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【WEB版】錬成師アリアは今日も頑張ります ~妹に成果を横取りされた錬成師の幸せなセカンドライフ~【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第一章

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23.狂気の笑顔

 私たちは部屋を移動し、来客が待機している部屋へと向かった。

 道中、会話はなかった。

 私が黙り込んでしまって、雰囲気が暗くなったのだろうか。

 それだけじゃないと思う。

 襲撃があった直後に、その国の王子が訪ねてくる。

 果たしてこれを偶然と言って良いのだろうか?

 同じ考えが私以外の頭にも浮かんでいたから、それぞれに考えをまとめる時間になっていたのだろう。

 部屋の前に到着すると、ユレン君が私に言う。


「話は基本的に俺が進めるよ。そのほうがたぶんスムーズだ」

「異議なし」

「任せるわ。私だと感情的になりそうだし」

「アリア?」


 最後に私の意志を確認され、少し考えた末にこくりと頷いた。

 相手がラウルス殿下なら私が話すべきかと思うけど、彼が私に会いに来たとは考えにくい。

 いや、考えたくなかった。

 だから逃げた。

 ユレン君の優しさ、気遣いに甘えた。


「行くぞ」


 ユレン君が扉を開ける。

 部屋には長いテーブルが一つと、その周囲に椅子が複数。

 彼は一席に腰を下ろしていた。

 私たちが入ってすぐ、彼と視線が合う。

 何度も見慣れた穏やかな笑顔。

 王子らしい佇まいにさえ、今はぞっとしたものを感じる。

 

「お待たせしてすまない」

「いや構いませんよ。こちらこそ、突然訪ねてきたのですから。お久しぶりですね? ユレン王子」

「ええ、お久しぶりですラウルス王子」


 ユレン君とラウルス殿下が互いに挨拶を交わす。

 二人は同じ王子同士、以前から面識はある様子だ。

 そして……


「君も久しぶりだねアリア、その様子だと元気にしていたようだね」

「は、はい……お久しぶりです、ラウルス殿下」


 声をかけられビクッと身体が反応する。

 ラウルス殿下は落ち着いた様子で、特に普段と変わらない。

 変わらないけど、脳裏に過る。

 昼間の襲撃と、あの日のことが……


「王宮を出てもう新しい仕事についているなんて。それも早々に実績を残したそうじゃないか? 君の才能は素晴らしいよ」

「あ、その……」


 実績とは先の小麦の件を言っているのだろうか?

 まだほとんど知られていないはずなのに、どうしてラウルス殿下が知っているのか。

 突然の再会からくる動揺から、うまく情報が整理できない。

 言葉的には褒められているのに、まったく嬉しさも感じない。

 ただただ、その笑顔が怖い。


「アリア、君は――」

「ラウルス殿下」


 ユレン君が彼の言葉を遮る。

 ラウルス殿下の視線が、私からユレン君に向けられる。


「本日はどのような用件で来られたのでしょう? 時間も時間ですので、手短にお願いできますか?」

「ん? そうですね、先にそちらを済ませましょう」


 ユレン君のお陰で話が逸れた。

 ホッとする私だったけど、ラウルス殿下の視線が再びこちらに戻ってくる。


「実は少々、彼女のことでお願いがありまして」

「彼女? アリア宮廷錬成師のことでしょうか?」

「はい。単刀直入に申し上げますと、彼女をこちらに返して頂きたい」

「え……」


 い、今……なんて?


「どういう意味ですか?」

「言葉通りです。彼女をこちらの宮廷付きに戻したい、と言っています」

「それは……どういうおつもりです? あなた方は自らの意志で彼女を宮廷付きの任から外したはずだ。今さらそれをなかったことにすると?」

「それについては認めましょう。ですが、私は当初から反対していたのです。彼女は優秀な人材だ。しかし理解していない者が多く、いなくなってようやく気付いたようです。お陰で今の王宮はせわしないですよ」


 そう言ってラウルス殿下は困った顔を見せる。

 なぜこうも演技臭く見えてしまうのだろう。

 いいや、おそらく演技だ。

 優れた人材と思っていたとして、本当の意味で彼が私を必要としているわけじゃない。

 そんなこと、とっくの昔にわかっている。


「ぜひ彼女には戻ってきていただきたい。説得は僕に任せて頂ければ」

「お言葉ですが、彼女はすでに我が国の貴重な人材です。彼女の意志は尊重しますが、そちらの都合には従いかねます」

「ええ、ですから彼女の意志を聞きたいのですよ。アリア、君は戻ってくる気はないか?」

「わ、私は……」


 ラウルス様が囁きかけ、私に優しい目を向ける。

 戻る気はあるのか?

 その答えは最初から出ている。

 出ているけど、それを答えるのが怖い。

 怖くて、縋りたくて、ユレン君の顔を見た。


 彼は何も言わず、いつも通りの表情で私の視線に応えてくれた。

 声は聞こえない。

 でも……自分に好きなようにすればいい。

 そう言ってくれている気がした。


「申し訳ありません殿下。私は、この地に残りたいと思います」


 だから勇気を出して答えを口にした。

 決めていた答えを、ハッキリと、堂々と。

 すると――


「そうか。君がそう決めたのなら仕方がないね。ならば引き戻すのは諦めよう」


 ラウルス殿下は拍子抜けするくらいあっさりと引き下がってしまった。

 意外だ。

 こういう時、彼なら言葉巧みに誘導して、私を言いくるめてしまいそうなのに。


「その代わり、一つだけ依頼をしてもいいかな?」

「い、依頼……ですか?」


 嫌な予感がする。


「そう、君にしか出来ないことなんだ」


 そのセリフは、あの時と同じだった。

 君にしか出来ないことだから。

 そう言って、彼が私に頼んできた依頼は……


「これを作ってほしいんだ」

「……こ、これ……」


 詳しく見るまでもない。

 彼が依頼してきたのは毒物のポーションだ。

 それも以前に作った物より強力な。

 私は青ざめる。


「い、一体何に使われるのですか?」

「それは教えられない。けど安心してほしい。ちゃんと僕のためになるんだ」


 清々しい笑顔を見せる。

 きっと、いや確実に嘘は言っていない。

 彼はいつだって、自分の利益を考えている。


「お、お断りすると」

「断られてると困ってしまうなぁ。その時は……僕もやるべきことをやらないとね」

「――っ」


 身の毛もよだつ恐怖を感じる。

 彼は知っている。

 私の浅はかさが招いた結果を……利用された罪を。

 それをバラすぞと、言っているように聞こえた。

 彼は王子で、私は職員。

 彼の一言だけで、私はただの罪人になりえる。

 リスクは彼にもあるだろう。

 それでも彼ならやってしまうに違いない。

 自分の利益のためなら平気で肉親すら犠牲にする。

 彼はそういう男だ。


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