第五話:先生!?
私は今、夢の中にいた。
その夢では、皆沢先生が登場した。
私が丁度保健室で目を覚ました時、皆沢先生が来てたっていう設定。一瞬現実かと思った。けど、その皆沢先生は言ったんだ。私のことを…「姫香」って、呼び捨てにしたの。
それで夢の中だって確信した。そして大胆に、「好き」って何度も言ってみる。先生は、さっきまで微笑んでいたのに………どんどん顔が曇っていく。
―――――なんで?夢の中でくらい、いい夢見させてよ!!
「っ!!!」
目を覚ました。一瞬、緑川先生が目の前にいるかと思ってびくびくしてたけど、いなかった。
カーテンの向こうで、緑川先生が机に座っている。
「あの…せんせ………?」
おずおずとカーテンを開ける。先生に話し掛けようと思ったのに、先生は机の上にうつ伏せになって寝ていたのだ。どうしたらいいのか分からなかった。とりあえず、保健室のソファにあった毛布を被せようと、持ってきた。そして、先生にかけようとしたとき…
「!!!」
緑川先生は、私の腕を掴んだ。起きたのか、と思ったが、先生は相変わらずすぅすぅと寝息を立てている。私はホッとため息をもらした。
「………か」
「え?」
寝ている相手に、思わず聞き返した。
「ひめか………」
「……ひめ、か?ん?」
緑川先生は、「ひめか」と言った。もし、このひめかが「姫香」のことだとしたら……
この純粋な少女は、何を想像するだろう?
「わ…たし?」
保健室で一人、顔を紅潮させてその場にへたり込む。相変わらず、先生は私の腕を掴んだままだ。
先生が寝ていて、本当に良かったと思う。起きていたら、腕の脈動からドキドキが伝わってしまう。顔が赤いとばれてしまう………ひめかの正体が、私ではないかもしれないのに。
「んん……」
先生がそう声を漏らすと、私の腕から先生の手が離れた。そしてその離れた先生の手は、重力により下にずり落ちた。
私は、このまま起きそうにない先生の側に、メモを残した。
―――起きたので、教室に戻ります。 右京―――
保健室から出て、廊下を歩いていた。廊下は騒がしい。時間を見ると、もう授業が終わっていた。
どうやら、今休み時間が始まったばかりのようだ。
「……あ、右京」
目の前にいたのは、佐々木。なんだ佐々木か、と思いつつ佐々木を見上げる。
「なんだって、酷いヤツだな。折角迎えにきてやったのに。」
「聞こえてたの?てか、お迎え?別にそこまで私重症じゃないし…」
「いーんだよ!俺が来たかったんだから。」
気のせいか、佐々木が少しイラついている。んー、なんで?
「てか佐々木がそこまでする必要なくない?」
「………お前ってさ…」
暫しの沈黙の後、佐々木がため息をついて言った。
「ニブ。」
佐々木はその一言だけ言うと、くるっと後ろを向いてスタスタ歩き出した。
結局何が言いたかったのか分からず、ただ首を傾げていた。
そのことを考えるのはやめて、とりあえず教室に向かった。
「………気になんねぇのかよ…バカ右京…」
佐々木は廊下で立ち止まり、そう言っていた。
しかし私には知る由もなく。佐々木の「ニブイ」という言葉の意味さえも知ることはなく。
ただ、考えることは皆沢先生と緑川先生のことでいっぱいだった。
「えっ…俺のことは頭にないのかよ…」by佐々木