15.新生活スタート!
小鳥の囀りが聞こえる。
穏やかな陽気を感じる。
目覚めたのは午前七時、窓から差し込む日差しの眩しさに瞼があいた。
「ぅ、うーん!」
身体を起こし、大きく背伸びをする。
窓の外を見ながらベッドから降りて、昨日の夜に用意しておいた着替えを手に取る。
着替えるのは顔を洗ったり、歯を磨いた後だ。
それでも一度、確かめるように眺めてしまう。
新しい仕事服。
セイレム王宮の錬成師として働く服を。
「ふふっ」
自然と笑みがこぼれる。
この部屋だって特別に用意してもらった。
普通、王宮で働く人は街に自分の家を持っていて、そこから通うのだけど。
一部の人は王族と同じように、王城に部屋を頂いて生活している。
なんと私もその一人だった。
単に来たばかりで住む所も見つかっていないから、ユレン君が手を回してくれただけなのだけど。
王城の一室で目覚めるというのは、他にはない裕福感を抱くことが出来る。
それから朝の支度を済ませ、朝食も食べて。
準備万端で廊下を歩き、私の仕事場へ向かう途中に。
「おはようアリア。早いね」
ユレン君が声をかけてくれた。
私が振り返ると、軽く手を振っているユレン君がいる。
「おはようユレン君! じゃなくて、ユレン殿下?」
「あはははっ、別に城の中だからって畏まらなくて良いよ。外からの来客でもいない限り普段通りで構わない」
「そ、そう? じゃあお言葉に甘えるよ」
ユレン君が王子様だと知ってから二日だ。
ずっと一般人だと思っていて、何気なく接していたこともあって、畏まって話すのは少し違和感を感じてしまう。
出来れば彼とは普段通りに、友人の様に接したい。
「ユレン君も今からお仕事?」
「ああ、その前に様子を見に来たんだ」
「わざわざ私の?」
「そう驚くことか? アリアは俺が連れてきた人だし、ちゃんと働けそうか確かめないとな」
そう言ってニカっと笑うユレン君。
私のことを心配してくれている。
それがわかっただけで、とても嬉しかった。
「それじゃ俺はいくから。頑張ってくれよ? 期待の宮廷錬成師さん」
「はい! お任せください殿下!」
「ははっ、その言い方はやっぱ違和感あるな」
「そうだね」
朝の談笑。
他愛のない会話を楽しんで、私たちはそれぞれの場所へ向かう。
彼は王子としての務めを果たしに。
私は宮廷付きの錬成師として、初仕事を始めに。
以前からやっていたことの延長だけど、なんだかワクワクするのは気のせいじゃないと思う。
好きな職場で、やりたいことをやれる。
理想的な今を感じて、ただそれだけで幸せになれそうだ。
王城を出てから少し歩き、同じ敷地内の王宮に入る。
私と同じように働く人たちの姿があった。
目と目が合い、通り過ぎる際に挨拶を交わす。
相手は私のことは知らないと思うけど、ちゃんと挨拶を返してくれる。
前の王宮じゃ、しても無視されるのが普通だったのに。
私の中での普通が、新しい環境では更新されていく。
朝からとてもいい気分だ。
そのまま進み、室長さんの部屋へ向かう。
「失礼します」
「あ、どうぞ入って~」
軽い返事を聞いて、私は扉をあけ中に入る。
すると、室長のラウラさんはすでにお仕事を始めていた。
錬成台に植物の種といくつか素材が置かれている。
「おはようアリアちゃん。今日からお仕事よろしくね?」
「はい!」
「うんうん、良い返事だね。朝も時間ピッタリだし感心だよ。さっそく君に任せたい仕事を紹介しても良いかな?」
「お願いします」
何を依頼されるのだろうか。
私は少し期待する。
ラウラさんは散らかったテーブルの上にあった書類を数枚手に取り、内容を見ながら話す。
「うーんとね、私に来てる依頼の一部を任せようと思うんだけど、最初は一つのほうがいい? それとも三つくらい受けとく?」
「どんな内容の依頼があるんですか?」
「こんな感じ」
ラウラさんは依頼書の内容を見せてくれた。
中身はそれぞれ違うけど、半数が植物を作る依頼のようだ。
昨日話に出ていた厳しい環境でも育つ植物開発。
それが室長さんに与えられた依頼の大半を占めているらしい。
「これ、期限は特にないんですね」
「難しい依頼だってハッキリしてるからね。急を要するポーションの作成とかじゃないし、やれるなら早めにって感じだよ」
「それだったら複数お受けします。そのほうがラウラさんの負担も減りますよね?」
「私の負担は考えなくてもいいわよ? まぁでも、アリアちゃんなら大丈夫か? それじゃこの三つをお願いね?」
そう言って手渡された依頼書を受け取る。
「他にも新しい依頼があったら紹介するわ。いくつか仕事をこなしてたら、アリアちゃん指名の依頼とかも来るようになるわよ」
「はい! 頑張ります」
「ええ、無理しない範囲でね? それじゃお願いするわ」
「はい!」
依頼を受け取った私はラウラさんの部屋を後にする。
宮廷錬成師はそれぞれ自分の研究室、アトリエと呼ばれる部屋を用意されていた。
私の部屋は王宮の建物内じゃなくて、庭にある小さな小屋がそう。
かつて偉大な錬成師が過ごした場所に、私は自分のアトリエを手に入れた。
部屋に入り、大きく深呼吸をする。
「さぁ、頑張らないと」
期待に応えるため。
私の新しい錬成師生活がスタートした。
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