17.小麦を作ろう
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用意された素材を吟味する。
まず必ず必要な素材は三つ。
成長した小麦、小麦の種、水だ。
錬成する物の素体があるとスムーズなのと、改良を加える場合は元となる物がないと出来ない。
そして、水。
何だかんだいって、この水という素材が一番重要だったりする。
錬成術において液体は、素材同士を繋げる役割を持つ。
水は正確かつ滑らかに繋ぎ、油は強固に繋ぎ、異物が混ざり合った水は混ざり合った素材の特性が強くなる。
液体を使わずに錬成をすると、大抵の場合は上手くいかず中途半端な代物が出来る。
酷いときは爆発もするから気をつけよう。
「始めたばっかりの頃はよく爆発させてたな~ あの頃は液体の量も種類もわからなくて、適当に混ぜてたし」
私には錬成術の師匠がいない。
普通は誰かに教わるらしいけど、環境的にそれは難しかった。
だから本から得た知識を元に、独学で錬成術を学んできた。
思い返せば無茶ばかりしていたと思う。
周囲が焼け焦げるほどの大爆発を起こした時も、よく生きていたなと驚いたものだ。
さて、素材の確認も一通り終えた。
そろそろ本格的に作業を始めようか、と考えていた所で思い出す。
「あ、そうだ」
始める前にもう一つ、確認しておくことがあった。
それは錬成台が動くかどうかだ。
昨日はちゃんと動いてくれたけど、元々ここが放置されていたのは、錬成台が動かせなかったからで。
その理由は、錬成台に刻まれた錬成陣が通常と違ったから。
内容を理解できた今、私なら動かせると思うけど、念のために確認はいるだろう。
「ふぅ……」
私は錬成台に手をかざす。
意識を集中させ、心の中で錬成陣の起動をイメージする。
すると、錬成台は柔らかな輝きを見せる。
「うん。ちゃんと動く――」
「わぁー」
「――ね、え?」
自分以外の声が聞こえて思わず変な声が出てしまった。
聞こえた声の方向は窓からだ。
窓ガラスの所為で籠っていたけど、誰の声だったかはすぐにわかった。
昨日聞いたばかりの声だから。
「姫様? どうしてこちらに?」
「あ! 見つかってしまいました」
隠れていたつもりだったの?
というかいつから見ていたのだろうか。
私は姫様をアトリエの中へと招き入れる。
「おはようございます。アリアお姉さま」
「お、おはようございます姫様」
姫様にお姉さまと呼ばれるのは慣れないな。
「その、どうしてこちらに?」
「実はお姉さまのお仕事を見学したくて。こっそり覗いていました」
「そうだったんですね」
「はい。ごめんなさいお姉さま。お仕事の邪魔をするつもりはなかったのですが……」
ショボンとするイリーナ姫。
私は慌てて慰める。
「じゃ、邪魔なんて思ってませんよ? 見学をご希望でしたらぜひお近くで」
「本当ですか?」
「はい。もちろんですよ」
「ありがとうございます! アリアお姉さま」
今度は無邪気な笑顔を私に向ける。
眩しい。
眩しすぎて目が痛くなりそうなほど輝いている。
純真無垢という言葉は、姫様のためにあるんじゃないとか一瞬思ってしまった。
「そ、それじゃお仕事を始めていいですか?」
「はい! お願いします!」
そう言って彼女は錬成台に近づいた。
とても近い。
顔に手が届くほどの距離に。
「あまり近づくと眩しいかもしれませんよ?」
「平気です! お邪魔じゃなければ出来るだけ近くで見たいです」
「わかりました」
私としては凄く緊張する。
ただでさえ一人でずっとやってきたから、誰かに見られるという環境に慣れていない。
しかも相手はお姫様だ。
ユレン君の妹さんじゃなければ、こうして話すことすら出来なかった相手。
考えるほど緊張するので、大きく深呼吸をした。
すると彼女も真似るように、私と同じ動作で深呼吸をした。
目を合わせるとニコリと微笑んでくれる。
か、可愛い……
落ち着きかけた緊張が再燃した。
このままではいけないと気持ちを切り替える。
私は小麦と水、ユッカの葉を持ち出す。
「アリアお姉さま、その葉っぱは何ですか?」
「ユッカの葉です。寒さに強い植物なので合成してみようかと」
「なるほど~ ユッカ、ユッカですね」
姫様は何度も頷いている。
頭の中で覚えようと頑張っているみたいだ。
しぐさも可愛らしい。
見ていて和むのもとても良い。
ってダメダメ!
また他事を考えてた。
今はお仕事に集中しないと。
「ふぅー……」
大きく息を吐き出す。
錬成台に手をかざし、素材を最後に確認して、目を閉じ錬成を始める。
完成をイメージしながら錬成を発動。
錬成台を柔らかな光が包み、素材が光に包まれる。
「わぁ~ やっぱりアリアお姉さまの錬成は綺麗です」
「そうですか? 他の方も同じだと思いますけど」
「そんなことありません。アリアお姉さまの光がいっちばん綺麗です!」
「あ、ありがとうございます」
それはたぶん、この錬成陣の影響だろう。
一部を解読した限りだと、錬成時に発生する光を鮮やかにする効果も付与されていた。
錬成そのものにはまったく影響のない仕組みだ。
もしかすると先人の使用者は、格好良さを気にする人だったのかな?
とか思いつつ、錬成するイメージは崩さない。
光に包まれた素材が消費され、一つに集合する。
「出来ましたよ!」
「はい」
一先ずは完成。
ちょっと緑色が強いけど、見た目は小麦の形をしている。
続けてこれが害のないものか調べる必要がある。
その工程に移ろうとしたところで、姫様が口を開く。
「あの、お姉さま!」
「何ですか?」
「もしよければ……私にもお手伝いさせてほしいです!」
「……え?」
思わぬ要望に、私は困惑した表情を隠せない。






