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【WEB版】錬成師アリアは今日も頑張ります ~妹に成果を横取りされた錬成師の幸せなセカンドライフ~【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第一章

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24.贖罪

 身体が震える。

 端から見てわかるくらいに、自分では止められない程に。


「アリア?」


 ユレン君が心配そうに私を見つめる。

 心配をかけたくないのに、止めたくても止められない。

 怖い。

 怖くて仕方がない。

 何が怖いのかすらもわからない。

 確かな恐怖が全身を襲い、言葉も発せなくなる。


「……どうやら話はここまでのようですね」


 ラウルス殿下の声を聞いて、びくりと身体が大きく反応する。

 大袈裟に揺れたお陰で、身体の揺れが少しだけ治まった。

 ラウルス殿下は立ち上がって私に言う。


「三日後にまた来ます。その時に、依頼を受けて頂けるなら、品を用意しておいてください」

「は、は……」


 はい、とは言い切れない。

 もはや断れもしない。

 返事は聞かず、ラウルス殿下は立ち去ろうとする。


「ではこれで」

「その前に一つ、確認させていただけませんか?」


 呼び止めたのはユレン君だった。

 ラウルス殿下が振り返る。


「何でしょう?」

「本日昼頃、私と彼女が外出中に襲撃を受けました」

「ほう? それは災難でしたね、お怪我は……なかったようで何よりです」

「ええ、狙われていたのは私ではなく彼女でしたから」


 ユレン君はラウルス殿下をギロっと睨む。

 対するラウルス殿下は何食わぬ表情のまま聞き返す。


「へぇ、それがどうかしましたか?」

「襲撃者の所持品に、そちらの王家の紋章が描かれた物がありました」

「なんと! それは驚きですね」

「……心当たりはありませんか?」


 空気がピリつく。

 同席しているヒスイさんとラウラさんも、殿下を疑いの目で見ているのがわかった。


「残念ですが心当たりはありません。しかし王家の者が関わっているなら捨て置けない。私も調べておくことにしましょう」

「……わかりました。よろしくお願いします」

「ええ。ではまた」


 そうしてラウルス殿下は部屋を出て行く。

 嵐のように突然現れて、私の周りをめちゃくちゃにかき回して。

 少しずつ癒されていた心に、大穴がぽっかりと開けられた気分だ。


  ◇◇◇


「間違いないでしょ? あいつがアリアを襲うように依頼した張本人よ」

「その判断は軽率ですよ室長。何の証拠もない」

「そう? むしろあいつ以外にいると思う?」

「それはまぁ、そうだけど」


 話を終えて、私たちは最初の部屋に戻ってきていた。

 ラウラさんとヒスイさんが話す横で、私は黙ったまま座っている。

 私の隣に座っているユレン君が声をかけてくる。 


「大丈夫か?」

「……うん」


 そうは見えない、と言いたげな表情だった。

 大丈夫じゃない。

 一気に色々ありすぎて、頭の整理が追いついていないんだ。

 

「ヒスイ、ラウラ室長、悪いけどしばらく席を外してもらえるか?」

「了解だ」

「そのほうが良さそうね」


 ユレン君の一言で、二人は部屋を出て行ってしまう。

 理由がわからない私は、ユレン君に視線を向ける。

 沈黙を挟む。


「ユレン君?」

「この城へ来る途中、同じ王子なのに全然違うって話をしてたよな?」

「え、うん……」

「あいつと何かあったのか?」


 私は咄嗟に息を飲む。

 ユレン君は真剣な眼差しを向けている。

 軽い気持ちで聞いているわけじゃないことは、声のトーンからも明らかだった。

 

「それは……」


 話すべきなのだろう。

 最初は私だけの問題だった。

 だけど、今の私はセイレム王国の宮廷錬成師だ。

 私の事情に、この国やユレン君たちを巻き込んでしまうかもしれない。

 いや、もう巻き込んでしまった。

 隠しておくのは良くない。

 わかっているのに、言葉を詰まらせる。

 怖いんだ。

 真実を話して、責められることが。

 嫌われてしまうことが……


 そんな風に怯える私の手を握る。


「心配するな。何があったとしても、俺はアリアの味方だから」

「ユレン君……」

「だから話してくれ。力になりたいから」

「……うん」


 ユレン君には話そう。

 そう思えたから、私は全てを彼に伝えた。

 包み隠さず、当時の気持ちも含めて。

 彼は最初から最後まで真剣に、口を挟まず聞いてくれた。

 そうして最後まで話し終えると……


「最初に言うけど、君は何も悪くない。悪いのはあいつだ」


 彼は優しいから、そう言ってくれそうな気はしていた。

 実際に言ってくれると改めて彼の優しさを感じる。


「あいつは君の立場を利用したんだ。仮に同じ立場なら誰だって断れない。それでも君は最後に断ったんだろう? だったら君は何も悪くない」

「そう……かもだけど……私が作った物で人が……」

「そこが気になってた」

「え?」


 ユレン君は頭を悩ませていた。

 私の話を聞いて、どうにも腑に落ちない点があったという。


「一応確認だけど、あいつは錬成術が使えるのか?」

「ラウルス殿下? 使えないはずだよ」

「なら、その毒っていうのは作った状態で保管していて、それが盗まれたのか?」

「ううん、理論だけ整えて実際に作ってはいないよ。だから資料だけ……」


 あれ?

 そうか、そう考えるとラウルス殿下はどうやって毒を手に入れたんだろう?

 錬成術が使えない彼には作れないのに。


「他に協力者がいるんだよ。君と同じ錬成師が、彼に加担してる。君の資料を基に毒を作ったのもそいつだ」

「え、い、一体誰が?」

「さぁね。アリアに見当がつかないなら俺にはわからない。でもこれで、君が作ったわけじゃないのは確かだよ。その協力者が特定できれば、君が罪に問われることはない」

「そ、そうだけど……」


 どうやって?

 私には見当もつかない。

 宮廷で働く他の錬成師だろうか?

 だとしたら、それが毒だとわかった上で協力したことになる。

 そんな人が本当にいるのだろうか。


「この際、それが誰かはどうでもいい。何とかしてあいつの悪事をバラせれば……自白剤とか作れないか?」

「え、つ、作れるけど」

「だったらそれで真実をあいつの口から話させよう。出来れば俺たちじゃなく、あっちの国王の前で。放っておくとあいつはさらに罪を増やすぞ」

「で、でもそんなこと」


 不可能だと思った。

 彼の言っていることは希望論だ。


「それでもやるんだよ。じゃないと君は罪に問われて処理される。仮に戻ったとしても殺されるぞ? あの暗殺者が良い証拠だ。真実を知る君は、あいつにとって邪魔になる。必要なものだけ用意させて消すつもりなんだ」

「そんな……」


 ラウルス殿下ならやるだろう。

 そういう人だ。


「アリア、君はこんなところで終わって良い人じゃない」

「で、でも……」


 私の罪は変わらない。

 どんな理由であれ、人を傷つけるきっかけを私は作った。

 作ってしまった。

 優しい言葉をかけられても、この罪悪感だけは一生拭えないと思う。


「もし罪に感じているなら、尚更あいつを止めるべきだ。これ以上、新しい犠牲を出さないために。それが贖罪になる」

「贖罪……ラウルス殿下を」


 止める。

 ユレン君の言う通り、放っておけばもっとひどいことが起こる。

 私に依頼した毒だって、一体誰に使うのかわからない。

 涼しい顔をして腹の中は真っ黒、それがラウルス殿下だ。

 放っておくことは……出来ない。

 してはいけない。

 彼の本性を知っているからこそ、私が止めるべきなんだ。

 

「わかった。私……やってみるよ」

「ああ、俺も手伝う」

「ありがとう、ユレン君」


 お陰で決心がついた。

 これからもこの王宮で働くために。

 私は今から、過去の因縁と決着をつける。 


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