第十二話:揺れる想い、揺れる決断
長らく更新STOPさせていて申し訳ございません。
「お嬢様の理不尽な命令」も更新する予定です。
久々で色々と鈍ってしまっていますが(笑)、本文に入ります!!
翌朝。
警備員さんが屋上の鍵を開けたことで屋内へ入ることが出来た。
その付録として、勿論色んな先生に怒られた。生徒指導室…ではなく、会議室にまで呼ばれて長い時間お説教をくらうハメになってしまった。
これ以上は長引かせまいと、私と佐々木は肩を竦めて反省しているフリをした。
だから、どんな先生がいるのかなんて分からない。ただ下を向いて反省してますオーラを出していたから。
だけど。ふと、ほんの少し何かを思って顔を上げた。目の前にいる大勢の先生たちの顔を右側から順番に、ゆっくりと眺めていく。一番左まで見終わると、私はまた俯いた。
私たちにお説教をしている先生たちの中に、担任である皆川先生がいない。
複雑な気持ちだった。呆れているのか。だから来ないのか。私のことなんて、ドウデモイイカラコナイカラ―――…?
「「失礼しました」」
職員室を出ると、私たちは顔を合わせて笑い合った。
「怒られたな。」
「うん。まぁ、そりゃそうだよね」
私がそう言って軽く笑った後、私たちの間には沈黙が流れた。私からも特に話すことはなく、ただ佐々木の横に並んで歩いていた。佐々木も、私の横に並んで歩いているだけだった。
ふと佐々木を見てみると、怪訝そうな顔をしていた。何か佐々木の気を損ねるようなことを言ったかと、思い当たる節を探してみた。それでも分からず、ただ佐々木の顔…というより表情を見ていた。すると、今度は困ったような顔になった。
(ん?)
そこからは、コロコロと表情が変わる佐々木をずっと見つめていた。佐々木は私の視線にも気づかず、若しくは気づかないふりをして、一人で考え込んでいるようだった。そんな佐々木を見ているうちに、何だか笑いが込み上げてしまい、くすっと笑ってしまった。佐々木が私の笑い声に気づいて、こちらを振り返った。困ったような、驚いたような。そんな、よく分からない顔をしていた。その顔を見ると、もう私は笑うのを我慢しなかった。
「あははははっ!佐々木、さっきからなに面白い顔ばっかしてさ、もう笑わせないでよ!あはっ!顔コロコロ変わりすぎだしっ!」
「え?え?顔はコロコロ変わらねぇだろ……整形じゃあるまいしさ」
「整形しても顔コロコロ変えられないし!どんだけお金持ち?!ってか、気づいてないの?自分でさ。さっきからずっと顔が、怒ったり困ったりしてるよ?」
まだ尚半笑いになりながら、佐々木にそう言ってみた。彼はやっぱり不思議そうな顔をしていた。でも直ぐに真剣な表情になった。私は笑っていたが、彼の真剣な表情につられて笑うのをやめた。そして、彼を見た。
暫くの間、私たちは見つめ合った。何も言わず、ただお互いを見つめているだけ。息をするのを忘れそうなぐらい、変な空間。少なくとも私はそんな不思議なことを考えていた。
その時、今まで微動だにしなかった佐々木が口を開いた。
「……さっき、言ったこと。本気だよな?」
何のことか分からなかった。でも、初めてみるかもしれない佐々木の真剣な表情を前にして、「何が?」とは気安く聞けなかった。だから私は、ただ佐々木を見つめていた。そして、佐々木にアイコンタクトで助けを求めてみた。質問主本人に助けを求めてどうする、と気づいたのは、SOSを送った後だった。
「さっき、屋上で。俺……お前が好きって言ったじゃん。で…その。『忘れさせて』って言った、よな。それ、本気?」
あぁそのことか。と、心の中で合致し、すっきりした。
私はゆっくりと頷いてみせた。
「私なんかで…よければ」
「じゃあ…付き合ってくれるってこと?」
単刀直入なその言葉を、恥ずかしいとは感じなかった。私が佐々木に対して恋愛感情を抱いていないから?そう思ったが、あまりマイナスなことを考えるのはやめておきたかった。ただでさえ不安定な心の状況で、更に不安定なことを考え込むのが嫌だった。
「うん」
しっかりと頷いた。佐々木にとっては、「私のしっかりした決断」に見える頷きは、私にとってはただの「逃げ」でしかなかった。
「よっしゃー!」
喜んでくれるのが嬉しかった。こんな私を必要としてくれて嬉しかった。でも、私が頷いたのは楽になるため。これ以上自分が不安定になるのが怖くて。だから、私の決断が「逃げ」であることを考えないようにしていった。
*
私は、先生のことなんて好きじゃない。
私が好きなのは、佐々木だよ。
逃げてなんかいない。
佐々木しかみえない。
私、佐々木のことが好きなんだ……。
私たちが付き合って1ヶ月が過ぎた。ちゃんと1ヶ月記念もした。でも、私は未だにこんな風に自分に言い聞かせていた。もう、このことが実現出来そうな気がしていた。最近は皆川先生とまともに顔を合わせていない。そのお陰か、先生のことを考えずにすんだ。ちなみに、緑川兄弟とも顔を合わせていない。保険医の方とは、時たま廊下で会ったり保健室へ行った時に会う。でも、弟の慧の方とは結構会っていない。私を構うのが飽きたのだろう。元々彼は男女問わず人気があるし、女にも不足していなさそうだ。
でも、もうどうでもいい話か……。
悩むのが疲れた私は、考えることをやめた。
―――もういいじゃん、佐々木が好きだってことで。1ヶ月も付き合えたんだよ。だから、あの望みのない皆川のことなんてやめちゃえよ。
悪魔の自分が、そう頭の中で何度も私に囁いていた。でも、今となってはこれが悪魔なのか天使なのか分からない。もしかしたら、天使かもしれない。私を楽にしてくれようとしているのかもしれない。あぁ、なんて都合のいい女なんだろう。自分勝手な自分に腹が立つ。でも、悪魔の自分の言うことが救いの言葉に思えてきた。
そうだよ。そうだよ。皆川先生のことなんて、考えなきゃいい。望みなんてないもん。望みなんて…。
そう言い聞かせているうちに、そんな考えが自分の中に浸透していけるような気がした。
なのに。
なのに、なのに。
それなのに、貴方は。
折角思い込めると思っていたのに。貴方なんか好きじゃない、と。どうしてこんな時に限って、私の前に平然として現れるの?どうして、私を苦しめるのよ!皆川先生が私の視界に映った瞬間、そんな自分勝手な怒りを覚えた。
その時。
「右京」
名前を呼ばれた。
声の主は……、皆川先生だ……。