第三話:保健の先生と私の男友達
走っていると、誰かに激突した。
「ったぁ〜…」
「ってぇ〜…って、右京じゃん!大丈夫なのか?貧血って聞いたけど。」
衝突した相手は、クラスメイトで、男友達でもある佐々木由馬だった。
「ああ…大丈夫…」
「寝とかなくて大丈夫?つーか何で走ってんの」
「ええ!?それは、あいつが…」
「あいつ!?あいつって誰だよ!」
「えーと…緑川センセ?」
首を傾げながら言う。
「俺に聞くなよ。こっち質問してる側なのに」
「ごめん。でも、とりあえず緑川先生」
「まさか、あいつにパシられてんのか!?」
「いや…なんも…ただ私が勘違いして逃げただけで」
「それ勘違いじゃねぇだろ…」
佐々木が、ふぅとため息をついて言った。
さすがはお察しの早い。…って…
「勘違いに決まってるじゃん…!!じゃなきゃ、なんなの?だって、あんなフェロモン野郎が私にキスするわけ…」
「だーれがフェロモン野郎だって?ん?」
背中に感じる悪寒。ゆっくりと振り返ると、そこには彼がいた。
「で、出た…!!」
「俺は人間デスヨ。あんまり体調も良くないんだから、保健室にカムバック。おいで?」
「いーやーでーすっ!お断りです!」
「俺もお断りだっ」
なんかよく分からないけど、佐々木も私についた。
「でも、ホントに寝たほうがいいよ?」
「誰と?」
「それはもちろん俺と…って、そうじゃないでしょ?」
すかさず質問を入れてくる佐々木に、何故かノリ突っ込みをする緑川先生。
二人って、案外ナイスコンビ?
なんて、そんなつまらないことを考える私。
「とにかく。皆沢先生には言っといたから。先生も心配してたよ?」
この人…意地悪だ。
私の弱点が皆沢先生だと知ってて、そんな脅すようなこと言ってるの?
「…分かりました。三時間目だけ寝ます。」
「じゃあ、俺もい」
「キミは元気でしょ?」
緑川先生は佐々木の言葉をさえぎって、にっこりと笑って言った。
佐々木の顔は引きつっていたけど、私の付き添いに、と結局ついてくることになった。
「右京さん、辛くない?抱えてあげようか?」
「大丈夫です…」
「いいから」
緑川先生の、その裏のありそうな笑顔に圧倒された。
もはや、私に拒否権はないらしい。
「あ…すいません…じゃあ…」
「おい!何言ってんだよ!それなら右京、俺がやってやるよ!」
「佐々木は無理でしょ」
苦笑いする私。
佐々木は、かなり落ち込んでいるように見えた。
先生はそんな私たちを見て、クスっと笑う。
そして私を抱きかかえる前に、何かを佐々木に言っていた。
「バレバレなんだよ。姫香への態度が」
何を言ったかは私にはよく聞こえなかったけど、佐々木はそれを聞いて顔色を変えた。
佐々木は、真っ赤になったまま「てめぇさり気なく下の名前で呼んでんじゃねーよ!」と叫んだ。
「先生、何を言ったんですか?」
「ナイショ」
妖しく微笑む先生は、やっぱり色気があると感じた。
佐々木は、何かぶつぶつ言っていたけど、怖くて突っ込めなかった。
「じゃあ、右京さん。大人しく寝ててね?」
「はい…ありがとうございました」
保健室につくと、先生はベッドまで私を運んでくれた。
先生は私をベッドに寝かせてくれた。
「じゃあ、お大事にね」
そう言って先生は、カーテンを閉めてくれた。
私はふぅ、とため息をついて天井を見上げた。
カーテンの向こうでは、先生と佐々木が何かを話していた。
時々佐々木の声が荒くなる。
何の内容かは分からないけど、緑川先生はいつでも余裕だな。
やり取りを聞きたかったけど、睡魔としんどさが同時に襲ってきたので、私は寝ざるを得なくなった。