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1.宮廷錬成師、クビになる

 宮廷錬成師になって一年が経ったころ。

 王座の間に呼び出された私は、陛下からこう告げられた。


「何の成果も出せない宮廷付きなど、ただの『給与泥棒』だ。そんな者はわが国の王宮には必要ない」


 それがこの国で聞いた最後の言葉だ。

 屋敷でも居場所がなかった私にとって、宮廷だけが唯一の居場所であり拠り所だった。

 それを失ってしまった私は、行く当てもなく王都を出発する。


「どうすれば……いいのかな?」


 そんな独り言をつぶやいても、返事が返ってくるわけもない。

 誰かが助けてくれるということもなかった。

 一応、私の家は代々宮廷につかえる錬成師の家系で、これまでに数々の貢献をしてきたことから貴族の位を与えられていた。


 当主と平民の愛人の間に生まれた私にも、錬成師としての才能はあったようだ。

 その出自から、屋敷でもあまり良い扱いは受けていなかったけど、錬成師としてハッキリとした功績さえ残せば、きっと周りも認めてくれる。

 そう思って十数年、直向きに努力を重ねてきた。

 けれど、私が錬成術で新たに開発した物や成果は全て、本妻の娘である妹のセリカに奪われてしまった。


 彼女にも錬成師としての才能はあったけど、努力を泥臭いと嫌い、私がコツコツと積み上げてきた研究成果をそのままお父様に報告していたんだ。

 それは自分の成果だと訴えても、まったく取り合ってもらえず。

 気付けば私より先に彼女が宮廷付きに選ばれ、それから二年以上経った昨年、ようやく念願だった宮廷付きに私もなれた。

 それなのに結局宮廷付きになっても、彼女に成果を奪われ続ける日々。

 ついには何もしていないでお金だけ貰っている『給与泥棒』なんて言われて、王宮から追い出されてしまった。


 私の母は平民で、父と関係を持った後にどこかへいなくなったそうだ。

 正確には父が、自身の汚点にならぬよう遠ざけたのだろう。

 私がそのことを知ったのは、物心ついた頃だった。

 だから、私には父以外に頼れる人がいない。

 仕事をなくし、居場所をなくした私は、途方にくれながら歩き続けた。

 

 そして――


「ここ……」


 気付けば、懐かしさを感じる森へと入っていた。

 錬成師の一族で貴族の家に生まれた私だけど、出自から疎まれていたことで、家から大した支援は得られなかった。

 普通は錬成術に使う材料なんて、言えば用意してもらえる。

 妹はそうだったけど、私はそれすらしてもらえなくて……

 宮廷付きになる前までは、自分で森や山に入って材料を集めていたんだ。

 この森は特に珍しい植物が多くて、比較的安全で落ち着くし、お気に入りの場所だった。

 

「懐かしいなぁ~」

「それはこっちのセリフだ」

「え――」


 感慨にふけっていると、不意に声がかかる。

 男の人の声。

 軽いあいさつで何度も聞いたことのある声に、私は思わず急いで振り向く。


「久しぶりだな?  アリア」

「ユレン君?」


 声をかけてくれたのは、私が初めてこの森に入った時に出会ったユレンという男の子だった。

 銀色の髪が特徴的で、どこか不思議な雰囲気のある少年。

 当時はまだ少年と呼べる年頃で、彼も私と同じように錬成師を目指していた。

 この森へ足を運んだのも、ここで良い素材が手に入るから。

 同じ目標があったからか、私とも話があって、出会って以来数年、特に約束をするわけでもなく森で何度も顔を合わせた。

 いつしか同年代で、唯一気兼ねなく話ができる相手になっていた。


「久しぶりっ……だね」

「ああ、一年ぶりかな? 君が宮廷付きになったと報告しに来て以来だ。まさかまた会えるとは思わなかったけど。どうした? 足りない素材でも探しにきたのか?」

「えっと、その……」


 彼と最後に会ったのは一年ほど前。

 念願だった宮廷付きになれて、一番に報告しに行った時だ。

 嬉しさに浮かれて森をかけ、転んで膝を擦りむいたっけ?

 宮廷付きになれば自分で素材を取りにいく必要はなくなるから、この森へ来たのもそれが最後になった。

 彼ともそれ以来、一度も会っていなかった。

 本当は会いたいと思っていたから、再会はとても嬉しい。

 けれど……


「アリア?」

「ユレン君、私ね……もう錬成師はやめようと思ってるの」

「え?」


 頑張る理由を失ってしまった。

 居場所も、もうない。

 歯切れの悪い返事の先に出たのは、あきらめの一言だった。

 ユレン君も私がそう言うと予想していなかったのか、ひどく驚いた顔をしている。


「……宮廷付きになったんじゃなかったのか?」

「うん、なれたよ」


 宮廷付きは私にとって一番の目標だった。

 彼には森で会う度に、宮廷付きになるんだと意気込みを口にしていたと思う。

 だからこそ驚かれた。

 宮廷付きになったと報告した日は、自分でも恥ずかしいくらいにはしゃいでいて、彼も一緒になって喜んでくれたから。

 それがどうして、やめるなんて結論に繋がるのか。

 彼は疑問に思っただろう。

 それでも私の表情や声色から察してくれたのか、彼も自分から深くは聞いてこない。

 

「頑張ったんだけど……もう駄目かなって」


 聞いてこないから、私は自分から弱音を口にする。

 錬成師として成果を残して、家や周囲の人たちに認めてもらうこと。

 それが私にとっての最終目標で、宮廷付きは言うなれば最初の一歩だった。

 ただ、今となっては家も仕事もない。

 頑張る理由なんて、もうないんだ。

 だからきっと、やめるという選択肢は間違っていない。

 そう思えるのに、納得は難しいな。


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