13.アリアのアトリエ
室長さんから談笑交じりに仕事の説明を受ける。
基本的には前の王宮と同じ。
わからないことがあれば都度質問して解消していくことになって、大方の説明が終了した。
「それじゃーそろそろお部屋の案内しようかー……」
ハイテンションから突然の急落、というか室長さんは固まった。
私、ユレン君、ヒスイさんが同時に首を傾げる。
互いに顔を見合ってから、代表してユレン君が尋ねる雰囲気になって、彼が質問する。
「どうしたんだ?」
「い、いや~ 今さらで申し訳ないんだけど……部屋」
「部屋がどうした?」
「……余ってないんだよね」
あははははっ――と気の抜けた笑いが部屋に広がる。
私はどう反応していいかわからなくて無言。
残る二人の反応はというと……
「どうなってるんだ? 室長」
「……聞くなよユレン。どうせまただ」
「また?」
私が聞き返すと、ユレン君がため息交じりに答える。
「部屋が余ってることは事前に確認済みなんだ」
「え? でも今余ってないって」
「そう。理由は見に行けばわかると思うよ」
「あははっははっ、見て面白いものじゃないけどね~」
室長さんは未だに笑っている。
呆れる二人の後に続いて、空いているはずの部屋に向った。
「ここだよな?」
「そのはずだ」
ユレン君とヒスイさんが確認し合って、閉まっている扉を開ける。
すると――
「う、うわぁ……」
思わず声が漏れてしまった。
空いているはずの部屋が埋まっている。
文字通り埋まっている。
大量の荷物でパンパンに。
「そういうこと」
と、私が納得する傍らで、ユレン君が室長に注意する。
「一月前に片付けろって注意したはずだが?」
「いや~ 中々忙しくって~」
「なぁユレン、前より荷物が増えてないか? これ」
「奇遇だな。俺もそう思ってた」
部屋は足の踏み場もないくらい荷物だらけになっていた。
これで増えたと言っていることに驚く。
前はもっと綺麗だったのかな?
今の散らかりようを見る限り、そんなに変わらない気もするけど。
「今日中に片付けろ」
「む、無茶言わないでくださいよ~ この量ですよ?」
「この量になるまでため込んだのは誰かな?」
「うっ……違うんですよ。これ全部研究に必要な物ばっかりで捨てられないんです」
言い訳を始める室長さん。
私は物で埋まった研究室をざっと眺める。
苦し紛れの言い訳っぽいけど、確かに言っていることは合っていそうだ。
山積みになっている資料の大半は錬成術に関する論文。
その他もデータだったり、材料になりそうな物も置いてある。
「いいから片付けろ。じゃないとアリアの部屋が用意できない」
「うぅ~ あっ、そうだ思い出した! もう一つだけ部屋が余ってますよ!」
「は? そんな部屋どこに……ってあれか」
「はい。建物から離れてますけど綺麗ですよ? あっちは掃除もしてくれてるし……他の人が」
結局自分じゃないのか、というツッコミはさておき、どうやら一室空きがあるそうだ。
ユレン君はなんだか微妙な表情だったけど。
一先ず見に行くことになった。
その場所は王宮の建物内ではなく、庭にある石製の小さな小屋。
工房と言い換えた方がいいだろうか。
中に入ってみると確かに綺麗に掃除がされている。
それと、どこかで見たような雰囲気も感じた。
「ユレン君、ここは?」
「来る途中に話したよな? 昔のすごい錬成師がいたって」
「うん。あ、もしかしてここがその人の?」
ユレン君はこくりと頷く。
「大事なところなんでしょ? 私が使っていいの?」
「あーうんと、大事ではあるんだが……使えるなら使って良いとしか言えないな」
歯切れの悪い返事に私は首を傾げる。
するとユレン君は徐に歩き出し、部屋の中央にある錬成台に触れた。
「実はこの錬成台、壊れてるんだよ」
「え? そうなの?」
「ああ。たぶんだけど」
「たぶん?」
またしても曖昧な返事だった。
ぱっと外から見た感じ、どこも破損しているようには見えない。
錬成台は特別な鉱物を材料にしていて、中央に錬成陣が彫り込まれている。
その錬成陣が壊れない限り破損はしないはずだけど。
「見た目は綺麗なんだけどね~ それ誰にも起動させられないんだよ」
「室長さんにもですか?」
「ラウラでいいってば。まぁうん、誰もだよ」
「……あの」
そう言われると、逆に試したくなった。
「使ってみてもいいですか?」
「良いぞ」
ユレン君から了承を得た私は、壊れているという錬成台に近づく。
見た目はやっぱり普通だ。
いや、よく見ると刻まれている錬成陣が少し変わってる?
消えているとかじゃなくて、あまり見かけない記号や文字が刻まれている。
もしかしてこれが使えない理由なんじゃ……
「えっと、これなら」
特殊な部分の意味合いは、まったく新しい物質の生成に関係している。
錬成術で生み出せる物は基本、この世にある何かを材料にしていて、材料の質を超える物は作れない。
けれどこの錬成台は……ううん、これを使っていた人は、この世にない物をゼロから作ろうとしたんだ。
錬成台に手をかざす。
理解したことで使用者の資格を得たのか、淡く光り出す。
「動いた?」
「わお! これは驚いたね。壊れたわけじゃなかったのかな?」
「違う、と思います。ただ少しだけ普通の錬成台じゃないだけみたいです」
「ふーんなるほど、それを君は使えたのか。やっぱりただ人じゃないね」
ニヤリと笑う室長さん。
視線がちょっと厭らしい気もするけど、褒めてもらってるんだよね?
「よくわからんが、使えるんだな?」
「うん」
「じゃあ決まりだ! 今日からここを、アリアのアトリエにしよう」
「――私の」
こうして、錬成師のアトリエを手に入れた。
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