プロローグ
錬成術。
物質同士を掛け合わせ、新たな物質を生み出す術のこと。
太古の昔から伝わる由緒正しき力であり、文明を築き上げた者たちの中に、必ず一人はいたという。
歴史的にも偉大な存在とされていた。
「見てくださいお父様!」
「おおー、素晴らしいなアリア。もう一人で錬成できるようになったのか?」
私は錬成師の名門に生まれた。
恵まれた環境に、錬成師としての才能も持ち合わせ、期待もされていた。
順調だった。
幼い日までは。
しかし、人生というのは劇的なもので、何が起こるかわからない。
見えている事実だけでは全てではない。
ある日、私の母親を名乗る女性が現れた。
彼女は平民だった。
父は当初、関係を否定し続けていたが、検査の結果事実であることが判明した。
どうやら彼女は父の愛妾で、以前に関係を持ってしまったそうだ。
相手は平民。
貴族と平民では身分の差があり、釣り合わない。
だから父は隠したのだ。
バレないように巧妙に、私の母の記憶を薬で欺いてまで。
その日を境に、私の人生は一変した。
妾の子であるとわかった途端に周囲の視線は冷たくなった。
「お父様、これを見てください! 私が作ったんです」
「……」
父の態度の変化はあからさまだった。
私をいない者のように扱い、言葉も交わしてくれなくなった。
使用人の方たちも、私の扱いは酷いものだ。
いや、一番ひどかったのは母だ。
母といっても本当の母ではなく、母だと思っていた人物。
元からあまり仲は良くなかったが、これで決定的となってしまった。
それから妹が生まれた。
みんな妹を贔屓する。
私は一人ぼっちになり、よく書斎にこもっていた。
ヒラヒラと一枚の紙が舞う。
「宮廷……錬成師?」
偶然だった。
王宮で働く錬成師がいて、私の家は代々宮廷で働く優秀な錬成師を輩出している。
「私も宮廷で働けるようになったら……また昔みたいに」
そんなことを思ってしまった。
幼い私は、かすかな期待を膨れ上がらせ、すがるしかなかったんだ。
以後、私は独学で錬成術を学んだ。
成果らしい成果を出しては妹に横取りされ、悔しい思いをしながら。
それでもいつか、報われる日が来る。
認めてもらえる日がくるのだと信じて。
数年が経過し、成人となった私は宮廷付き錬成師の試験を受けた。
両親の同意が得られず妹に遅れる形になったけど、準備は万全で自信もあった。
そして私は、試験に合格した。
ようやくここまで来た。
宮廷錬成師、目指していた場所まで。
だけど、結果を残しても周囲の反応は変わらなかった。
むしろ目立った所為で扱いが酷くなった。
私は屋敷を追い出され、一人で暮らしながら働くことになった。
孤独を感じながら。
けれど心の奥底で、いつかは報われると信じている自分もいて。
世界は平等なんかじゃない。
才能があって、努力をして、成果を出しても幸せになれない。
それを知ってしまった私は、笑える日が来るのだろうか?
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タイトルは――
『姉の身代わりで縁談に参加した愚妹、お相手は変装した隣国の王子様でめでたく婚約しました……え、なんで?』
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