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【WEB版】錬成師アリアは今日も頑張ります ~妹に成果を横取りされた錬成師の幸せなセカンドライフ~【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第一章

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16.初のお仕事

 アトリエに到着した私は、ラウラさんから渡された依頼書をテーブルの上に並べた。

 依頼書は三枚。

 三枚とも植物に関する錬成の依頼だった。

 パッと見た感じどれも難易度は高めだけど期限は設けられていない。

 その中で個人的に、優先度が高い順にするなら……


「これかな? 新種の小麦開発」


 小麦は庶民から貴族まで、誰でも知っている一般的な穀物だ。

 食べ物としてだけでなく、藁を含め様々な用途で使われる万能な素材でもある。

 私も錬成の材料に使ったりしていた。

 傷口を瞬時に塞ぐ効果をもつポーションの材料になるんだ。

 そういう観点から考えても、小麦不足は深刻な問題だと捉えられるだろう。

 

 そう、この国では現在、小麦の生産量が減少している。

 正確には昨年に比べて減少しているだけで、元々採取量は多くなかった。

 原因は環境にある。

 洪水のような雨が降り続いたと思ったら、次の日から一切雨が降らなかったり。

 激しい風に晒される日もあれば、無風に近い日もある。

 そういう急激な環境の変化が作用して、大抵の作物は育ちきる前に枯れてしまう。

 王宮が管理する屋内栽培場があるみたいだけど、大掛かりな設備が必要でコストが高い。

 小麦以外にも必要な作物はあって、とても王国全体の消費を賄える規模ではなかった。

 だから陛下は直々に、宮廷錬成師へ新種の開発を依頼したわけで。

 室長のラウラさんが請け負っていたわけだけど……

 

「ラウラさん、忙しそうだったなぁ」


 朝の忙しそうな様子を見てわかったけど、室長だから錬成以外のことも考えないといけないのだろう。

 聞いた話では、私以外の部下の人たちはほぼ素人で、指導を一人でやっているとか。

 錬成術ほど知識と経験が必要で、奥が深い仕事はないと思う。

 私も独学とは言え小さい頃から勉強していたし。

 それを今から覚えることと、教えることは想像以上の大変さがありそうだ。


「そういえば、今日は他の人たちに紹介してくれるって……」


 と言っていたけど、忙しそうだったし無理だろう。

 別に急がなくても良い。

 時間が空いている時にでも、私をみんなに紹介してもらえれば。

 あまりに遅くなりそうなら、自分からあいさつしに行くのも手だ。

 ここの人たちならきっと、嫌な反応はしないはずだし。


「さてと」


 気持ちの整理と情報の整理は済ませた。

 私は依頼書の二枚を横に退け、まずは小麦生産の依頼書を目の届く場所に貼り出す。

 

「よし。まずは今ある素材で作ってみようかな」


 ラウラさんから錬成に使えそうな素材をいくつか分けてもらった。

 一般的な小麦の種、成長した小麦、それに薬草系の素材。

 あとは木の実とか、植物を錬成するから同じ植物の素材が多く箱に入れられている。


「大体全部知ってる素材かな? うん、これなら使えそう」


 一つ一つの品種や構造を確かめていく。

 錬成を成功させる上で大事なのは、素材の品質と数、それと使用する素材に関する理解だ。

 生成される錬成物の質を決めるのは、元となった素材の品質。

 粗悪品を使って錬成すれば、出来上がるのも粗悪品だ。

 さらに錬成は失敗することもある。

 素材があっていないことがほとんどだけど、素材のことを把握せずに錬成をした場合も、思った物が出来ない。

 その辺りは料理に近いだろう。

 食材の味を知らなければ、出来上がる料理の味もわからないように。

 素材の良し悪し、構造を理解して初めて、思い通りの錬成が可能となる。


 それから――


「植物の錬成か。久しぶりかも」


 初めて挑戦したのは、錬成術を学び始めて一年後のこと。

 宮廷付きになってからはポーションづくりが主になっていて、植物錬成に手を出すタイミングがなかった。

 植物の錬成は無機物に比べて難しい。

 錬成の難易度は、生きている物ほど高くなる。

 動物とは違うから生きていると表現するには足りないかもしれないけど、植物にも命はある。

 命あるものを扱い、生み出すことは同じ命の領分を越えている。

 一昔前の世界では、錬成術を神の御業と呼んでいたらしいけど、あながち間違いじゃない気もするな。

 特に今回は難しさが増している。

 なぜなら……


「小麦を錬成して、それを材料に種を錬成……は良いとして、大事なのは育つ過程なんだよね」


 自分で口に出しながら、必要な要素を考え出していく。

 作らないといけない小麦は、品質や味を落とさず、厳しい環境下で育つ品種だ。

 美味しい小麦を作るだけなら今すぐ出来なくもない。

 それを材料にして種を作ることも。

 ただし問題は、その種を植えてちゃんと育つかどうかは、実際に試さないとわからない点だ。

 通常の環境下で育てれば問題ないだろう。

 想定できない厳しい環境で育てた場合、自分が求めている品質の小麦になるかはわからない。 

 錬成術は結果を生み出す力。

 それに至る過程までは再現することが出来ない。


「だからまずは育つ速度が早いタイプと、耐久性をあげたタイプを……それから実験用に……」


 考える程やることが増えてくる。

 初日から中々の忙しさになりそうだ。

 別にそれを嫌だとは思わない。

 むしろ、難しいからこそ、やりがいを感じているくらいだ。


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