殿下にピッタリな方法が」
「俺に?」
「はい。えっとですね~ ちょうど明日アリアちゃんが休みなので――」
◇◇◇
時計を見ると午後七時。
辺りはとっくに暗くなっていた。
「今日はここまでかな」
一日の仕事を終え、片づけをする。
明日は休みの日だけど、特に予定もない。
あまり研究の進みも良くないし、仕事をしたほうがいいかな。
何かしていないと落ち着かないという事情もある。
そんなことを考えていると……
「アリア」
「ユレン君?」
いつの間にかアトリエの中に彼が入ってきていた。
様子を見に来てくれたのだろうか?
それにしてはなんだか……様子が変?
緊張しているように見える。
「どうしたの?」
「あーえっと、明日って休みなんだよな?」
「え、うん」
「じゃあさ、俺とその……一緒に遊びにいかないか?」
言いながら照れているユレン君。
数秒、意味を考えて固まった。
「そ、それって……」
デートって言うんじゃないの?
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