25.因果応報
閑話に投稿ミスがありました。
一部修正して7時に投稿します。
ラウルス殿下の悪行を止める。
私は、私の過去にけじめをつける。
そのために必要な物を揃えることにした。
「まずは自白剤だな。普通の飲むタイプじゃあいつは欺けない」
「うん。だから今回は飲むタイプじゃなくて、臭いを嗅ぐほうにするよ」
ポーションの中には飲まずに効果を発揮する物がある。
これから用意するのは、臭いを嗅ぐことでしか効果が出ないポーション。
逆に液体へ溶け込むと効果がなくなるようにしよう。
そうすれば、仮に他の人が口に入れても害はない。
後はどうやって自然に臭いを嗅がせるかだけど、それについてはもう考えがある。
「じゃあ自白の場だな。それは俺のほうで何とかしよう」
「出来るの?」
「ああ、一応これでも王子だからな。隣国の王も、俺の言葉を完全に無視することは出来ない。普段なら願い下げだが、今回は立場を存分に利用するさ」
そう話すユレン君はいつになく意地悪な顔をしていた。
悪いことを考えている子供みたいだ。
「とにかくこっちは任せろ。アリアはポーションづくりに専念してくれ」
「うん」
「三日もないけど、出来るよな?」
「もちろん」
やると決めたからには全力で。
例えどんな結果になっても後悔しないように頑張ろう。
今はそれしか考えていない。
そして運命の三日後――
ラウルス殿下は何食わぬ顔で再び王城を訪れた。
あの日と違うのは、ヒスイさんとラウラさんはいないこと。
今、この部屋には私とユレン君、ラウルス殿下の三人しかいない。
三日前と同じ部屋で向かい合い、にこやかに挨拶をしてくる。
「やぁアリア、依頼は受けてくれたのかな?」
「……はい」
私は作成したポーションを差し出した。
透明な液体の入った瓶を三本、テーブルの上に並べる。
「さすがだね。三つも作ってくれたのかい?」
「はい。ただ一つ、注意点があります。このポーションは強力ですが、空気に晒すと効果が薄れてしまいます。だから作成後すぐに密閉しました。とはいえ時間が経過すれば同様に効果も薄れます」
「なるほど、使うなら出来るだけ早く……か」
ラウルス殿下はニヤリと笑う。
今の所、不審には思われていなさそうだ。
「はい。効果の有無を確認する場合は、蓋を開けた時に香りを確認してください。甘い香りが強ければ、効果も強いままです。あとは液体に混ぜてお使いください」
「わかったよ。丁寧にありがとう。君はやっぱり才能あふれる人材だね」
「……ありがとうございます」
ほしくもない言葉だけど、今は素直に受け取る。
悟られないよう自然に。
少しの怯えを見せながら。
「じゃあこれで失礼するよ。あーそうそう、また頼みに来ると思うけど、その時はよろしくね?」
「……」
これにはあえて答えない。
苦悩を見せた方が信じやすいから。
事実、私は次なんて考えていないし、受けるつもりはない。
これで最後にするんだ。
ラウルス殿下が部屋を出る。
「あとは祈るだけだな」
「うん」
どうかお願いします。
彼の悪事が、メイクーインの人たちに伝わりますように。
◇◇◇
王城に戻ったラウルスは、さっそく手に入れた毒を試すことにした。
ターゲットは国王陛下。
兄の次は父を暗殺することで、自身が国王となる未来を画策している。
ねらい目は夜。
国王はお年を召していて、睡眠前に薬を飲んでいる。
その際に飲む水に、透明な毒を混ぜ込む算段だ。
彼は薬が用意されている場所に足を運んだ。
何も不自然なことはない。
この日のために、彼は以前から父を心配して薬を準備する息子、という役を演じていた。
周囲からの評判も悪くない。
彼を疑う者など、今の王城には存在しなかった。
「香りは……うん、ちゃんと甘いね」
言われた通りの手順を踏み、彼は毒を水の中にまぜる。
透明だから混ぜても見た目ではわからない。
香りも水と混ぜたことで消失する。
後は飲ませるだけの状態になり、使用人の一人を呼びつけた。
「すまないが君、このお薬を父上に届けてくれないか? 今日も僕がいくつもりだったけど少し疲れてしまってね?」
「かしこまりました」
使用人は疑いなくそれを受け取った。
これで仮に毒殺されても、疑われるのは自身ではなく使用人になる。
アリアから毒を手に入れたという事実さえわからなければ、ラウルスは疑われない。
そういう人物を表で演じているからこそ、完璧だと感じていたはずだ。
しかし翌日――
ラウルスは国王に呼び出され、王座の間に足を運んだ。
(どういうことだ?)
毒が効いていない。
予定なら一晩で効果が発揮され、国王は死亡するはずだった。
(時間経過で効果が薄れたか? ならば別の毒を作らせよう)
そう考えているラウルスに、国王は告げる。
「ラウルスよ。お前に聞きたいことがある」
「何でしょう? 父上」
「……ある人物から忠告を受けた。私の命が……狙われていると」
「――!?」
ラウルスは小さく反応するが、すぐに平静を装う。
「それは一大事です! すぐに警備を固めなくては!」
「……ラウルス、お前なのか?」
「父上?」
「お前が私を殺そうとしているのか?」
疑いと、悲しみの目。
自らの息子に殺されかけたのかと、国王は信じたくない気持ちでいっぱいだった。
(……アリアたちが何かしたか? 馬鹿な真似を……信じるわけがないだろう)
ラウルスは心の中であざ笑う。
いつものように誠意を込めて、清々しく否定しようとした。
だが――
「ええ、その通りですよ父上! 僕は貴方を殺すつもりで毒を入れました。それなのになぜ生きているのです? 早く死んで、僕に王位を譲ってください」
口から出た言葉は別だった。
(――は? なんだ?)
「事実なのか……ならば兄を手にかけたというのも」
「事実ですよ。僕が殺しました。扱いやすくて丁度良い錬成師がいたのでね? 脅して作ってもらったんですよ」
(どうして話してしまう? 話すつもりはないのに)
困惑するラウルスは知らない。
彼が臭いを嗅いだ自白剤は、本音と建て前を逆転させる効果を持つ。
効果時間は一日。
一日の間だけ、彼は本音を隠せない。
そこへ送られてきた隣国の王子からの手紙。
全て二人の計画通り。
「アリアは優秀な錬成師でしたよ! でもあれは駄目だ。僕の言うことに最後で逆らう。だから資料を彼女の妹に渡して代わりに錬成してもらったんです。妹のほうは素直で良い。才能は姉以下だが」
協力者はセリカだった。
そのことすら、聞かれる前に話してしまう。
隠していた本音の多さゆえに、溢れ出ているのだ。
もはや止められない。
「まったく、誰もかれも無能ばかり。使えない者たちなど早々に消えてしまえば良い。父上もですよ」
「ラウルス……この者を捕らえろ!」
「なっ、何をする? 父上! 僕が何をしたというんですか!」
「たわけが! お前はもはや息子ではない!」
ラウルスの頭は混乱している。
自白剤の影響で、本音と建前が混ざり始めた。
どちらが本当なのか、彼にもわからなくなるだろう。
全て因果応報。
彼自身がまいた種、成長したツルにからめとられて、足を引っ張られた。
数日後、第二王子は病死したと発表された。
真実を知る者は少ない。
しかしこれで、一つの悪は封じられた。
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タイトルは――
『姉の身代わりで縁談に参加した愚妹、お相手は変装した隣国の王子様でめでたく婚約しました……え、なんで?』
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