表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【WEB版】錬成師アリアは今日も頑張ります ~妹に成果を横取りされた錬成師の幸せなセカンドライフ~【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/84

14.助けられた人

 かつて偉大な錬成師が過ごした空間。

 時代が変わり、見える景色が変わっても、変わらず残された大切な場所。

 きっと多くの思い出が、この場所には詰まっている。

 そんな大切な場所を与えられた私は、なんて果報者なのだろう。

 私の研究所。

 私のアトリエ。

 今日から私は――


「この国の錬成師なんだ」


 そう実感する。

 新しい生活のスタートだと。

 清々しくて、とても気持ちの良い気分だ。


「実際の仕事は明日から始めてもらうよ。今日は部屋の整理、というか模様替えでもすると良い」

「良いんですか?」

「もちろん。ここは君のアトリエなんだ。使いやすく整えた方が仕事もしやすいだろう?」

「そう、ですね。じゃあそうします」


 歴史ある建物だから、少し気が引けるけど。

 室長さんの言う通り、これから仕事をしていくなら、使いやすい部屋のほうがずっと良い。

 そのほうが、王宮やみんなの期待に応えられそうだ。


「なら俺も手伝うよ」

「ユレンは駄目だ」

「うっ……」

「わかってるはずだろ? 昨日抜け出した分の公務が溜まってる」


 ギロリと睨むヒスイさんに、ユレン君は目を逸らす。

 どうやら昨日はお仕事をほったらかしにして城を飛び出したようだ。

 まさか、いつもそんな風に城を抜け出していたのかな?


「ちょっ、ちょっとだけなら」

「駄目だって。昨日と今日分が終わるまで逃がさないぞ」

「くっ……すまないアリア、手伝えそうにない」

 

 あからさまにがっかりするユレン君。

 そんなに手伝いたかったのかな。


「だ、大丈夫だよ。ユレン君も忙しいんだね?」

「一応、これでも王子だからな」

「そうそう。だから王子らしくちゃんと仕事しろよ。俺が見張っててやるから」

「お前も仕事するんだよ!」


 二人は軽快なやり取りをしながら、一足先に部屋を出て行こうとする。

 ユレン君は扉に手をかけたところで立ち止まり、振り返る。


「アリア」

「ん? 何?」

「必要な物があったら言ってくれ。用意させるから」

「うん」


 そう言って、再び扉を開けようとする。

 三割くらい開けたところでまたピタリと動きを止め、彼は振り返る。


「仕事はなるべく早く終わらせる。夕方くらいにはまだ顔出すと思うから」

「うん。待ってるね」

「ああ、頑張れよ」

「ユレン君もお仕事頑張って」


 私がそう言うと、ユレン君は安心したような笑顔を見せて、ようやく扉を全て開けた。

 そのまま部屋を出て行く。

 私は彼の後姿が見えなくなるまで、じっと見つめていた。


「いいね~ 青春だね~」

「え?」

「なーんでもない。それじゃ私も研究室に戻るわ。何かわからないことがあったら遠慮なく聞きにきてね? それから他の子への紹介はー……明日でいっか。今日は一先ず、仕事できる環境を整えちゃってね」

「はい! 室長、ラウラさん、色々とありがとうございます」


 私は深々と丁寧に頭を下げた。

 良くしてもらえたことが嬉しくて、感謝の心でいっぱいに。


「感謝するのはこっちのほう。私たちは今まで君に助けられてきたんだから。今度は恩返しさせてよ。そーれーに、腕の良い錬成師の研究を間近で見られるんだ。私たちにとってもプラスだよ」

「期待に応えられるように頑張ります」

「うんうん、私も頑張るよ。室長さんだからね」


 ラウラさんが部屋を出て行く。

 私はもう一度大きくお辞儀をして、彼女を見送った。


「さぁ、私も頑張らないと」


 まずは部屋に何があるのか確認して。

 必要な物、いらない物の整理をしようかな?

 お掃除はしてもらってるみたいだけど、置いてある物はそのままみたいだし。

 大事な物かどうかは錬成師じゃないと区別がつかなかったりする。


「色々あるなぁ~」


 読めない文字の資料があったり、見たことのない形状の道具があったり。

 一言で表すなら不思議な部屋だ。

 

 それから時間はあっという間に経過し。

 正午、夕方となった。


「ふぅ、これで終わりかな」


 部屋は物が整理され、棚や引き出しの中にしまわれた。

 よく使いそうな小物は錬成台の近くに。

 使用頻度が低そうな物は少し離して、使わないそうだけど可能性がありそうな物は奥に。

 ラウラさんみたいに溜まっていなかったから、整理すれば十分な広さを確保できた。

 ちょっと地味だけど、これくらいのほうが落ち着く。


 ひと段落ついていると。


「アリア! 入って良いか?」


 扉のノックの音と一緒に、ユレン君の声が聞こえた。

 言っていた通りに来てくれたんだ。


「うん! どうぞ」


 私が返事をすると、扉が開いてユレン君が部屋に入ってきた。

 それにもう一人。

 淡い黄色の髪に、キラキラと輝く黄金の瞳。

 肌は弱々しいまでに白く、まるで人形のような女の子だった。


「お邪魔します!」

「ユレン君、その女の子は?」

「俺の妹だよ」

「え……」


 それって病弱だったっていうあの?


「ほらイリーナ、彼女がアリアだ。挨拶して」

「はい! お兄さま!」


 彼女は高い声で元気に返事をして、私の前に一歩踏み出す。

 そのままニコリと微笑で、自己紹介と挨拶をする。


「初めましてアリアお姉さま! わたしはイリーナ・セイレムです!」

「お、お姉さま?」

 

 どうしてお姉さま呼び?

 戸惑う私に、イリーナは続けて言う。


「お兄さまから聞きました! アリアお姉さまが作ってくれたお薬のお陰で私は元気になれました! ありがとうございます!」

「い、いえそんな」

「これから王宮で働いてくださるとも聞きました! 私とても嬉しいです! いっぱいお外のお話も聞きたいです! よろしくお願いします」

「え、えぇ?」


 彼女は頭を下げた。

 ユレン君の妹ということ、この国の王女様に当たる。

 そんな偉い人に頭を下げさせるなんて、とアタフタしていたらユレン君に笑われてしまった。


「はははっ、イリーナには君のことを話したからね。たぶんこの国で、君の一番の支持者じゃないかな?」

「そ、そうなんだ」

「ああ。だから仲良くしてやってくれ」

「う、うん。私なんかで……じゃなくて、私でよければ」


 なんか、というのは失礼だろう。

 彼女は私が作ったポーションで助かった人だ。

 その人の前では、堂々としていよう。

 昔の私のようにではなく、新しい私はそう誓う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿してます! 下のURLをクリックしたら見られます

https://ncode.syosetu.com/n7004ie/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

5/10発売予定です!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000



5/19発売予定です!
https://m.media-amazon.com/images/I/71BgcZzmU6L.jpg
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ